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アナザー・リバース ~未来への復讐~  作者: 峪房四季
閑幕 1
33/138

閑幕 御縁司の自己啓発②

次話は17:00台に投稿します。

次話より新章に入ります。


ただ、もしかすると投稿が遅れる恐れがあります。

遅れそうならTwitterで告知しておきます。

 

 治療と身だしなみと整えられた司は、ルーラーズ・ビル内の一室へ案内された。

 そこはまさに〝らしい〟部屋だった。


(長い机と十二個の椅子……在り来たりだけど、やっぱりなんか雰囲気あるな)


 黒く艶のある長方形のローテーブルと全く同じ材質と思われる直立しても頭一つ分は高い背もたれの椅子。

 そして、配置はテーブルを挟む様に長側面の左右に五席ずつと短側面で向かい合う位置に二席の計十二席。


 部屋の一番奥にある上座の後ろには以前良善から貰った名刺にも描かれていた赤い蛇の懸垂幕が下がっており、実に首領の席に相応しい風格。だが、下座にある一席も他の席とは一風変わった別格感があり、№Ⅱの良善がそこに座るのを見た司は何となく納得した。


「君はそこに座りなさい」


 そう言うと良善は、彼の位置から見て一番手前の左側にある椅子を指差した。


「そこは№Ⅻの席。現〝Answers,Twelve〟は四人しかおらず№Ⅴ以下は全て空席ではあるが、いきなり上位席に座らせる訳にはいかない。それなりに結果を出してからだね」


 テーブルに帽子を置き、ゆったりと足を組む良善の姿は実に悪のカリスマに満ちている。

 しかし……。


「よいっしょ! んしょ……んしょ……ほッ! ふぃ~~!」


 良善の隣で自分に宛がわれた座席を見て少し緊張していた司の後ろを通り抜け、№Ⅵと№Ⅷの座席の間からテーブルの上に乗って這い渡り、丁度司の席とは対角になる№Ⅲの座席に腰を下ろす紗々羅。


「…………」


「はぁ……こっちを見ないでくれ」


「え、何?」


 折角のカリスマ空気が台無し。

 だが、司もすでにおおよそ紗々羅のスタンスは理解して、こういう時にあれこれ言っても無駄なタイプなのだろうとそれ以上は突っ込まず、指定された座席に腰を下ろす。


(あ、クッションとかは無い感じなんだ……)


 お世辞にも座り心地がいいとは言えないが、なんとなく逆にそれが風格を感じさせて格好いい気が……。



 ――サクサクサクサクッッ……。



「ムグムグッ……ゴクンッ! あ~~むッ! ムグムグムグッ……」


 袖からキノコの形をしたチョコ菓子を取り出し貪り始める紗々羅。


「流石に自由過ぎませんかね……あちらのお子様?」


「慣れろ」


「むぁ?」


 どうにもこうにも締まらない空気。

 一番最初に会った時とはまるで別人だが、もう本当に何を言っても無駄なのは額に手を当て大きくため息を付く良善の顔が物語っていた。


「言っておくがいずれ会うことになるであろう№Ⅳが揃えばもっと喧しいぞ? 実力伯仲な上に礼儀や規律に関しては完全に対極の位置にいるからな」


「そ、そうなんですか……きっちりした人もいるんですね。俺も気を付けておきます」


「心配いらない……()()は君の血の崇拝者だ。会えばさぞ甲斐甲斐しく君の身の回りを警備してくれるだろう」


(俺の血の……っていうか、もう一人も女の人なんだ。なんか女性比率高くない?)


 素朴な疑問を浮かべる司だったが、良善が咳払いをして話を始める空気だったので一旦姿勢を正す司。

 対角では紗々羅が今度はタケノコの形をしたチョコ菓子を開け始めたが無視することにした。


「さて、今日は良い日だ。久し振りに空席が一つ埋まった。君の前任者を含め、ここ数年で十人弱ピックアップしたのだが、結局誰もこの間に来る資格を得るには至らなかった。歓迎するよ……御縁司」


「あ、あぁ……どうも」


「くふふッ! 一体何日保つか楽しみ~~♪」


 分かりやすい先輩からのイジりは受け流す。

 良善も紗々羅に先輩としてのためになる声掛けなど端から期待してはいない様で、そのまま話を続ける。


「さて、目下今後の君の生命線となるであろう〝D・E〟に関する最初で最後の説明をするとしようか。しっかりと覚えておきたまえよ? 君はもう【修正者】の明確な敵なのだ。次は前回の様な温い戦闘では済まないと思うぞ」


「は、はいッ!」


 望むところだ。

 寧ろ是が非でも勝たねばならない相手。

 目の前にいる悪党もいつ掌を返すか知れたモノではないが、まかり間違っても〝ロータス〟側に殺されるのだけは絶対に認めたくない。


「いい返事だ。ではまず、君の現状を説明しよう。今の君の身体は完全に〝D・E〟が定着した。記憶の修正による過度な脳細胞の破壊と再生。それと前回の無謀極まる全身を破壊しながらの戦闘。こちらに関しては本当に際どかったぞ? まぁ、おかげで人間だった時の身体との入れ替えは私の想定よりも格段に早く、細胞培養器で食い尽くされた体細胞を補充することで君の身体は完全に〝D・E〟適合者として完成した訳だがね」


「うんうん……流石にそれに関しては私も認めざるを得ないわね」


 紗々羅が棒状のチョコ菓子を口に咥えながら称賛して来る。

 彼女が言うなら自分は相当な事をしたのだろうと少し自信になる。


「人間だった時……あ、あの? じゃあ、俺はもう……人間ではないということですか?」


「うむ。その点はもう諦めたまえ」


 即答。

 でも、その辺はもう司も割り切れていた。

 ただの人間ならもう自分は奴らに殺されている。

 人外になることで戦えるなら全く問題はなかった。

 しかし……。


「あの……そうは言っても、俺……これといって化物になった実感ないんですけど?」


「あぁ、形としては人間と大差ない。そういう風に作った技術だ。だが、形は同じだが性能は全くの別次元だ。前にも言っただろ?この力を端的に説明すると〝超人〟になるモノだと。分かりやすく例えるなら……今の君は医療用の消毒アルコールをがぶ飲みしてもそれを肝臓が瞬時に分解する」


「…………いや、すみません。全然しっくり来ないです」


「おや? ならば……」



「良善さん? おじさんが若者にウケるジョークを言おうと頑張るのはイタイだけですよ?」



「――ッッ!?」


 司は思わず心臓が止まるかと思った。

 確かに自分の視線は良善の方を向いて正面から少し右にズレていたが、気配どころか物音一つ立てず、いつの間にか目の前のテーブルに紗々羅が片膝を立てた胡坐で座り、司の鼻先に棒チョコ菓子を突き付けていたのだ。


「いい? 司君……難しく考える必要は無いの。あなたの体内にあるナノマシン……〝Desire(欲望),Embod()im()ent〟は、その名の通り欲望を具現化する。要するに想像するのよ。早く走る自分を想像すれば早く走れる……巨大な大岩を持ち上げる自分をイメージすれば本当に持ち上げれる。必要なのは〝輪郭がしっかりと定まった想像〟それさえ出来ればあなたはその通りの自分になれるの」


「そ、想像……?」


 酷く抽象的でまるで説明になっていない。

 まるで要領を得ず、司は良善の方を見る。

 良善は……紗々羅の毒舌に少し傷付いた感じの顔で帽子のつばを撫でていた。


「あ、あの! 良善さん! 戻って来て下さい!」


「え? あ、あぁ……すまない。かなり大雑把な説明ではあるが、彼女は間違ったことは言っていない。〝D・E〟を使いこなすのに必要なのは、正確なイメージだ。君のイメージをナノマシンが読み取り、全身を巡るナノマシンが君の身体にそれを再現させるのだ」


 紗々羅の事だからかなり適当なことを言ったいる気がしたが、良善の説明もそれほど差は無く簡素なモノだった。


「そ、それだけ……ですか?」


「ん? それだけ……とは?」


「いや、なんかもっと滅茶苦茶厳しい訓練を続けて、考えなくても身体が勝手に動くくらい感覚に染み込ませるみたいなことをするのかと……」


「司君……意外とマゾなんだね?」


「あぁ、何故そうまで苦しい境遇を求めるんだい?」


(あれ!? 俺がおかしいの!?)


 双方からジト目を向けられて孤立する司。

 ただ、すぐに良善は苦笑に切り替え話を繋ぐ。


「まぁ、それも一つの研鑽ではあるだろうが、そういう汗水垂らす努力というのは〝正義様〟の専売特許だ。否定をする気は無いが我々〝悪党〟の領分ではない」


 肩を竦めておどけて見せる良善。

 しかし、その顔は次の瞬間急に真剣なモノへと変わった。


「だが〝想像〟という行為を〝それだけ〟と軽く表現するのは感心しない。頭脳努力が肉体努力より格下であるかの様な考え方は今すぐ捨てなさい」


 ピシャリと言い切る良善。

 ちょっと怒られている感じになり、司の背筋も思わず伸びる。


「考えなくても動くのではない……()()()()()()()。細胞単位で体内を感知して制御するんだ。それは人外となった身であっても至難の業……何一つ甘く見る要素は無いぞ?」


「……はい」


 〝想像〟という言葉の水準が違うのだと司は理解した。

 だが、それを習得しなければ奴らに勝つことは出来ない。

 ならば何としてもモノにしなければならない。

 司の返事に彼の真剣度を感じ取った良善が満足そうに頷く。


「今の返事だけで君は雅人の数倍上を行っている。〝D・E〟の制御が身に付けば、それは次第に体内に留まらず体外へまで広がる。君の仇敵であるあの四人がアーマーを纏っていただろう? あれはナノマシンを体外でも制御することで生み出す外骨格と呼ばれる技術だ。あの領域まで来れば武具や防具、他にも様々な物を生み出すことが出来る様になる」


「様々な物を……身体の外で……あぁ、だから人間から進化ってことなのか」


 人間が自分の身体以上の存在になる。

 確かにそれは進化だし、人体の限界を越えるという意味を視覚的にも納得出来る。


 司は目を閉じ、早速自分の内側を想像してみた。

 細胞単位で身体を制御するというのはどういうことなのか。

 自分の体内にいるナノマシンを感じ取るというのはどういうモノなのか。

 まるで雲を掴む様な感覚だが、とにかくやってみようと眉間に皺を寄せて司はイメージを続ける。


「……むふ♪」


 そんな司の姿を、今度は帆船の型取りをしたチョコ菓子を袖から取り出し頬張っていた紗々羅がニコニコと見つめ、すぐ隣にいる良善の方へ視線を移す。

 するとそこには彼女の想像通り、早速自分の言葉を実践し始める司を実に満足げな笑みで眺める良善がいた…………。







読んで頂き、ありがとうございます!

作者の活動報告などに関しては、

Twitterで告知してます。

良ければ覗いてみて下さい!


峪房四季 @nastyheroine

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― 新着の感想 ―
[良い点] 良善さんが張り切って先生してるなー まぁ育てるの好きな人だし当然か
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