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アナザー・リバース ~未来への復讐~  作者: 峪房四季
閑幕 2
89/138

閑幕 御縁司の自己啓発③

次話の投稿は翌01:00台に投稿します。

 

 脳が揺れる。

 自分が蹴り出した足が生み出す推進力が司の想像を超えていた。

 だが、それでも全身に満ちる〝D・E〟は司の欲望を叶えるために動く。


 脳震盪は起こさせない。

 踏み出した司よりも早く向かって左に回り込んで来る紗々羅に首も右目の間に合わなかったが、左目だけが辛うじて間に合わせてその動きを捉える。


 紗々羅の顔が驚愕した。

 自分の動きを司の視界から切りきれなかった。

 その僅かな隙が司に左腕の裏拳を放つ余裕を与え……。



 ――ギィンッッ!!



「なッ!?」


「ぐぅうッッ!!!!」


 弾いた。

 紗々羅が太刀に勢いを乗せ切る前に弾き返した。

 今まで放たれた刃を受けることからでしか状況を組み立てれなかった司が、ここへ来て初めて初手を取った。


 階層を上げさらに適合性が上がった身体と、初めて出来た後輩にお手本とならねばという人生初の責任感。

 心身が合致した〝もっと上へ〟という思いが、彼を紗々羅に()()()()()()()域にまで引き上げていた。


「――しぃッ!!」


 太刀が弾かれ両手が上がる紗々羅。

 司は間髪入れず間合いを詰めて捻り込んだ腰から空気を弾くほどの右ストレートを放つ。


「ふはッ!」


 驚愕から歓喜へ。

 紗々羅の顔が狂喜に染まり、弾かれた腕を戻すのではなく空中で丸まる様に足を曲げ込みその両足裏で司の拳を受けて弾丸の様に壁へと弾き飛ばされる。

 だが、華奢な身体では受け切れずとも全身で勢いは殺し、壁に垂直に着地して軽々と床に降り立つ紗々羅。


 無論、司も放った拳の感触で紗々羅がそのまま何も出来ずに壁へ叩き付けられることはないだろうと読んでいたのですぐに追撃を仕掛けようとしていたが、壁際に立つ紗々羅が片手の掌を差し向ける様に制していたので、司は一歩踏み出した体勢で首を傾げつつも動きを止める。

 ちなみにここまでの一瞬の攻防を外野にいた美紗都には、部屋の真ん中で向かい合っていた二人が消えたかと思った次の瞬間には司がこちらに背を向けていて紗々羅が遠くの壁に瞬間移動した様にしか見えていなかった。


「きひひッ! なになになにぃ~~? いいじゃないのさ……司君♪ 首領にやられてまだちょっとダメージが残っている分を差し引いても、今の君には十分であろう速度は出したつもりだったのに……このままじゃ格好悪いことになっちゃいそうぅ……だからぁ」


 少し伏せ気味なせいで前髪に目元が隠れてしまっているが、口元には見ているだけで寒気がする様な鋭利な笑みを浮かべている紗々羅。

 そんな彼女は司に向けていた片手を一度ギュッと握り込んでから、またすぐにその手を開くとシュルリと細い帯紐が手品の様に現れる。


 紗々羅はそれを振り上げ自分の身体へと手慣れた動きで巻き付ける。

 どうやらその帯紐自体に特殊なモノがあった訳ではなく、それは単なる着物の袖を捲り止める襷であった様だ。

 しかし、襷を結び細枝の様な白い両腕を露わにし、腰を落として前後に開いた足に裾を掛け、その足袋上から生足も晒した紗々羅は……。



「うん……久しぶりだけど、まぁまぁいい感じぃ♪」


 ――ピシッ! パキッ!!



 何らかの手応えを感じている様子の紗々羅。

 すると、背後の壁と床がまるで紗々羅から放たれる()()に耐えられないかの様に細かな亀裂を次々に走らせていく。


 そしてその()()は次第に司のいる場所にも届いて来た。

 それは、最初の向かい合っていた時の爆発的で暴風の様な圧と比べると、まるで朝霧の様に静かで落ち着きすら感じられるほどのゆったりとしたモノ。

 ただ、何故か不意に()()()()()()()()感じた。


「な、なんだこれ? これが、紗々羅さんの……能力ですか?」


 全身に鉛を乗せられた様な感覚はこれまでにも味わって来たが、これはもはや錯覚ではない。

 実際に間違いなく身体が重く、まるで水の中にでもいる様な腕の軽い上げ下げにも妙な負荷を感じた。


「正解♪ 私、難しいことは分かんないけど、良善さん曰く〝分子の結合と分離〟を操る能力って表現するらしいわ。でも、私はあんまりその能力が使えないの。司君の〝D・E〟みたいに最新型ならイメージでどうにでも出来るんだろうけど、一個前の型は割と使い手も頭良くないと上手く使えなくてさ……まぁ、私は普段そこまでこの能力を頼りにはしてないの。でも、たまには使っておかないとね。司君がいい感じになって来たから見せてあげるのもいいかと思ってね。ちなみにこの私の能力が今どうこの状況に作用しているかは分かる? 良善さんの教え子さん?」


「…………」


 司は片腕をグルグルと振ってみる。

 やはり普段より明らかに重い。

 だが、何度か繰り返していると段々その腕に元の軽さが戻って来た。


「分子の結合と分離…………ひょっとして、空気中の酸素とか水分とかその他諸々を全部手当たり次第に無理矢理くっ付けてるとか?」


「おぉ! 私に説明を諦めた良善さんが最後に言った言葉とほぼ同じ! 多分それが正解! 私はね、私の肌に触れた物を次々とくっ付けていけるの。だからこうして腕や足を晒すとそこから能力の効果が広がっていくって訳。でも、よく分かんないし面倒臭いからなんかこう……周囲にある物をとりあえずぎゅ~~って集めて固めているって感じ」


 どうやら紗々羅は自分の能力をしっかり理解していないらしい。

 ただ、それは司とは違い本人に理解する気が無いといった方が正確な様だ。


「良善さんには随分と惜しまれたわ。私がちゃんと能力を使えば、人や物に触れただけでそれをバラバラに出来るし、人と人、物と物、人と物、何でも全てをグチャグチャにくっ付けることも出来る。あとは酸素だけを厳選して集めて人を毒殺出来たりするとか……意味が分かんないよね? 何で酸素が毒になるのよって感じだわ。でもまぁ、私には私で()()()があるからそっちがメイン、この難しい面倒な力はあくまでサブよサブ」


 そう言って紗々羅は構えた太刀を掌でクルックルッと回し微笑む。

 ナノマシンを操る能力者ではなく、あくまでも自分は剣士だということか。

 どうやら単なる宝の持ち腐れと言うよりは紗々羅の中の主義に沿っていないという感じの様だ。


「なるほど……あんまりしっかり使う気は無いから、とりあえず周囲のモノを適当にくっ付けて〝重たい空気〟を作って相手を動きにくくしてるって訳ですか。そんで、分離させることも出来るから自分が動く時はその進路だけ元に戻して自分は影響を受けないと。良善さんが惜しむ訳だ。せっかくの凄い能力を全然使いこなしてくれないんだもん」


 紗々羅らしいと言えば紗々羅らしい。

 だが、司にはそこで一つ疑問が浮かぶ。


「ただ、それだときっと良善さんは紗々羅さんのことをもっと毛嫌いしているはずなんですよね。自分の持つ力を使いこなそう(向上させようと)としない……あの人にとっては十分ブチギレ案件のはずだ。そこら辺の理由は、今言ってた()()()が関係しているっぽいですね。どういう力なんです?」


「むふ♪ ヒ・ミ・ツ~~♪ 教えて欲しければ私を倒してごらん。降参させて地面に倒れる私に顎クイさせれたら、トロトロ顔で媚びながら全部教えてあげる♪」


「はッ、何それ? めっちゃゾクゾクしそう……」


 両拳を握り俄然やる気を出す司。

 しかし、ただでさえ圧倒的スピードを誇る紗々羅がフィールドアドバンテージまで握って来るとなると、それを制するのはかなり厳しいだろう。

 となれば……。


(俺も使っていくしかないよな……)


 七緒の戦意を一瞬でゼロにした司の固有能力。

 ただ、正直司はまだその能力を正確に理解出来ていない。


 相手を恐怖させる能力? 相手を自分の言葉に従わせる能力?


 その辺を明確にするのも良善からの宿題の内。

 そして、それを検証する上で紗々羅ほどの実力者はまさに最適と言えるだろう。

 チラリと外野へ目を向けると、美紗都はポカンと口を開けて固まっていて、曉燕と七緒も司の動きに唖然としたまま。


 しかし、その横で石像の様に固まってひたすら司を凝視しているルーツィアだけは少し雰囲気が違う。

 恐らく司の能力がどんなモノかを見極めようとしているのだろう。

 ならば、第三者視点役はおまかせしよう。


(よぉし……やるか!)


 気合を入れる司。

 血色の両目が一段深く濃い色へと変わり、赤黒い靄が目尻からゆっくりと溢れ始める…………。


読んで頂き、ありがとうございます!

投稿間隔に関しては、Twitterなどで

告知してます。良ければ覗いてみて下さい!


峪房四季 @nastyheroine

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― 新着の感想 ―
[一言] 良善さんが説明諦めるってその一点に関しては首領レベルなのでは?
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