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第5話

 ここは東京のとある私立大学。

 俺がいた世界で言うところの金学舎らしい。

 俺はアルカディアに乗って、如月恭子と名乗る女がいるであろうこの大学までやってきていたのだった。

「おい、あいつ背高ぇー!」

「あんな奴、うちの大学にいたかっ?」

「つうかマジイケメンだしー!」

「あの人外国人かな? ハーフかなぁ?」

 大学の駐車場で学生たちが俺を遠巻きに取り囲み、じろじろと無遠慮に眺めてくる。

 なんだ?

 アルカディアが物珍しいので人間たちが騒いでいたのかと思いきや、アルカディアをしまってからも学生たちは口々に「イケメン」だの「ハーフ」だのとわけのわからない言葉を発して、俺から目を離そうとしない。

 敵意こそ向けられてはいないものの、見世物になっているようで少々気分が悪い。

 とそんな中、

「こんにちは~」

「すいませ~ん、名前なんていうんですか~?」

「うわ、間近で見ると超イケメンっ」

 学生の女三人が俺に話しかけてきた。

「名前はベリアルだ」

「ベリアルさんだって!」

「名前もカッコイイっ」

「ベリアルさんってハーフの方ですか?」

 女たちはなおも質問をしてくる。

「貴様らの問いに答えるから俺の問いにも答えてくれ」

「貴様だって~」

「言葉上手く喋れないんじゃない」

「じゃあ外国の人かもね~」

 と顔を見合わせうなずき合う女たち。

 俺と会話する気があるのかないのかどっちなんだ……?

「訊きたいのだが、この大学に如月恭子という女はいるか?」

「如月恭子? 誰?」

「知ってる?」

「知らな~い」

 女たちは示し合わせたかのように全員首を横に振る。

 アルカディアが間違うわけはないから、そうなるとやはり偽名か。

「ではこの写真に写っている女に心当たりはないか?」

 俺は和馬から預かっていた写真を三人に見せた。

 すると三人の内の一人が、

「あ、この人去年の準ミスじゃないっ?」

 と声を上げた。

 その声に呼応するかのように

「あー、そういえばそうだよっ。名前なんて言ったっけ?」

「上野マミさんだよっ。わたし去年実行委員やってたから憶えてるもんっ」

 残りの二人も口を開く。

「上野マミか……ありがとう、助かった」

「どういたしまして~っ」

「その人に会いに来たんですか?」

「もしかして彼女とか?」

 聞きたいことは聞けたのでさっさと移動したいのだが、女たちは俺の気持ちなど関係なしに食い下がる。

「彼女ってことはないでしょ」

「名前知らないはずないしね~」

「もしかして告白しに来たとかですかっ?」

 女たちはわあきゃあ騒いでいてらちが明かない。

 そこで俺は目の前の女たちに訊ねてみた。

「率直に訊くが、なぜ俺は学生たちに囲まれているのだ? 何か目立つようなことをしてしまったのか?」

「なんでって」

「そりゃあね~」

「だってね~」

「「「めっちゃイケメンだもんね~っ」」」

 女たちは声を揃えて声を大にした。

 

 女たちから解放された俺は人目のつかない場所まで移動していた。

 魔力で創り出した黒いマスクを着用したことにより、さっきまでのような熱視線は飛んでこなくなっていた。

「ふむ、この世界では顔の造りの良し悪しがそんなに重要なことだったとはな」

 女たちが教えてくれたことにより、なぜ俺が人目を引くのかやっと理解できた。

 この世界、特に日本では平均よりかなり背が高く、顔立ちが整っていて髪の長い日本人離れした外見の男は目立つ存在なのだそうだ。

 俺のいた世界では魔力がすべてだったので思いもよらなかった。

「さてと、ではあらためて上野マミとやらを探すとするか」

 俺は目を閉じると人探しの呪文を唱える。

 顔と名前が一致している相手にのみ使える呪文だ。

 マスクの中でぼそぼそっとつぶやくと次の瞬間、上野マミのオーラを感じ取ることが出来た。

 俺はその感覚に従って大学の校舎内を突き進む。

 そしてしばらく歩くこと五分、

「えぇーっ、マジでっ!? マミ超リッチじゃん!」

「マミ、また男に貢がせたんでしょ?」

「当ったりー!」

 俺は教室に我が物顔で居座っている上野マミを発見した。


「上野マミちょっといいか。話があるのだが」

 俺は教室に入っていくと上野マミに話しかけた。

 休み時間だったようで、教室の中にはほかに女が二人いるだけだった。

「ねぇマミ、誰この人?」

「知り合い?」

「え、わかんない……ってかあんた誰なの? なんであたしの名前知ってるわけっ」

 マミは不機嫌そうに俺に顔を向ける。

 女友達との会話の邪魔をしたから怒ったのだろうか。

「二人で話があるからついてきてくれないか」

 俺がそう言うとほかの女二人が、

「おおーっ!」

「マミ、告白じゃないっ?」

 と騒ぎ立てる。

「ちょっとやめてよ二人とも。っていうかマジで誰あんたっ?」

「俺は魔王様の右腕だった男、ベリアルだ。本郷和馬に依頼されて貴様に復讐代行しにきた。ついでに和馬が貴様にプレゼントした分の金を全額返してほしいそうだ」

「はぁっ? 本郷和馬ってあのオタク野郎のことっ? 何よ復讐って! 頭おかしいんじゃないっ。大体プレゼントだって向こうが勝手にくれたものだし、それを今さら返せとかマジ意味わかんないしっ」

 マミは椅子から立ち上がると俺に詰め寄ってきた。

「いいから帰って。あたしそんな奴に恨まれる筋合いとか全然ないからっ」

「それは出来ない相談だ。貴様にはまだ復讐もしていないし、金も返してもらっていないからな」

「あんたいい加減にしてよっ! マジで警察呼ぶわよっ!」

 沸点に達したマミは俺に食って掛かってくる。

 こちらの世界では美人とされているであろう整った顔がひどく歪んで見えた。

 一緒にいた女たちも、

「そうよ、復讐とかおかしいわよっ!」

「警察呼ぶわよ、でかぶつっ!」

 さっきまでの笑顔が嘘のようにマミに追随する。

 なんだ、この世界の女は口が悪いな。そして頭も悪い。

 俺のもといた世界では魔王様の右腕と聞けば女、子どもも皆震えあがったものだが。

 とそこへ、

「どしたの、マミちゃん?」

「なんかトラブってる?」

 男が二人教室に入ってきた。

 一人はつばのない帽子を被っていて、もう一人は首から十字架のついたネックレスをぶら下げている。

 二人とも一様にズボンを腰の位置で履いていて今にも脱げそうだ。

「あ、ちょっと聞いてよっ。なんかこの変な男があたしに絡んでくるんだけどっ」

 と言ってマミは俺を指差しながら男たちにしなだれかかった。

 男たちはマミに頼られまんざらでもない様子。

 すると、

「おい、てめぇ。マミちゃんになんの用だこらっ」

 ネックレスをしている方の男が俺に近寄るとぎろっとした目つきでにらみつけてきた。

「それはもうすでに説明したのだが」

「だったらもう一回言えよ、馬鹿」

 今度は帽子を被った男が俺に視線を飛ばしてくる。

「ふむ、わかった。俺の名はベリアル、本郷和馬にその女への復讐を頼まれた。ついでに金も返すようにとな」

「へー、そうかい。じゃあさっさと帰れ、タコっ!」

 ネックレスの男は吐き捨てるように言うと俺の左頬をぱしっとはたいた。

 それを見ていた女たちは、

「そうだ帰れっ」

 と息巻く。

 なんだこいつらは……?

 全然話が通じないぞ。

 大学に通っているくせにゴブリンほどの知能も持ち合わせてはいないのか……。

「仕方ない」

「あ? 何か言ったかこ――ぶふぁっ……!」

 俺はネックレスの男にされたことと同じことをし返してやった。

 俺に左頬をはたかれたその男は、机をなぎ倒しながら勢いよく床に転がる。

「「「「っ!?」」」」

 それを受け、絶句する学生たち。

 俺は倒れているその男に近付いていくと、男の首にかかっていた十字架のついたネックレスを強引に引きちぎった。

「う、嘘だろ……鍵谷はアマチュアボクシングのチャンピオンだぞ……それを、たった一発で」

 と帽子の男がつぶやいている。

 床に倒れた男はぴくぴくと体を痙攣させていた。

「十字架は魔除けの象徴だが俺には効かんぞ、こんなもの」

 俺は奪い取ったネックレスを手の中で握り潰し、粉々にしてみせる。

 そして、ぱらぱらとネックレスだったものの残骸を床に落としつつ、

「さてと、ほかに文句のある奴はいるか?」

 学生たちの顔を順に見て言った。

「……っ」

「……っ」

「……っ」

「……っ」

「ふむ、いないようだな。それではマミ、俺についてきてくれるか」

 こうして俺は、体をがくがくと震わせているマミを引き連れ教室をあとにしたのだった。


 俺とマミは大学の敷地内を二人で歩いていた。

 マスクをしている甲斐あって、俺に視線を向けてくる者はほとんどいない。

 学生たちが思い思いに友人たちと談笑などしている中、

「ところでマミ、貴様の家はどこだ?」

 俺は振り返ると、後ろをついてきていたマミに訊ねた。

「な、なんで……?」

 震える声で訊き返してくるマミ。

 怯えた様子で俺を見ている。

「決まっているだろう。貴様に金を返してもらうためだ。どうせ今は大金など持ち合わせてはいないのだろう」

「あ、あたしのうちに来るの、く、来るんですか……?」

「ああ。今ここで和馬に頼まれた復讐をしてもいいのだが、それだと金を返してもらえなくなるかもしれないからな」

「……っ」

 俺の言葉にマミの顔が青ざめていく。

 そんなマミが意を決したようにすっと立ち止まった。

「どうした?」

「あ、あの……あ、あたしをどうするつもりですか? ふ、復讐って何をするんですか……?」

 引きつった顔で訊いてくる。

「ん? そうだな……」

 訊かれて俺はふと考える。

 俺の思い描いていた復讐とは相手を殺すことなのだが、この世界の復讐とは果たしてそれで正しいのだろうか、と。

 銀次や銀次の兄貴の話では、殺しというのはあまり好ましくないやり方のようだったが。

 そこで俺は直接マミに問うてみた。

「貴様はどう思う? 復讐とは何をすべきだと考える?」

「え、あ、あたしですか……?」

 とマミは鳩が豆鉄砲を食らったような顔をする。

「ああ。もし貴様が復讐したい相手がいたらどんな方法で復讐をする?」

「え、えっとですね、そ、それは……」

 マミは一瞬考え込んだあと、何かを思いついたように顔を上げた。

「あたしがもし復讐するとしたら、その相手がちゃんと反省するまで正座させますっ」

「正座? 正座とはなんだ? 俺は昨日この世界に来たばかりだから情報が偏っているんだ」

 俺の言葉を受けてマミは顔をぱあっと明るくさせる。

「正座っていうのはきつい座り方の一つです。日本では悪いことをした人をその体勢で座らせて反省を促すんです」

「ほう、そうなのか。ちなみに貴様は正座は嫌か?」

「は、はいっ。もちろん正座は嫌ですっ。死ぬほど嫌いですっ」

「ふむ、なるほどな」

 これはいいことを聞いたぞ。

 この世界には正座というそれはそれはつらい地獄のような罰があるのだな。

「よし、決めたぞ。貴様への復讐方法は正座にしよう」

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