表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
7/32

第7話

 俺は東京タワー近くの喫茶店に戻ると、

「ほら、和馬。約束の金だ」

 そこで待っていた和馬に二百万円の札束を渡した。

「うわっ、すごい! あ、ありがとうございますっ。本当に取り返してきてくれたんですねっ」

「そういう約束だっただろ」

「は、はい、そうですっ。ありがとうございましたっ。本当に助かりましたっ」

 和馬は、必要以上に何度も頭を下げながら俺に感謝の言葉を口にする。

「貴様が言っていた通り如月恭子は偽名だったぞ。本当の名前は上野マミだ」

「上野マミ、さん……」

「ああ。復讐も果たしておいたからこれで依頼はすべて完了だな」

「あの、復讐ってどの程度のことをやったんですか……?」

 と和馬。

「聞きたいか?」

「え……?」

「本当に聞きたいのか?」

「……っ」

「聞いて後悔しないか?」

「あー……すみません、やっぱりいいですっ」

「そうか。その方がいいだろうな」

 マミには正座という世にも苦しい罰を与えたのだ。

 気の弱そうな和馬が聞いたら卒倒してしまうかもしれない。

「さてと、では俺は行くぞ」

「あ、ちょ、ちょっと待ってくださいっ」

 席を立つと和馬が俺を呼び止めてきた。

「なんだ? まだ何かあるのか?」

「えっとですね……ちなみになんですけど、彼女、僕のこと何か言ってましたか?」

 もじもじしつつ和馬はそんなことを訊ねてきた。

「貴様のことか? う~む……」

 和馬は何かを期待しているようなそんな態度で俺の返事を待っている。

「……そうだ、たしか貴様のことはオタク野郎と言っていたな」

「へっ?」

「では俺は帰る」

 俺の返答を受け固まってしまっていた和馬を店の中に置き去りにして、俺はアルカディアにまたがると、一路島根県のとあるコンビニ兼自宅へと舞い戻るのだった。

 その道中、俺は魔力を操りマミの現在の様子を探ってみた。

 するとマミは何事もなかったかのように、イケてる男女の輪の中心できゃっきゃと笑っていた。

「ふんっ、一か月ほど寿命を失ったことなどすっかり忘れているようだな」

 と俺はもらす。

 そう。

 俺はマミからたしかに二百万円を回収していた。

 金がなかったのにどのように回収したかというと――

 俺は対象者が望みさえすれば、その者が働いて稼げるであろう金額分の寿命を対価として、その者から吸い出すことにより、その寿命分だけの金を具現化できるのだった。

 マミにその禁断の秘術を施したところ、マミの寿命は一か月ほど減った。

 ということはつまり、マミは一か月もあれば二百万円を稼げるということだ。

 今回はイレギュラーな依頼だったので、俺はすべてが終わった後、マミの記憶を一時間ほど完全に消去した。

 俺のことは憶えていてもらってもなんら構わないが、俺が禁断の秘術を使ったことを記憶されるのは俺にとっては少々都合が悪い。

 よってマミは俺のことは何も覚えてはいない。

 正座をさせられたというマミにとっては地獄のようだった時間も含めてな。


「ただいま帰った」

「あら、おかえりベリアルさん。東京タワーどうだった?」

「うむ、なかなか立派だった」

 コンビニに一歩入ると、洋子が棚にあるおにぎりの消費期限を確認しながら笑顔で出迎えてくれた。

 時刻は午後六時。ちょうど店を閉める時間だったようだ。

 この世界のコンビニとやらは二十四時間営業が基本らしいが、洋子が営むコンビニは朝六時から夕方の六時までと決まっていた。

 わけは聞いていない。俺にはどうでもいいことだからな。

「母ちゃん、ベリアルが調子に乗るから話合わせなくていいって。たった二時間で東京に行って戻ってこれるわけないじゃんか」

 店のシャッターをガラガラと閉めつつ大地があきれた様子で口を開く。

「なんだ、信じないのか大地。俺のアルカディアならひとっ飛びだぞ」

「なんだよ俺のアルカディアって。恥ずかしいからよそでそんなこと言うなよな」

「別に恥ずかしいことではないぞ。今度乗せてやろうか?」

「はいはい、楽しみにしてるよ」

 大地はコンビニの制服を脱ぐと自宅の方へと戻っていった。

「大地の奴、何が恥ずかしいのかさっぱりわからん」

「ベリアルさん、大地に聞いたんだけど新しい仕事探してるんだって?」

 おにぎりや弁当を片付け終わった洋子が訊いてくる。

「ああ、もうみつけた。洋子には悪いがコンビニの仕事は俺に向いていなかったようだからな。勝手に決めたことは謝る」

「ううん、別にいいのよ。でもベリアルさん、どんな仕事みつけたの?」

「復讐代行屋だ」

「復讐代行屋?」

 洋子は年齢に似合わず可愛らしく首をかしげてみせた。

 だが、洋子は実年齢よりだいぶ若く見えるので割と様になっていた。

「ふっふっふ、聞いて驚け。今日だけでなんと五万円も稼いでしまったのだ」

「あら、ベリアルさんすごいじゃないっ」

 ぱちぱちと手を叩き俺を褒め称える洋子。

 やはり大地とは違って話がわかる。

「だからこれをやる」

 俺は和馬からもらった依頼料である五万円を手に取り、それを洋子に差し出した。

「うん? どういうことベリアルさん?」

「俺は洋子に感謝している。行き倒れていた俺を家に連れ帰って衣食住を与えてくれた。だからこれはその礼だ、受け取ってくれ」

「ベリアルさん、いいのよそんなの。私が勝手にしたことなんだからっ」

「いや。受け取ってくれ」

「ん~」

 すると洋子は苦笑を浮かべ、口元に人差し指を当ててから語り出す。

「……実を言うとね、ベリアルさんをみつけた時ちょっとだけラッキーって思ったの」

「ラッキー?」

「そう。うちって大地と私の二人だけでしょ、それで家がコンビニだから大地を中学生の頃から無理矢理働かせちゃってて……悪いと思ってたのよねぇ。でもあの子何考えてるかよくわかんないでしょ? だからうちにほかに誰かがいれば、私とあの子の橋渡しになってくれるかなぁって期待してたのよ。ごめんねベリアルさん」

 そう言うと洋子は俺に深々と頭を下げた。

「というわけだからそのお金はやっぱり受け取れないわ。せっかくベリアルさんが稼いだお金なんだからベリアルさんが自由に使って。ねっ?」

「どういうわけなのか洋子の言っている意味がよくわからないのだが……まあしかし、洋子がこの金を不要だということはわかった。それならば俺がいずれもとの世界に戻る時の資金の足しにさせてもらうぞ」

「うん。そうしてちょうだい」

 俺は金をズボンのポケットに入れ直すと「では俺も自分の部屋に行く」と言い残してコンビニの裏口へと向かった。


 俺と洋子と大地の三人で顔を突き合わせて晩ご飯を食べたあと、俺は大地が風呂を出るまでテレビを観て過ごしていた。

 テレビの画面には眼鏡をかけた中年の男と髪の長い女が映っていて、島根県内で起こった事件や事故などを報じている。

 いわゆるローカルニュース番組というやつだな。

 『……一刻も早い救助が求められます。えー、それでは次のニュースです。今日未明……』

「ベリアルさん、明日は仕事あるの?」

 そんな時、洗濯物をたたんでいた洋子が俺に顔を向けた。

「ふむ。今、確認する」

 俺は洋子に訊かれたのでスマホを取り出しメールをチェックしてみた。

 すると俺のスマホにはメールがすでに数十件も届いていた。

 この世には復讐をしたいが自分では出来ないという人間のなんと多いことか。

 だがそのおかげでかなり稼げそうだ。

「依頼が殺到しているようだからな、明日も仕事に出かける」

「へ~、商売繁盛しているみたいで何よりね」

「まあな」

「でもベリアルさん、たまには休日を作ることも必要よ。私も大地も週一回はコンビニを閉めて休んでいるから」

「そうなのか……わかった、洋子が言うのならたまには休みもとるとしよう」

「ええ、それがいいわ」

 洗濯物をたたみ終えたのか、洋子が部屋を出ていく。

 それと入れ違いに大地が部屋に顔を出した。

「おーい、ベリアル。風呂空いたぞー」

「ああ、今入る」

 俺はテレビの電源を消すと、立ち上がり自分の部屋へと向かう。

 そして着替えの服を持って風呂へと足を運んだ。

 この家では大地が一番に風呂に入る。

 そして次が俺で最後が洋子。

 普通は家長が一番先に風呂に入りそうなものだが、洋子曰く「若者のエキスが吸収できそうだから」という理由で最後でいいのだそうだ。

 ……人間はやはりよくわからん。

評価をするにはログインしてください。
この作品をシェア
Twitter LINEで送る
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ