モブおじを殺して病む夢
その週は高校の夏期講習の前のトイレ掃除当番だった。
毎日全裸のジジイがいて、ありえんほど汚している。汚れ方がホラーゲームのそれ。
「ちゃ〜んと、掃除、しなきゃ、ダメじゃ、ないか」
などと肩を抱き耳元で吐息混じりに不自然な区切りでしゃべる脂ぎったジジイ。
よくあるエロ同人のモブおじの姿。誰やねん。
こんなの堂々と存在する学校はToLOVEるぐらいである。
3日目にいよいよ身の危険を感じ、肩に回してきた左手の指をボキボキに折った。首を締め落とし、右手の指もすべて折り胸部を念入りに踏みつけ肋骨や臓という臓を破壊し4階の窓から放り投げた。
我を忘れてボコっていたせいで始業時間直前で、課題が終わっていない。先生に詰められる。
ヤツが居たから寝ても覚めても怖くて毎日課題どころではなかったのに…
放課後、ぶん投げたヤツの死体を見に校舎沿いの道に出た。
殺人犯は現場に戻ってくる、と聞くたびに効率悪くてアホだなと馬鹿にしたくなる話を思い出したのは、観察を終えたあとだった。
10本の指はそれぞれが生花のように自在な方向に広がっている。
身体は伸び切って、もちろん呼吸も脈も見て取れない。
しかし炎天下の埼玉に半日転がっていたとは思えない血色の良い、生ある顔色だった。健やかな死体と目が合い、脂汗が止まらない。
拳を振り上げたが、とどまった。今から念を入れると正当防衛を主張できる範囲を逸脱してしまう。
主張って、誰に?
誰が私の話を聞き信じてくれる?
この世は恨み憎しみ蔑みですべてが敵なのに?
私がどんなに冷静にも悲観にも喜劇にも語ろうとも悪者はただ一人 語ラ瀬万里 に決まっている。
ヤツは普通に道路で散歩してただけと大衆の事実は決めつける。
こんな人類だとは常々感じいていたはずだろうに、手遅れになるまでダラダラと過ごした半生が心底無駄だったと改めて痛む。
一切のくねりなく真っ直ぐ校舎沿いから伸び続ける路。
家の方向へ足を引きずる。
足にヤツがしがみついているように動かない。
何度も振り返って誰も何もない田舎を見渡し、吐くばっかりの息を重ねる。
決して帰るわけではない。
行き場も生き場もない体が向かうのが、たまたまそちらだっただけだ。
肉体など脱ぎ捨てさせてくれる速度違反のイキリバンが今に限って通らない。
長い影までもが主人をあざ笑う。