第6話
「あ、あの、ほんとにあなたもついてくるんですか?」
「ああ。逃げられても面倒なんでな」
「べ、別に逃げませんってば……あんたみたいなバケモノから逃げたらあとが怖いわ」
「ん? 何か言ったか?」
「い、いえ、何も言ってませんっ」
俺はマミの住む女子寮とやらの建物の前までやってきていた。
だが、マミは俺が一緒に女子寮に入ることを拒んでいた。
もしかしたら女子寮には隠し通路でもあって、そこから逃げるつもりなのかもしれない。
だとしたら俺はマミから目を離すわけにはいかない。
「とにかく俺も一緒に行くぞ。これは決定事項だ」
「で、でもうちの女子寮、防犯カメラがついてますけどいいんですか?」
「よくわからんが構わん。貴様を一人にする方が問題だ」
「そ、そうですか……ま、まあいいですけど」
マミは不本意そうにしつつ女子寮へと入っていく。
俺もそのあとに続いた。
「ねぇ、その人男じゃない? マミ大丈夫なのっ?」
「あー、マミちゃんが男連れ込んでるーっ」
「上野さん、後ろの男性はなんなのですかっ!」
女子寮に入ると香水だろうか、何か甘い匂いが建物内に充満していた。
俺を見て建物の中にいた女たちが気色ばむ。
マミと俺はそんな女たちを無視して廊下を突き進んでいった。
「なんだ、マスクをしているというのにまた騒がしくなったぞ」
「こ、ここは男子禁制ですからね、男の人が入ったらそりゃ騒がしくもなりますよ……」
恨めしそうな顔で俺を見るマミ。
つい先ほどから俺に対してあまり怖がる素振りを見せなくなっている。
俺からはもう逃げられないと悟って観念したのかもしれないな。
「ここです。あたしの部屋」
立ち止まったマミが指差した先には小さな個室があった。
俺が住んでいる部屋と同じくらいの広さだった。
「入れ」
「……はい」
部屋の中にはテレビや冷蔵庫、パソコンや洗濯機などの電化製品が置かれていた。
「ふむ、なかなかいい暮らしをしているようだな」
「それはどうも」
「では早速、和馬にもらったプレゼントとやらをすべて返してもらおうか。もしくはそれに相当する分の金を返してもらおう」
俺が言うとマミは無言でうつむいてしまう。
「なんだ? 何を黙っている」
「そ、それがですね、もらったバッグとかアクセアリーとかは全部売っちゃって……そのお金ももうほとんど使ってしまって、残ってないんです……」
マミは俺の顔色を窺うようにちらちらと盗み見ながらつぶやいた。
「金がないのか?」
「は、はい……すいません」
マミは俺の視線から逃れるように下を向く。
「ふむ、それはまいったな」
和馬には金を取り戻すと約束してしまった。
その約束を反故にするなど俺のプライドが許さない。
「貴様、貯金はないのか?」
「す、少しだけ、十万円くらいならあると思いますけど……」
「ちなみに和馬からもらったプレゼント代はいくらくらいなのだ?」
「それはちょっと、よくわからないです」
「大体で構わんから言ってみろ」
「えっと……二百万円くらい、かなぁ……なんて」
首をかしげながら申し訳程度に、はにかみつつマミは答えた。
「二百万だとっ。そんなにもらったのか?」
「はあ、多分ですけど……」
「貴様、かなりがめついな」
大地のコンビニのバイトの時給が千円だぞ。
大地が一年間働いてようやく稼げる額じゃないか。
それをこの女、しれっとした顔してよくもまあ言えたものだ。
これではあまりにも大地が不憫すぎる。
「あ、あのそれで、あたしはどうすれば……?」
「仕方ないが貴様には体で払ってもらうほかないようだな」
「えっ!? か、体ってどういうことですかっ? ちょ、ちょっとなんですかっ! 近付いてこないでくださいっ! い、嫌ですあたしっ! 体を売るなんて絶対嫌ですぅっ!」
俺がマミに向かって手を伸ばすとマミは急に大きな声で叫び出す。
だが俺はそんなことは気にせず、マミの体を両手でがっしりと掴んだ。
「嫌ああぁぁぁーっ!!」