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第2話

「おい、ベリアルっ。こんなことも憶えられないのかよ。さっき教えたろ、公共料金の支払いはこのスタンプを押すんだって」

「あー、そうだったな」

「しっかりしてくれよ。ただでさえ忙しいんだから、これ以上おれの仕事を増やさないでくれよな」

「おう」

 ここは現代日本。

 俺は島根県という場所のコンビニとやらで、俺より明らかに年下の綾瀬大地という男に怒られながら接客をしていた。

「ありがとうございましたーっ」

「ありがとうございました」

 コンビニを出ていく客の背中に向けて、大地と俺は決められた言葉を発しつつ頭を下げる。

「ふぅ、ったく。母ちゃんが働き手みつけたって言うからどんな奴かと思えば、全然役に立たないじゃねぇか」

 そう言って大地は俺を見上げ言った。

 大地は俺より身長が二十センチは低いくせに、態度は魔王様並みにでかかった。

 大地め。魔王様の右腕であった俺を役に立たないだと……洋子の息子でなかったら首をへし折っているところだぞ。

 俺は殺気をはらんだ目で大地を見やる。

 と客の波が一段落したところで、

「ベリアルさん、ご苦労様ー。大地、ベリアルさんにちゃんと仕事教えてあげてる?」

 一人の女がコンビニの裏口からレジまでやってきた。

 ここのコンビニのオーナーであり綾瀬大地の母親の綾瀬洋子だ。

 洋子は俺がこの世界に来てから初めて会った人間で、俺に衣食住を与えてくれた人間でもある。

「ちょっと母ちゃん勘弁してよ。ベリアルってば全然使えないよ」

「こら大地、失礼なこと言わないの。ベリアルさんごめんねぇ、大地が生意気言って」

「いや……別にいい」

 洋子には世話になっているからな、大目に見てやる。

「ありがとうベリアルさん。ほら、大地も謝りなさい。ベリアルさんは外国から一人で日本に来て、身寄りもないしお金もないし大変なのよ。優しくしてあげなきゃ駄目でしょ」

 と大地を叱りつける洋子。

 洋子は俺のことを、貧しい国から来た留学生という部類の人間だと思い込んでいるようだった。

 よくわからんが、この際利用できるものはなんでも利用してやる。

「だって何度言っても憶えないんだぜ。これならそこらの高校生雇う方がまだマシだって」

「もう、意地悪言わないの。大地だってはじめは憶えるのに苦労したでしょ」

「おれはそん時まだ中学生だったんだぞ。ベリアルは二十五歳だろ、もういい大人じゃんか」

 大地は俺を指差しのたまう。

 馬鹿め、俺の本当の年は二百五十歳だ。

 お前など俺の十分の一も生きていない赤子のようなものではないか。

「いい加減にしなさい大地、早くベリアルさんに謝らないと今日から時給五百円にするわよ」

「ちょ待ってくれよ母ちゃん、それはさすがにやり過ぎだろっ」

「だったらベリアルさんにきちんと謝りなさい」

「くっ……わかったよ。ベリアル、悪かったな」

 納得いっていない様子ではあったが、洋子に弱みを付け込まれ大地は俺に謝罪した。

「いいさ。大地の言うことなど俺には痛くもかゆくもないからな」

「なっ!? おい母ちゃん、ベリアルの奴全然反省してないぜっ」

「はいはい。じゃあ私は出かけてくるから大地、あと頼んだわよ。ベリアルさんも頑張ってね」

「おい、母ちゃんってば!」

「ああ、行ってくるがいい」

 洋子がコンビニを出ていった。

 残された俺と大地でまた仕事再開だ。

 すると、大地が何か言いたそうな顔で俺を見上げてくる。

「なんだ?」

「ベリアル、あんた正直言ってこの仕事向いてないと思うぜ。おれん家に住まわせたり親父の服を着たりってのはまあいいとしても、おれの仕事の邪魔されちゃ困るんだよな。おれが高校行ってない理由はな、まあおれの頭が悪いっていうのもあるんだけど、母ちゃんに負担をかけたくないからってのもあるんだ。だからベリアルのせいでこのコンビニが立ち行かなくなったり、母ちゃんが二人分の給料払ったりってのは勘弁なんだわ。わかるか?」

 照れ隠しなのか、頭を掻きつつ大地は話す。

「ふむ、そうなのか」

「ああ。だから悪いけどここは諦めてほかの仕事を自分で探してくれないか」

「……なるほど、言いたいことはよくわかった」

「ほんとかっ」

「ああ。俺もコンビニの仕事は性に合っていないと思っていたところだからな。では早速これから新しい仕事を探してくる。洋子には上手く言っておいてくれ」

 俺は大地にそう言い置くと、コンビニの制服を脱ぎ捨ててコンビニをあとにするのだった。


「……なぜだ? なぜ採用されない」

 俺は街に出向くと、求人募集している店に手当たり次第入っていった。

 だが、どの店の人間も俺と一言二言話しただけで「きみ、その言葉遣い直してから来なさいっ」と俺を追い出す始末。

 俺の言葉遣いのどこがおかしいのだ。

 日本語はちゃんと話せているはずなのだが。

 新しい仕事を探してくると大地に言ってコンビニを出てきた手前、手ぶらではさすがに戻れない。

 魔王様の名に懸けて必ずや新しい仕事をみつけなくては。

 そして大金を稼いで、いつの日かもとの世界に戻る方法をみつけてやる。

 

 商店街をきょろきょろ見回しながら歩いていると、電信柱に一枚の張り紙をみつけた。

 [求人]という言葉を目にした俺は立ち止まる。

 張り紙をはがして手に取ると、

「なになに……」

 そこに書かれていた文章を読み上げた。

「求人募集。腕っぷしの強い人、格闘技経験者、身長百八十五センチ以上の人大歓迎。日給五万円のバイトです……か。ふむ、日給五万円ということはコンビニのバイトなんぞよりよっぽど稼げるではないか。なんだ、こんないい仕事がこの世界にはあるのだな」

 俺のコンビニの時給は千円だと洋子は言っていたからな。

 明らかにこっちの仕事の方が割がいい。

 俺の身長は百九十センチ近くはあるはずだし、腕っぷしも問題ない。

 何せ、俺は魔王様の右腕だった男なのだ。

「よし、行ってみるか」

 俺は張り紙を握り締めると、張り紙に書かれていた場所へと向かうことにした。

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