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第4話

「ベリアル様、こちらでよろしかったでしょうか?」

「ああ、構わない」

 俺は携帯ショップでスマホを購入する手続きをしていた。

 何やら複雑だったので、すべて店員に任せて二万円以下で済むようにしてもらう。

「ご使用方法はわかりますか? ご説明いたしましょうか?」

「わからないから説明してほしい」

「かしこまりました。それではですね、まずは電話のかけ方ですが……」

 このあと俺は一時間ほど説明を聞いてから携帯ショップをあとにした。

 

 一旦自宅へと戻る俺。

「いらっしゃいませーっ……ってなんだよベリアルかよ」

 大地が挨拶をして損したと言わんばかりの顔を俺に向けてくる。

「ただいま帰った」

「仕事みつかったのか?」

「ああ、復讐代行屋をやる。そのためにスマホを買ってきたぞ」

「復讐代行屋? なんだそりゃ?」

 怪訝そうな表情を浮かべる大地をよそに、俺はコンビニの裏口へと入り階段を使い二階に上がっていく。

 コンビニの二階が洋子たちの住む家なのだ。そして同時に俺の今の家でもある。

 廊下を突き当たって右が俺専用の部屋だ。

 俺は自室に入ると、早速スマホを箱から取り出し操作をし始めた。

「たしかメールはメールアドレスとやらを決めるのだったな……」

 俺は携帯ショップの店員から聞いた話を頼りにスマホに文字を入力していく。

 一時間かけて説明を聞いていたおかげで、意外とすんなりメールアドレスを作成することに成功した。

「よし、これでいいな。では掲示板に俺のメールアドレスと復讐代行屋を始めたことを載せて、と」

 俺はインターネットの掲示板に復讐代行屋をやっていることを書いてみる。

 それから自分の連絡先も一緒に書き込んでおいた。

「これで準備は万端だ。あとは依頼人が連絡してくるのを待つだけだな。ふっふっふ」

 俺はスマホ片手にベッドに横になると、胸を躍らせつつ依頼人からの連絡を待つのだった。

 

 しばらくして――

 ブウウゥゥーン……ブウウゥゥーン……。

 俺のスマホが音を出しながら震えた。

 俺はスマホの画面を確認する。

 するとそこには一通のメールが届いていた。

 早速開いて文章を読んでみる。

 

 [ベリアルさん初めまして、僕は本郷和馬という者です。

 年齢は三十三歳で、職業はエンジニアです。

 今回メールさせていただいたのは心から復讐したい相手がいるからです。

 その相手の名前は如月恭子といいます。といっても本名かどうかはわかりません。

 というのも僕はこの女性とマッチングアプリで知り合ったからです。

 如月さんは僕がこれまで出会った中で一番きれいで可愛い女性でした。

 しかも一番優しく接してくれました。

 恥ずかしい話ですが僕は今まで彼女がいたことがありません。

 なので僕は如月さんのことがすぐに好きになってしまいました。

 如月さんに僕のことを好きになってほしかったので、指輪やバッグ、時計などいろいろな値段の張る物を沢山プレゼントしました。

 如月さんはとても喜んでくれて、僕も付き合っているような気分になれてとても楽しかったです。

 ところがつい先日貯金をすべて使い果たしてしまい、それを如月さんに告げるとその日から会えなくなってしまいました。

 メールアドレスも変わってしまっていて連絡も取れません。

 僕は利用されていたのだとそこで気付きました。

 なので僕を騙した彼女に復讐がしたいです。

 そして出来れば今までにプレゼントした分のお金を返してほしいです。

 どうか僕の願いを聞いてください。よろしくお願いいたします。]


「ふむ。復讐したい理由はよくわからんが、依頼人であることには違いなさそうだな」

 俺はメールの送り主の本郷和馬にメールを返した。

 そして詳しい話を聞くため直接会う段取りをつけ、今から東京タワーという建造物の前で待ち合わせることにしたのだった。

 俺は部屋を出ると、階段を下りて、コンビニにいた大地に声をかける。

「大地、俺はこれから東京タワーというところに行ってくる。洋子には晩ご飯までには戻ると伝えておいてくれ」

「はぁっ? 何言ってんだよっ。ここは島根だぞ、たった二、三時間で東京まで行って帰ってこれるわけないだろっ」

「なんだ、東京タワーとはここから遠いのか?」

「当たり前だっ。馬鹿言ってないでちゃんと仕事探せよな、まったく……いらっしゃいませーっ」

 客が来たので大地は俺との会話を切り上げ、レジへと走っていってしまった。

 俺はコンビニを出るとその裏に移動する。

 コンビニの裏は空き地になっているためそれなりに広い。

「ふむ、ここならば問題ないな」

 つぶやくと俺はズボンのポケットからアルカディアを取り出し空き地に放り投げた。

 アルカディアというのは魔王様からいただいた超高速飛行できる、見た目はバイクのような乗り物だ。

 普段は持ち歩き出来るようにポケットに収まるサイズに小さくしてある。

「アンテっ!」

 俺は鍵となる言葉を唱えた。

 するとアルカディアが巨大化していく。

それにまたがり、

「さてと、久しぶりに頼むぞアルカディア」

 ピピピピピピ……。

 アルカディアは俺の声に反応して自動的に動き出した。

 俺を乗せたアルカディアが空中へと浮かび上がっていく。

「目指すは東京タワーだ」

 ピピピピピピ……。

 次の瞬間、アルカディアは驚くべき速さで発進した。


 ピピピピピピ……。

 あっという間に東京タワー上空に着くと、アルカディアが勝手に地上へと下りていく。

 俺はアルカディアから地面に降り立ち、辺りを見回した。

「パパ、かっこいい乗り物だよっ!」

「ねえ、何あのバイク……ていうか超イケメンじゃん、あの人っ」

「背高いなぁ、あいつ。外人か?」

「モデルみた~い!」

「なんだ、騒がしいな」

 周りにいた人間たちがこぞって俺に注目している。

 少し考え――そうか、アルカディアのような乗り物はこの世界では珍しいのだな。と思い至った俺は、

「アンテっ」

 呪文を唱えアルカディアを小さくすると、それを拾い上げてポケットにしまい込む。

「ふむ、東京タワーとはこれか。なかなか立派な塔じゃないか」

 東京タワーを見上げながら俺は感嘆の言葉をもらしていた。

 魔王様が生きていれば是非とも見せたかったものだ。

 とそこへ、

「あ、あの……もしかして、ベリアルさんですか?」

 眼鏡をかけリュックを背負った小太りの男が俺に声をかけてきた。

 おっかなびっくり俺を見上げている。

「ああ、その通りだ。ということは貴様が本郷和馬だな」

「あ、は、はいっ。よろしくお願いしますっ……」

 和馬は緊張の面持ちで何度も頭を下げてきた。

 暑いのか、ハンカチを手に握りしめている。

「だがなぜ俺がベリアルだとわかった?」

「え……だ、だって見たこともないような乗り物で飛んできましたし、背もすごく高いですし、顔もすごくイケメンですし、髪も真っ黒で綺麗で長くて、と、とにかく普通の人とは全然違って見えましたから……」

「ふむ、いまいち要領を得ないが貴様は見る目がありそうだ。では早速話を聞こうか」

「あ、ちょ、ちょっと待ってください。ここは人目が多いので移動しませんか? そこの喫茶店にでも」

 そばにあった店を指差し訊いてくる和馬。

 たしかにここは少し騒がしい。がしかし――

「喫茶店では金が必要なのだろう。あいにく俺は金を使い果たしてしまってな、一円たりとも持ってはいないのだ」

 そう。

 手に入れたばかりの二万円は丸々スマホ代に消えてしまっている。

「だ、大丈夫ですよ。僕がおごりますから……」

「そうか。貴様いい奴だな」

「あ、どうも、ありがとうございます……じゃ、じゃあ行きましょうか」

「うむ、そうしよう」

 俺と和馬は人の波をかき分けるようにして近くの喫茶店へと向かった。

 

「えっと、チョコレートパフェとアイスココアください」

「はい、チョコレートパフェとアイスココアですね。かしこまりました。そちらのお客様は何にいたしますか?」

 女の店員が愛想よく俺に意見を求めてくる。

「任せる」

「えーっと、任せると言われましても……」

「ベ、ベリアルさん、もしよかったら僕と同じものにしますか?」

 慌てた様子で和馬が言う。

「ああ、ならばそれでいい」

「じゃ、じゃあチョコレートパフェとアイスココア二つずつにしてください。すいませんっ」

「かしこまりました。少々お待ちください」

 持っていた紙に何やら書き込むと、店員は俺たちのテーブルから離れていった。

 和馬は一呼吸してから、テーブルの上に置かれていた氷の入った水をごくごくと喉を鳴らして飲んでいく。

「ふぅ……あ、あのそれでこちらに来てくれたってことは僕の依頼を引き受けてくれるってことでいいんですよね……?」

「貴様は記念すべき依頼人第一号だからな、もちろん引き受けてやる」

「そ、そうですか。ありがとうございます……それでですね、復讐したい相手なんですけど」

 声を落としささやくように言う和馬。

 ほかの客には聞かれたくないようだ。

「たしか如月恭子だったか」

「は、はい。でもメールでも書いたように多分偽名です。如月恭子で検索してもそれらしいインスタとかなかったので……」

「おお、インスタとはインスタグラムのことだな。携帯ショップの店員が言っていたから知っているぞ」

「あ~……そ、そうですか。えっと、それでですね、これが彼女の写真です。実はですね、僕少し前に待ち合わせの時、彼女の写真をこっそり撮っておいたんです」

「ほう、頭がいいじゃないか」

「あ、ありがとうございます」

 和馬は俺に褒められたからか、恥ずかしそうな表情から一転して満面の笑みを浮かべた。

「どれ、見せてくれ」

「は、はい」

 俺は和馬から写真を受け取ると、それを確認する。

 そこには腕時計に目をやっている若い女の姿が写っていた。

「こいつが恭子だな」

「は、はい。あの、名前と写真以外ほかに手掛かりがないんですけど大丈夫ですかね……?」

「ふんっ、そんなことは問題ない。俺を誰だと思っている」

「そ、そうですよね……あ、あと依頼料はどれくらいお支払いすればいいんでしょうか?」

 と和馬に訊ねられて、依頼料についてまったく考えていなかったことに俺は気付く。

 銀次に相場を訊いておくのだったな。完全に失念していた。

「そうだな……では五万でどうだ?」

「えっ、五万円ですかっ?」

 俺の言葉に和馬は驚きの声を上げた。

「なんだ、不服か?」

「い、いえ、とんでもないっ。てっきり十万円以上は請求されると思っていたので、僕今日一応三十万円持ってきておいたんです」

「そうか……なるほど」

 五万円では安かったということか……?

 それならば次回からは十万円にするか。

「金の話が出て思い出したが、貴様は復讐だけではなくこれまで恭子にやったプレゼント代も返してほしいそうだな」

「あ、そ、そうですね。出来ればでいいんですけど……だ、駄目ですかね?」

「本来なら復讐以外のことはするつもりはないが、さっきも言ったように貴様は記念すべき依頼人第一号だからな、その条件も飲んでやろう」

「ほ、本当ですかっ? ありがとうございますっ」

 喜びを爆発させる和馬。心底嬉しそうだ。

 復讐より金の方がいいのだろうか?

「じゃあ、これ五万円です。よろしくお願いしますっ」

「ああ。貴様はここで待っていろ、すぐ戻ってくる」

 俺は、和馬から手渡された五万円をズボンのポケットに押し込むと、一人喫茶店をあとにする。

 そして再び巨大化させたアルカディアにまたがり、

「この写真に写った女の場所まで頼む、アルカディア」

 ピピピピピピ……。

 アルカディアを発進させた俺は如月恭子のもとへと飛び立った。

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