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アナザー・リバース ~未来への復讐~  作者: 峪房四季
Scene8 反転攻勢の狼煙

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scene8-8 獰猛な女達 後編

次話は翌00:00台に投稿します。

 七緒達と揃って訓練室へやって来た司。

 自分を鍛えるためだけに使っていた何もないただ広いだけの空間だが、もはやかつて住んでいたボロアパートよりも遥かに愛着が湧いていた。

 しかし、ここももうすぐ離れなくてはならないとなると少し寂しく感じてしまう。

 そんな風にちょっと哀愁に浸っていると、丁度タイミングも良くすぐに美紗都もやって来た。


「こんばんわ……って、うわぁ! なんかいっぱい居る」


「お、いいタイミングで……って、おぉ!?」


 振り返った司は美紗都を迎え様としたが、その出で立ちを見て思わず呆気に取られてしまう。

 そもそも司の美紗都に対するイメージというのは絵に描いた様な真面目ちゃんといった印象。

 その上、あんな親でも生まれ育った環境が神社だったとなれば染み着いた性格というのもあるだろうし、雰囲気からしてもそれに見合う物はずっと感じていて、きっと服装も落ち着いた清楚な感じを好むのだろうと勝手に想像していた。


 しかし、現れた美紗都のファッションはまるで真逆。

 黒のハイネックノースリーブにデニムのホットパンツを合わせ、肩出し臍出し太腿出しな大胆極まる肌色率。

 そして、何よりおかしかったのは、司よりも当の本人がその服装に落ち着いていない感じであったことだ。


「ど、どう? 似合う……かな?」


「あ、え? あ、あぁ……その、似合ってはいるけど、なんか大分イメージと違ってちょい驚いてる」


「あはは……正解。前までの私なら絶対選ばない服だよ。おへそ出すとか超はずい……けど、なんかもういっそ今までの自分じゃない自分になっていこうかなって思ってさ」


 まだ照れが残る美紗都。

 しかし、同じ目線の女性陣は特に美紗都に好奇の目を向けている様子は無く、女性のファッションなど全くの門外漢である司から見ても似合ってないことはない。

 寧ろ、その晒した肌率は自分の身体への自信の裏返し。

 無駄なぜい肉もないそのプロポーションは、ある意味司のイメージ通り真面目で規則正しい生活をして来たからこそ手に入る美ボディなのかもしれない。


(真面目ちゃんほど大胆に肌を晒すべし……深いなぁ)


 内心馬鹿な事を考えつつも、司は美紗都の「自分じゃない自分に」という言葉をちゃんと聞き洩らさなかった。


「いいと思うよ……そういうの。どんどん変わっちゃえばいいよ。今の君、凄く可愛いと思う」


「あ……うんッ!」


 思わず出た本音。

 だが、視界の端で紗々羅が「ププッ!」頬を膨らませて着物の袖で口元を隠しているのが見えて、なんて臭いセリフを吐いているんだ自分はと思ったが、不安を肯定して貰えて嬉しそうな美紗都のために照れ隠しの誤魔化しは何とか耐える司。


 しかし、それでもすぐにその表情は真面目な顔になる。

 いつまでもほんわかまったり新人歓迎会をしている場合ではない。

 ここに居るメンバーは、全員がこの世から消えることで喜ぶ奴らがいる命を狙われた者達。

 美紗都にもまずはその自覚を持って貰う必要があると司は考えていた。


「さて、早速だけど美紗都。君には今からこいつと戦って貰う」


 笑みを消して真剣な顔になって歩み出した司は、集団の端に控えていた七緒の前まで行き、その肩に手を置く。

 身体の前で両手を握り頭を低くして立っていた七緒はビクリと身体を震わせ、七緒の存在に気付いてスッと冷ややかな眼差しになる美紗都から視線を逸らす。


「……どういうこと、司君? その子、この前いた子だよね?」


「あぁ、桜美七緒……俺と君を殺そうとしていた奴らの一人だ。ちなみに今はもう俺の配下みたいのになってるから安心していいよ」


 トントンと七緒の肩を叩く司と明らかに声のトーンが落ちた美紗都。

 そんな彼女の視線に居たたまれず顔が青ざめていく七緒。

 そして、そんな彼女を見るニヤニヤ顔の紗々羅、失笑を浮かべるルーツィア、ハラハラと成り行きを見守る曉燕。

 場の空気はかなり気まずくなり始めていた。


「あ、あの……司様、やはり……その、私は……」


「説明して欲しいよ司君。その子、私を殺そうとした奴でしょ? なんでそんな子が司君の家来になってるの?」


「君だけじゃない……俺のことも殺そうとしてた。というより、俺に至ってはこいつが直に俺の人生を滅茶苦茶にしていた張本人でもある」


「じゃあ何で迎え入れてるのッ!? 全然分かんないんだけどッ!?」


 当然の意見だと思う。

 ただ、司は隣でガタガタと震える七緒の肩を撫でつつ、もうすっかり馴染んだ邪悪な笑みを浮かべて美紗都をたじろがせた。


「そういうのもありかなって思ってさ。俺を殺そうとしていたこいつは、まぁ一応自分が間違っていたことを認めて反省してる。俺はこの最低女を寛大な心で許してやったっていう格の差的な物を楽しませて貰ってるって感じかな? まぁ、それはあくまでおまけで、実際に俺が打倒したいのはこいつ一人なんかじゃなくてもっと大きなモノだから……」


 そこで司は七緒の肩から手を下ろして指で床を差す。

 すると俯いた七緒はスッとその場に跪いて床に手を付いて四つん這いになると、司は片足を浮かべて七緒の背中に足を置く。


「――んッ!?」


「俺の足置きになれて嬉しいよな、七緒?」


「あぅ……は、はい」


 顔を真っ赤にしながらも確かに頷く七緒。

 それは誰の目から見ても彼女が司に屈服していると分かる姿。

 美紗都はゾワッとさらに怖気付く。


「これが俺の仕返し。君は相手を殺したいのかも知れないけど、俺から言わせれば君は優し過ぎる。俺はさっさと殺してやるより、今君がこいつを「うわぁ」って見ているみたいに、こいつらに屈辱的な生き地獄を味わわせてやろうって思ってるんだ。まぁ……それを本人がその生き地獄をどう思うかは自由にさせてるけどね」



 ――ググッ!!



「――んん゛ッ!?」


 司が七緒の背中に乗る片足へさらに体重を掛ける。

 すると七緒はビクッと身体を震わせ、唇を噛みさらに顔を赤らめて悶えていた。


「よかったな……七緒? 今お前は誰の目から見ても〝正義〟なんかじゃない。クソ組織に騙されていたただバカ女だったってのがよく分かる。そう思われたいんだもんな?」


「は、はひぃ……わ、私……正義じゃ……ないって、お、思われたい……ですぅ……あぁッ!? つ、司……様ぁ♡ も、もっ……とぉ……♡」


 段々と声が上擦っていく七緒。

 乗せた足の膝に肘を掛けさらに司が体重を乗せると、七緒の声はいよいよ甘い響きさえ漂い始めていた。


「くくッ……責めは温いが、まだ中立な美紗都への教育と従僕の調教を同時に行うとはいいセンスであられる。私としては尻を振りながら靴を舐めさせたり、もっと床に踏み付けてあられもない声を上げさせたりするべきだとは思うが、光るモノは感じる運びだ」


「えぇ……そうかな? だって司君、さっき七緒ちゃんの頭を踏もうとしてたけど「流石にやりすぎかも?」みたいな感じで日和って、サッと背中に足をズラしてたよ? 今も体重掛けている様で重心はしっかり軸足に残してるし……まだまだ甘いでしょ」


(だぁぁもうッ! 細かいとこまでしっかり見てんなぁあいつッ!!)


 生粋な二人からすればまだまだひよっこサディストな司。

 しかし、今はそこではなく美紗都の意識改革だ。


「美紗都……こいつは今最低に無様だけど、それでも今の君よりは強い。というより君はまだ現状この戦いの中で最弱な部類だ。和成を任せてって言ってたけど、多分今会えば君はあのクソ野郎にさえ手も足も出ない……それでいいのかな?」


 七緒を落とすだけ落としておいてからのさらに下だという指摘。

 その司の言葉に流石の美紗都もムッとする。


「なんか司君、私の事試してる? 一体何をさせたいの?」


「さっき言ったろ? 戦い……あぁ、何かの比喩じゃなくて本当にガチの戦闘ってことだよ」


 司は七緒の背中から足を退かす。

 七緒はすぐに立ち上がるが、まだ若干息は上がっていた。


「七緒、お前が美紗都に本当に申し訳ないって気持ちがあるなら真剣にやれ。美紗都がもう誰からも自分を奪われなくて済む力を付けるためにしっかり奉仕しろ」


「ハァ……ハァ……し、承知……しまし、たぁ」


 頭をポンポンと叩かれた七緒はその言葉にスッと真剣な表情になると部屋の真ん中へ歩いて行き、司もスタスタと部屋の壁際で固まっていた紗々羅達の元へ歩み寄っていく。

 そして、一人取り残される美紗都は……。


「ちょ、待ってよ司君ッ!? せ、戦闘って……私、そんなの……どうしたらいいか……」


「難しく考える必要なんてないよ。拳で殴る足で蹴る……今はまずただそれだけでいい」


「そ、それだけって――」


「早くこちらへ来て下さい美紗都様。それとも、それとも怖いですか? ならちゃんと司様に「私は怖いから戦うなんて出来ない」と仰って下さい」


「………………は?」


 七緒の的確なアドリブにピクリと肩が跳ねた美紗都はびっくりするほど低い声を出し、その両目が一瞬にして血色に染まっていた。


「早ッ……あの子も〝D・E〟がエンジン掛かってんじゃん」


「割と安定しているのかと思ったら単に()()だけか。確かにこれはまずは〝慣らし〟を繰り返さねばならんな」


「そうですね……でも、あの手のタイプはやればやるだけ伸びるので、本人が感覚を掴み出すと成長は早いと思います」


(俺よりこの三人の方が詳しい……いや、まぁ当たり前なんだけどさ)


 ナノマシン持ちとしてのキャリアが違う三人の冷静な分析に自信を失う司だが、だからといって「お願いします」なんて無責任は出来ない。

 一度引き受けた以上、美紗都は必ず自分の手で〝Answers,Twelve〟の一戦力としての居場所を掴み取らせてみせる。


「じゃあ、始めようか。とりあえずどっちかが立てなくなるまで戦い続けて……はい、スタート」


「た、立て……ちょっと司君! も、もう少しレクチャーとか――」


「美紗都様……敵の前ですよ?」


「えッ!?」


 思わず司へクレームを付けようと振り返った美紗都。

 そこへ低い姿勢で一気に距離を詰めた七緒が美紗都の両腕を弾き上げてガラ空きになった脇腹へと掌底を叩き込む。


「――ぐぶッ!?」


 美紗都の足が床から離れ、身体がくの字に折れ曲がりながら吹き飛び地面を跳ね転がる。

 ただ、流石に一撃で沈めては意味が無いと加減したのか打ち込んだのは拳よりは幾分かマシな掌底。

 そして、ゴムボールの様に床を跳ねていく美紗都の身体も壁に叩き付けられるほどの勢いはなく途中で止まった。

 無論、それでも常人なら間違いなく今の一撃で内臓が再起不能になっていただろう。


「うぶッ!? ――おぇッ!? ゴボッ!? ゲホッ!? うぼぉ……えッ!? い、痛ッ……ちょ、待って……い、いきなり……こんな……おえッ!?」


 汚らしい嘔吐きを恥じらう余裕などない。

 打ち込まれた脇腹を押さえ、口から床まで唾液の糸が垂らしながら悶え震える美紗都。

 その脇腹にはすぐ痛々しい内出血の痣が広がるが、その広がりと同じくらいの速度ですぐに引いて行く。


 どうやらしっかり肉体強化は機能しているらしい。

 だが、司も経験済みだが受けた〝痛み〟はしっかり感じるので、美紗都の血色の目からはボロボロと涙が溢れていた。

 だが、もちろんそこで甘やかしたりなどしない。


「いきなり襲い掛かって来た敵に対してもそんな風に情けを乞うのか? 自分を殺そうとして来る奴らに「許して」って言うのか? くそダサいし相手は絶対手は抜かないぞ? だって君を殺すことは奴らにとって正しいことなんだからな。君……お前は死ぬのが正しい存在なのか?」


「――ッッ!?」


 腕を組み壁に背中を預けて発破を掛ける司。

 全く妥協する様子の無いその言葉に倒れ込む美紗都は手を床に立てて震えながらも立ち上がる。


「うッ……うあああああぁぁぁッッ!! もう何だっていい! やってやるわよッ!!」


 美紗都の中の常人として生きるなら切れてはいけない線が切れた。

 そして泣き顔のまま部屋の中央で立つ七緒に駆け迫り力任せに振り上げた拳を放つ。

 だが、もちろんそんなモノが当たる筈も無く、七緒はサッとステップを踏み美紗都の拳を躱しつつ、その足を払い転げ倒させる。


「きゃあぁッ!?」


 俯せに床へ倒れる美紗都。

 明らかに馬鹿にされたそのあしらいに今度はすぐに立ち上がり七緒を睨む。


「……当たってあげましょうか?」


「うるさいッッ!! 自分で当てるッッ!!!」


 司の足置きにされて悶えていた様なヤツに情けなど掛けられて堪るか。

 美紗都は拳だろうが蹴りだろうが頭突きだろうが、何でもいいからとにかく七緒へ一撃を見舞おうと飛び掛かる。


「…………」


「くふふ♪ 司君、スパルタだねぇ~~?」


 攻撃を全て躱され逆に返り討ちにされて痛め付けられる美紗都。

 その姿を助けもせず無言で見つめる司に、三角座りで膝の上に顎を乗せニヤけた視線を向ける紗々羅。

 それに対して司は美紗都と七緒の戦いに目を向けたまま口を開く。


「俺はあいつに死んで欲しくないだけです。相手は骨の髄まで腐った自己満集団だ。女の子が相手だろうが加減なんてしない。だから美紗都には死なない様に強くなって欲しい。俺が守ってやればいい話かも知れませんけど、あいつの命を守るのはやっぱりまずはあいつ自身であるべきだと俺は思うんです。それが一度全てを奪われそうになった俺達には譲るべきじゃない一線…………酷いっすかね?」


「いえ、すっごくいいと思う。私は〝俺が守るからお前は後ろにいろ〟とか言って女の子を後ろに下がらせる男には虫唾が走る。それ結局のところ女を男より下に見ている何よりの証拠だもん。勝手に女を自分のアクセサリー(女を守る俺格好いい)にしてんじゃないわよって感じ」


「同感だな。私は〝Answers,Twelve〟に席を頂く前は軍属だったが、そこでも最初の頃は何かに付けて「女だから」と勝手に周りが手加減……というよりも完全に舐められていた」


「それ、その後どうしたのよ?」


「一人残らず叩きのめして男性器も踏み潰してやった。司令官も病院送りにしたから一度軍法会議に掛けられてしまったな」


「ヒュ~~♪」


「フフッ、それは何ともルーツィア様らしいですね」


(すげぇ想像出来る……っていうか、グロいわ)


 思わず下半身がヒヤッとする司。

 それにしても、よく考えてみれば男女比一対五のこの状況で、内二人は殴り合い内三人は玉ヒュン話に花が咲くとは何たる状況か?

 半分は冗談だが、なんだか司は美紗都に今のままでいて欲しい様な気が若干して来たが……。


「当たりませんね……美紗都様。私はまだ能力も使っていませんよ? それでも動きが速過ぎますか? あ、鳩尾に膝蹴りしますね?」


「あぐッ!? お、ぇあ゛ッ!? ――ぐッ! だ、黙れこのッ!! ハァ……ハァ……そ、その眼鏡……叩き割ってやるッッ!!」


 相変わらずの大振りだが、もうすでに多少の攻撃には怯まず口から血が滴り落ちても御構い無しに攻める根性を見せ罵声にも覇気が乗り始めていた美紗都。


 これはもう手遅れだ。

 多分あの少女もいずれは鋭い牙を持つ雌ライオンへと成長して、女だからと舐めて掛かって来る男を去勢することも厭わぬ悪女になるだろう。

 自分がそう仕向けたのだから仕方ないと割り切りつつ、司は内心小さくため息を吐いた…………。




読んで頂き、ありがとうございます!

投稿間隔に関しては、Twitterなどで

告知してます。良ければ覗いてみて下さい!


峪房四季 @nastyheroine

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[気になる点] 想像することの話しないで大丈夫? [一言] まぁまずは殴りたいて欲を強くしていく感じかな?
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