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希望の光

作者: finalphase

1. 中学1年生の中村涼太は憂鬱な気分で1日を終えた。


学校に行かなくなってからだいぶ月日が流れた。


お父さんも、お母さんも、僕のことを心配してくれている...


何とかしなきゃいけないって、分かってる。


でも、どうしても駄目なんだ...


生きる勇気がわかない。


学校に行くのが怖い。


人より劣っていると思われるのが、嫌われるのが怖い...


「逃げてばかりじゃないか」、心の中で呟く。


そう、辛いことがある度、嫌なことがある度に逃げ続けてきたんだ...



だから今の自分がある。


現実から目をそらしてきた自分、人生から逃げ続けた自分...


そんな自分が情けなくて、恥ずかしくて、涼太は子どものように泣いた。


暫くそうしているうちに疲れてしまい、涼太はいつのまにか寝てしまっていた。


どれくらい時間が経っただろうか...


声が聞こえる。


「もう全部投げ出しちゃえば良いじゃん」


辺りを見回して声の方を探る。


右肩に手の感触を感じた。


「こっちよ、こっち」


振り向くと、そこには丁度中学生くらいの、艶やかな髪を持った少女が立っていた。


「どうせ私も、あなたも幸せにはなれないのよ。辛いことも苦しいことも全部投げ出して逃げちゃおうよ。私と一緒に楽になろ。」


そう言うと少女は涼太の腕を引っ張って歩き出した。


「ちょっ、僕は...」


何かを言いかけた涼太の言葉を無視して、少女はどんどん進んでいく。


暫くすると目の前に中が黄金のように輝いているトンネルが姿を現した。


少女は涼太と一緒にトンネルの中を突き進んで行く。


トンネルを抜けると天空に聳え立つ高い城が姿を現した。


軽く30mは超えていそうな立派な城だ。


涼太がそれを見つめていると少女が静かに呟いた。


「私、あの城を追い出されたの。能力がないからって、使えないからって...」


そう言って少女はふと視線を落とした。


その声はとても悲しげだった。


涼太は思わず少女の方を見つめる。


艶やかな髪が風に靡いていた。


その時、大きな音と共に地面が揺れた。


まるで獣のような呻き声が聞こえる。


涼太はその声がする方向を見て思わず身体を硬直させた。


狼のような姿をした、鋭い牙を持った怪物の姿がそこにあったのだ。


それを見た少女はどこからともなく杖を取り出すと、怪物に向けて杖を振るいながら叫んだ。


「魔物よ、地に沈め、マジカルビーム!」


まるで魔法のように杖の先か黄色い光線が飛んでいく、怪物に直撃した。


しかし、怪物は微動だにしない。


それどころか攻撃を受けたことによって怒りをあらわにして全速力でこちらに向かってる。


「逃げるわよ。」


少女は震えた声でそう言うと涼太の手を引いて駆け出した。


しかし、2人のスピードよりも怪物の走るスピードの方が圧倒的に速い。


差はどんどん縮まっていく。


追いつかれる...


そう思った時、前方に崖が見えた。


少女は涼太の手を引っ張って全速力で駆け出し、崖の淵から飛び降りた。


どれくらい時が経っただろうか...


2人は薄らぐ意識の中で目を開いた。


全身の身体の傷が痛む。


「大丈夫?」と少女。


「何とか」と少年。


どうやら無事だったようである。


全身の傷の痛みを我慢しながら立ち上がる。


「さっきの怪物はケプラと呼ばれている。この世界を脅かす存在よ。」


少し間をおいてから彼女が言った。


「私の役目は、本当は、ケプラたちからこの国、ロゼッタ帝国を守ることだったの。だけど、さっきみたいに逃げてしまって城を追い出された。だって仕方ないじゃない、怖いんだもの...」


そう言ってハンカチで涙を拭う。


「泣かないで。まだ君がもといた場所に戻る方法はきっとある筈だよ」と涼太。


少女は黙って頷く。


満足行くまで泣き終わると、彼女は言った。


「私の名はジェシカ。人間の想像力によって生み出された悪役令嬢よ。悪役令嬢として生み出されてしまったから、特に悪いこととかしなくても、悲惨な末路を辿るしかないの。」


そう言って俯く。


涼太は黙って彼女を宥めた。



2. 南瀬ほのかは浮かない気持ちで家に帰った。中学生の時はやれば何でもできると思っていた。


でも、実際に待ち受けていたのは厳しい現実...


社会人になってから仕事ではミスばかり、上司には怒られっぱなし...


笑顔も減った。鏡を見るだけでそれが分かる。


テレビを着ける。


ニュースをやっている。将棋盤とコマが視界に映る。


「将棋の名人戦第6局で、挑戦者の一ノ瀬海翔七段が現名人の西園寺修二郎に勝利し...」


テレビを消す。気分が沈む。


かつて共に戦った仲間は社会で活躍している。


それに比べて、私は、私は...


これが天才と凡人の差なのか。


やっぱり、私駄目なのかな?


そう思った時、不思議な感覚に襲われた。


誰かが助けを求めている、そう直感した。


助けを求めている誰かをどうにかして助けたい、そう思った。


その瞬間、ほのかの身体は宙に浮き、光に包まれた。


その光はほのかを身体を別の世界へと運んだ。


見上げると天空に聳え立つ立派な城が見える。


起き上がると、ここは崖の下だということが分かった。


人の気配を感じる。


その方向を見ると身体中に怪我を負っている少年と少女の姿がそこにあった。


「大丈夫?」


慌てて声を掛ける。


「あなたは?」と少年。


「私は南瀬ほのか。別の世界からここにやって来た。って言っても信じてもらえないか。」


そう呟いて舌を出して笑う。


「いや、信じますよ! 実は僕もそうなんです!」


少年が力強く応える。


思わず少年の目を見つめる。


未来に向かって、一生懸命生きようとする目。


今この瞬間を懸命に生きようとする目。


少年の目には、そんな力強さが感じられる。


ふと人の気配がする。


髭を生やした顔の濃い男が現れる。


「シャ、シャロン様...」とジェシカ。


シャロンと呼ばれた迫力のある男の周りには沢山の取り巻きがいる。


「この世界の役立たずと、異世界から迷い込んだネズミが2匹。1人残らず処刑してくれるわ。」


抵抗する3人を取り巻きが縛り付ける。


「さっさと歩け」、そう言われて身体を蹴られながら城に連れていかれる。


城の中に入ると、3人は檻の中に入れられた。


処刑は3日後の正午だという...



3. 田中恵理は仕事を終えて家で料理を作っているところだった。


仕事では辛いこともたまにあるけれど、昔に比べたら遥かに贅沢な生活をしているように思える。


もう誰かに殴られることも無いし、貧困に苦しむ必要もないのだから...


それに、医療系の仕事は大変なことも多いけれど、とてもやりがいがある。


野菜を切っていると恵理は何だか変な感覚に襲われた。


ほのかの姿が頭に浮かぶ。


ほのかが背を向けて目の前から去っていく。


彼女が私に助けを求めている、直感的にそう悟った。


恵理は手を止めると急いで家を飛び出した。



一ノ瀬海翔は自宅でゆっくり休養を取っていた。


もう少しで幼少期からの夢が叶うかもしれない。


あと1勝... あと1勝すれば念願の名人だ...


だが、今は何も考えずにゆっくり休もう。


休養も人生においてはとても大切なことだ。


しっかり休んで、次の戦いに備えよう。


そう思って眠りについた。


だが、寝ている途中に目が覚めた。


何が起こっているのかも、賢い彼はすぐに直感した。


「ほのかの野郎が、俺に助けを求めてやがる」


そう言うと海翔は急いで靴を履いて家を飛び出した。



望月湊音はもうすぐ退勤するところだった。


自身も障害を抱えていたため、人生で苦労を重ねており、同じような立場の人を助けたいと願った彼は、障碍者施設で働くようになっていた。


彼もまたほのかの危機をおのずと直感した。


「遂に借りを返す時が来たみたいだ」


そう呟くと彼は一瞬で職場を去った。



白石梨乃は自宅でピアノを弾いていた。幼いころから才を認められていた彼女は今や世界的なピアニストだ。


「久々の休みなんだから、もっとゆっくりしたらどうだ」、と旦那の宏太が言った。


「あたしにとって、ピアノを弾いている時間は休んでいる時間と同じよ」


そう言った後、梨乃は少し驚いたような顔をした。


「どうした?」と宏太。


「昔の友達が、助けを求めているわ」


梨乃は風のような速さで家を飛び出していった。



4. ほのかたち3人の不安は最高潮に達していた。今は3日目の午前10時。


ここ2日間いろいろな方法を試したけれど、どれも効果がなかった。


というよりも縄が硬すぎて全くほどけないのだ。


3人が緊張した面持ちで時が来るのを待っていると、檻の中に人影が入ってきた。


その人影は銃を撃って3人の拘束をほどいた。


見慣れた姿が目の前に現れる。


「恵理!」


思わず涙目になりながら叫ぶほのか。


「しーっ」、そう言って恵理が口の前に人差し指を立てる。


檻の中の異変がこの城の住人に気づかれるのは早かった。


誰かがシャロンに事態を伝えたのだろう。


気が付くと、周りにはムカデのように身体が長く、鋭い牙を持った怪物に囲まれていた。


彼らはシャロンが処刑用に作った怪物、デムガである。


4人が慌てていると、空中から飛んできた弓が奴らの中の一体の頭に突き刺さった。


城の窓に美しい女が立って弓を弾いている。


「あんたたち、ここはあたしに任せて。早く逃げなさい。」


ほのかと恵理は白石梨乃にお礼を言うと、檻の外に飛び出した。


しかし、そこにはシャロンの取り巻きが大勢待ち構えていた。


恵理が銃で彼らを撃ち倒していくが、数が多すぎてきりがない。


取り巻きの内の1人が恵理の銃を蹴り飛ばした。


そして、4人の身体を刀で切りつけようとした。


4人は覚悟を決めて目を瞑る。


だが、身体に痛みを感じない。


恐る恐る目を開ける。


望月湊音が自慢の剣で、刀を受け止めていた。


「ここは任せてください。これでようやく借りを返せます。」


湊音の言葉に甘えて4人は階段を下りていく。


途中で冠を被った貴族のような恰好をした女が姿を現した。


「私がこの世界のヒロイン、エリザベスよ。この世界はすべて私の思い通り。さあ、邪魔者には消えてもらいましょうか」


エリザベスは空中からカマを取り出し、4人に向かって振りかざした。


次の瞬間、金属と金属が触れ合う音が聞こえた。


「テメェの想った通りにはなかなか進まねぇのが、人生ってもんだぜ。」


聞きなれた声がする。


2日前のテレビにも映っていた一ノ瀬海翔の姿がそこにある。


彼は釜を使ってカマを受け止めていた。


「ほのか、恵理、ここは俺に任せな。そいつらを連れて逃げろ。」


4人は廊下を駆け抜けて外に向かった。


「逃がすもんですか」、後でエリザベスの声がする。


でも、大丈夫だ。 海翔があんな奴に負ける筈がない。


外に出ると、そこにはシャロンと数体のケプラが待ち構えていた。


「何でケプラが」、とジェシカ。


「こいつらは元々俺の奴隷にするために作ったんだ。だがよ、あんまり働かせすぎると俺に反抗的な態度をとるようになる。だからそいつらの始末をおめぇに任せたのに、この役立たずがよぉ。」


シャロンがジェシカを殴りつけようとする。


それを止めようとした恵理とほのかの身体が吹き飛ぶ。


「マジカルトランスフォーマー!」


ほのかはなんとか立ち上がると恵理と同じ姿の幸福の戦士に変身した。


「奴隷にするために動物を作るなんて酷い。それに自分の過ちを他人に押し付けるなんて許せない!」


「恵理!」


「うん!」


「マジカルツインバースト!」


空中から火花のようなオレンジ色の光が降り注ぐ。


2人の強い友情が生む必殺技だ。


だが、シャロンはそれを片手で受け止めた。


2人は攻撃を続けるが、徐々に身体中のエネルギーが減っていく。


「もう、限界...」


声を揃えてそう言った時、シャロンに向かって弓と剣とカマが一斉に飛んできた。


シャロンが攻撃をひらりとかわす。


「あたしたちの存在を、忘れてないでしょうね」、と梨乃。


「いやぁ、なかなか手こずっちまった。エリザベスって野郎、見かけによらず強くってよ」と海翔。


「みんな、傷だらけじゃない」、と恵理。


「そういうあんたたちもね」、梨乃が突っ込みを入れる。


本当に全員、身体中傷だらけだ...


「そういえば、こうしてみんなで集まるのも久しぶりですね」、と湊音。


「何人集まろうが同じことだ。仲間の数が多いからって己惚れるなよ。」


シャロンが叫んで襲い掛かってくる。


「俺たちの絆の力を、友情の力を、今見せてやるぜ!サグレットアタック!」


海翔が手から放った赤い光がシャロンに命中した。


だが、シャロンは微動だにしない。


今度は反撃に転じて無数の火の弾を空中から出現させた。


「誰か何とかしろ」、と海翔。


「スーパーマジカルバリア!」


進化した恵理のバリアに酔って無数の火の弾は全て弾かれた。


「やりますね!俺も負けていられません、マジカルソードブレイク!」


湊音が投げた剣とシャロンの拳が空中でぶつかる。


「ずっと思ってたんだけど、この世界は何かおかしいわ。城の中の人がみんな悪い人だったり、悪役令嬢の定義がよくわからなかったり... 多分、この世界をつくった人は頭の中がお花畑なのよ。ミラクルフューチャーフィニッシュ!」


梨乃の放った弓がシャロンの頭に向かって飛んでいく。


しかし、シャロンはその攻撃を頭突きで躱した。


「マジカルスラッシュ!」


ほのかがシャロンに向けてはなった攻撃も手で軽く受け止められた。


「こうなったら、力を合わせますよ。」


湊音の声に他6人全員が頷き、空中に手をかざして叫んだ。


「天よ、我らに力を与えよ、マジカルオールスペシャルレインボー!」


空中からまぶしいほどの虹色の光が降り注ぐ。


これが7人全員の、友情の力...


シャロンはどす黒い光を放ってそれに対抗する。


7人が放つ虹色の光と漆黒の光が空中でぶつかり合う。


空中で物凄い爆発音がするとともに、7人の身体は宙に舞った。


そのまま地面に落ちる。


身体の痛みを抑えながら何とか立ち上がる。


「勝った...の?」とジェシカ。


「そうみたい...」と恵理。


「みんな、私のせいで、迷惑をかけちゃって、ごめんなさい...」


そう言ってほのかが俯く。


「何言ってんのよ。ほのかが困ってる時に助けるのは当たり前のことじゃない」、と恵理。


「あんたたち、本当に仲良いわね。まるで付き合っているみたい」、と梨乃。


そのセリフを聞いてみんなが笑う。


ほのかはこんな素敵な仲間たちを持てて幸せだと、心の中で思った。


中学生の時経験したことは決して無駄じゃなかった。


これからも上手く行かないことや思い通りにならないこともあるかもしれない。


でも、そんなときでも仲間たちのことを思い出して前に進んでいこう...


そう決めた。



5. あの後僕たちはそれぞれの居場所に戻った。


僕は勇気を出して学校に行き始めた。


そして、ジェシカと付き合い始めた。


もちろん、彼女が元々別の世界の住人だってことは、僕らだけの秘密だ。


そして、僕は永遠に忘れないだろう。


どんな困難に直面しても最後まで諦めない英雄たちの姿を、離れていてもいつも心がつながっている仲間たちのことを...


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