練習
襲われる心配は結局、杞憂となっていた。
鳴き声ならまだしも、足音すら聞こえなかったのだから、そんなことも言える。
ある程度の距離があって聞こえていない可能性もあるが、それにしても、なにも聞こえなかったのだ。
安全地帯としか言いようがないほどに、脅威を感じなかった。
まあ、注意深くいることに越したことはないだろう。
目覚まし程度に思考をめぐらしたところで、俺は魔法の練習を始めることにした。
ズズズ・・・と小さい地響きのような音を鳴らせながら地面を上へ隆起させる。
俺が今しているのは俺の寝床の拡張だ。
魔法の練習を辞めたわけではない。この作業が練習になるのだ。
人力ではなく魔法の力を使い、作業をしているため、魔法の練習になるわけだ。しかも生活範囲が広くなる。まさに一石二鳥だろう?。
拡張方法は至って簡単。壁を堀に被せるように崩す。次に、以前の方法で前日に作った物と繋ぎ合わせるよう広げる。
これだけだ。単純だから、能力が使える奴なら誰でも出来る。
規模は、前の時の半分程度に収めておく。
そして、数分経った頃、壁は以前よりも広く立派な物となっていた。
・・・刑務所にいるようで気分が落ち着かない。まあ、この壁によって外と隔離できているのだから別にいいが。
とにかく、拡張は完了だ。
しかし、魔法の練習はまだまだ続けて行く。
「ふぅ・・・」
呼吸を整え、余分な思考を少しずつ切り落としていく。思い浮かべるは、青く燃え盛る炎の球だけ。
だんだんと手に温かみが出てくる。暖かい・・・
・・・熱い!
「あつ!」
先程まで溜まっていたと思われる火の球一瞬にして、消えてしまった。
失敗だ。手の近くに生成するのがいけなかった。
少なくとも間隔が10センチぐらいでは火傷をしそうだ。
・・・というか、そもそも手のヒラから出すこと自体しなくていいんじゃないか?
なんという凡ミス・・・
少し遠く離れたところに出すことを思考の片隅に入れる。
「今度こそ・・・」
そして、もう一度先程まであったはずの炎を思い出す・・・
少したったころ、目を開けると・・・
成功の印である、丸く青い炎があった。
今、俺の顔には満面の笑みが浮かべられているだろう。
ここまできたら後は簡単だ。消すことを考えない限り場合は今の所、温度・形はそのままで保たれるはずだ。
しかし、ここからが本題となってくる。
それは、“移動“だ。
簡単なように思えるが、いざ移動させると自分の方向に向いてしまい焼け死ぬ、なんてこともあるかも知れない。
自分が作り出したもの、しかもそれで焼け死ぬなど絶対に避けたいところだ。
できるだけ、辞めたかった作業ではあるが、基礎中の基礎であるため、避けて通ることは不可能だろう。
俺は次の練習へと切り替えていった。