scene8-7 獰猛な女達 前編
次話は翌00:00台に投稿する予定ですが、少々私用があり間に合うか不透明です。
もし遅れる場合にはTwitterで告知しますので、ご確認をお願いします。
美紗都との共闘盟約後、まず彼女の身なりや現自陣との顔合わせを済ませておこうとした司だったが、いきなり出鼻を挫く事態に陥る。
「女の子の着る服なんて用意出来るかよ……」
部屋から出る前に早速の難題。
とりあえずベッドから起きて椅子に腰掛け白湯を飲んでいた美紗都を横目に腕を組み途方に暮れる司。
「あはは……なんかごめんね?」
「いや、君が謝ることじゃないよ。ちょっと待ってて」
自分ではどうすることも出来ないと思い、司はそういえば自分の時もそうだったと思い、部屋の壁にある内線で〝1〟〝0〟〝1〟と打ってみた。
すると……。
『はい、デーヴァ詰所でございます』
「お、繋がった。あれ? その声……絵里か?」
『あッ!? 御縁様! はい! あなた様の従僕である絵里でございます! 何かご用命でございましょうか!?』
どうやらこの番号はビル内に控えている白服達に繋がる番号だったらしい。
そして、そのコールに出たのは屈服して白服入りした絵里だった。
「あぁ……うん、美紗都が目を覚ましたんだが、部屋に着る物が無くてさ。とりあえずいくつか着る物を用意してくれな――」
『はいッ! 畏まりました! すぐにご用意してお部屋に向かいます!!』
「あ、あぁ……よろしく」
その後、十分も経たずして白服達数人がキャスター付きワゴンを何台も引っ張りながら部屋までやって来た。椅子に座りポカンと口を開く美紗都を囲む様に配置されたそのワゴンの中には、まるで今からファッションショーでも始めるのかと思うほどの様々な衣類がズラリと揃っていて、さらにやって来た白服達の異様な服従っぷりも美紗都を気圧させる。
ただ、その点はハッキリさせておくべきだと思った司は、この白服達が元は美紗都を殺そうとしていた組織の者達であることを伝えると、急にその態度は冷ややかになる。
「美紗都様でしたら、こちらのお洋服など如何でしょうか?」
「自分で選ぶわ……似合うとか似合わないとか、私の事を勝手に決めないでくれる?」
「――ひぃッ!? も、申し訳ありません!」
(こっわ……)
ご機嫌を伺う様に近付いて来たデーヴァを一睨みで追い払い、自分で服を見繕い始める美紗都。
さっきまでとてもしおらしく愛嬌のある子だったのに、どうやら彼女の中にもデーヴァという存在に対する反射的嫌悪感が確立されている様だ。
(まぁ、そりゃそうだわな……)
まだ司より一段浅い段階で物事を考えているが、司はそれを否定するつもりはない。
自分を殺そうとした奴らと同類……そんな相手を邪険にすることのどこが悪いのか。
人間皆聖人君子なら争いなんて起きない。
それを改めて証明したのは外ならぬデーヴァ達なのだから存分に跪けと思う。
「美紗都、ゆっくり選んでていいよ。絵里、美紗都の着替えが済んだら彼女を俺の訓練場に連れて来い」
「承知しました」
傍に控えていた絵里が直角になるほどお辞儀する前を通り過ぎ司は部屋を出ようとする。
すると、ワゴンから顔を突っ込んでいた美紗都が両手に服を持ち司を呼び止める。
「え? 司君……どっか行っちゃうの?」
「は? あ、当たり前だろ? お前、今から着替えるんだから……別にどっか別の場所に行く訳じゃない。他のメンバーの様子を見てから先に本題の場所で待ってるだけだよ」
「むぅうぅ……司君になら選んで貰ってもよかったのに。今なら司君の好みな服着て上げるよ?」
不満げに頬を膨らませてワゴンの中へ潜り、その縁から顔を半分だけ覗かせてジトッとこちらを見て来る美紗都。
「ぐッ!?」
十中八九からかわれていると思うが、その仕草はいちいち可愛らしくて憎めない。
自分に対して心を許してくれているのは素直に嬉しいが、いかんせん〝D・E〟にプレイボーイになれる性格強化機能は備わってはいなかったので、司は内心ドギマギしながらも細やかな反撃に打って出る。
「そういうこと軽々しく言うとすげぇエッチそうな服とか指定すんぞ?」
「着てあげよっか?」
「――ん゛ッ!?」
ひっくり返りそうになった声を強引に噛み殺す司。
そんな彼の反応を楽しんでか、美紗都の表情は口元が隠れているというのに目元だけでニヤニヤとしているのが手に取る様に分かった。
「ば、馬鹿かッ! いいからさっさと選べッ!!」
敵前逃亡も同然の捨て台詞を叫んで部屋を出る司。
しかし、美紗都がこうして冗談を言えるくらいの空間が用意出来たことに関しては、とりあえずホッとしたし、改めてあのクソ野郎への嫌悪がさらに増した。
「あんな可愛い幼馴染がいて、よくもあそこまで……目玉腐ってんじゃねぇか?」
人並み以上の地位と名誉に目が眩んだ愚か者。
あいつにもぜひ全てを失う絶望を味合わせてやろうと内心失笑を浮かべる司だったが、思い出しているだけでも気が滅入るので、司は早々に頭の中を切り替えて、達真に痛め付けられ良善に手品の様にワープさせられた紗々羅達がいるとされる治療室へと向かう。
(そもそも本当に治療室にいるのか? 良善さんの能力だからもう何も驚きはしないけど、データの転送でもあるまいし……)
別世界へ渡る経験もすでにした司だったが、ここでも実感に乏しかったことが災いして未だ半信半疑の司。
そして、目的の治療室へとやって来た司が扉を開くと……。
「……え?」
「「「「あッ……」」」」
室内には丁度着替えを済ませたところといった様子の紗々羅・ルーツィア・曉燕、そして司の配下となった意思表示のためか白服に着替えた七緒の姿があった。
髪を整えつつ簪を口に咥える紗々羅。
ネクタイを締めるルーツィア。
窮屈そうな胸元のボタンを留める曉燕に少しスカートの丈を気にしている様子と七緒。
危なかった。
もう少し早く扉を開いたら、殴られようが蹴られようが文句は言えない光景を目に焼き付けてしまうところだったかもしれない。
「本当にいた……い、いや! そうじゃなくて……みんな、もう大丈夫なの?」
八割……いや、六割の安堵と四割の口惜しさを残しつつ、着替えを済ませた四人に歩み寄る司。
良善が送ってからまだそれほど時間は経ってない。
空になっている治療用カプセルの性能は司の知るところではないが、あの痛め付けられた様子からすればもう少しくらい休んでいた方がいい様な気がして思わず尋ねてしまう。
「うぅ~~ん……まぁ、六割弱ってとこかな? まだちょっと節々に痛みが残っている感じ」
「お気遣い頂き恐縮です、閣下。しかし、あまり長々とカプセルの中にいる訳にも行きませんので……」
「もうすでにビルの下層から撤収の準備が始まっております。とりあえず各々が戦闘可能レベルにまでは回復しましたので、問題ありません……んふ♪」
紗々羅とルーツィアはサラッと答え、それに追随する曉燕も司の心配に問題無いと答えはしたが、それでも司が自分の事を心配してくれたのが嬉しかった様でそそくさと司に近寄りその片腕に抱き付いて来た。
「うッ!? あぁ、そうなのか? ならいいんだけど……そういえばお前、達真に無理矢理パワーアップさせられたって聞いたけど、そっちの方は大丈夫か?」
「は、はい……まぁ確かに以前より格段に強くはなれたと思いますが、その首領様にすぐさま打ちのめされてしまったので、あまり自信にはなっておりませんが……」
「そ、そうか……よし、じゃあ今度は俺の為にその力をたっぷり使ってくれ。役に立ったらいっぱい褒めて自信にさせてやるよ」
「あぁッッ♪ はい、司様ぁッ♡」
司も曉燕相手なら多少は慣れて来たのか、サラッと言葉にしたが、そうした何気ない一言に感激した曉燕はさらにギュッと司に抱き付く。
すると……。
「あ、あぅ……」
自分の居場所ですっかりリラックスする曉燕を羨ましげに見ながら切なげな眼差しになる七緒。
恍惚としててもそれに目敏く気付いた曉燕は視線で司に七緒の方を向かせ、司もそんなモジモジとしている七緒を見てなんとなくその意図を察し、目線を逸らしつつも曉燕が抱き付くのとは逆側の腕を空けてやった。
「あッ♡」
頬を赤らめ小走りに近付き司の腕を抱く七緒。
まさに両手に華。
しかもどちらも極上の部類とあらば流石に司も満更ではない。
ただ……。
「うわ……両側から女の子に抱き付かせてニヤニヤしてるぅ……男ってすぐこれなんだから」
「うぐッ!?」
髪に簪を差しながら呆れたジト目を向けて来る紗々羅にビクッと肩を跳ねさせる司。
だが、その横でルーツィアがフォローしてくれた。
「別に構わんだろう。敵だった者を屈服させ侍らせるは強者の特権。それにそいつらは閣下自らが調伏したのであれば誰も文句を言う筋合いはあるまい。存分に媚びればよい……犬ども」
「「はぁい♡」」
ルーツィアの侮蔑も気にならない様子で司の肩に頬擦りする曉燕と七緒。
「うぐぉ、うぅ……」
密着度が増して狼狽える司。
これほどまでの全力な好意に耐性などあるはずがなく、主というには些か威厳に欠けた声が漏れてしまう。
「くふッ♪ だったらあんたも司君に抱き付いてあの子達みたいにトロトロ顔で甘えたら? 〝猟犬〟」
「フンッ! 私の忠誠は武勇で示すモノだ」
相変わらずな小言の応酬。
どうやら本当に大丈夫そうだと判断した司は、そのまま四人に美紗都が目覚めたことや良善が談話室で話していた今後の作戦を伝える。
「承知しました……であれば、まずは美紗都の〝D・E〟慣熟訓練に入るべきでございましょう。閣下、ご命じ頂ければ私が教官役を務めます」
「え? あ、いや……一応俺なりに考えていることがあって……というか、ルーツィアさん、俺には〝閣下〟って言ってくれるのに、美紗都に関しては〝美紗都〟なんだね?」
「うぐッ……い、いえ……別に他意はありません。ただ、私は何も閣下が無比様の起源体だからという理由だけで平伏している訳ではございません。閣下は私に〝忠義に値する姿〟を示されたから従っているのです。その点、美紗都はまだその域にはいない。それに、博士様からの命によりしばし彼女を見張っていたのですが、あまり意義のある日々を過ごしていたとは言い難いモノがありましたので……」
「あぁ……なるほど」
そう言えば凪神社で助けてくれた時もそんなことを言っていた。
割としっかり考えた上でこちらを立ててくれていたと思うとなかなか嬉しい。
ただ……。
「だったら美紗都はこれからだ。良善さんから任されたってのもあるし、俺自身としても美紗都にはここから変わって貰うつもりでいる。そのために……」
そこで司は腕に抱き付く七緒に目を向ける。
心地良さげに目を細めていた七緒も司の視線を受けてその顔を見上げるが、司の顔が真剣な様子だったので何か命令があるのだろうと察して七緒の表情が引き締まる。
「七緒……これから俺の訓練部屋で美紗都と戦って貰うぞ」
「えッ!? わ、私が……ですか?」
美紗都にとっては自分を殺しに来た内の一人である七緒。
そんな自分と今度は味方同士として訓練するというのは流石に彼女の心象が穏やかではいられないのではないだろうか?
司の命とはいえ、七緒はすぐに返事をすることが出来なかった…………。
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峪房四季 @nastyheroine