閑幕 世界の裏側に育つ芽 ③
次の投稿は9/30頃になります。
また間が空いてしまいますが、今後もお付き合い頂けると嬉しいです。
「凄い……一撃で撃ち落としちゃった」
〝ルシファー〟のブリッジに集まっていた本流世界の司と他一行は、円の初陣を密かに観戦していた。
目を覆いたくなる悲劇の後、善意や良心といったモノを捨てたその一撃に、美紗都は唖然と呟いてしまった。
「一体どういう能力なのかしら? 外骨格を強化する系統か体内から発露させる系統なのか……今の一撃だけではイマイチ全貌が見えませんね」
無意識に眼鏡のフレームを撫でつつ分析する七緒。
すでに固有能力を発揮している件も一瞬驚愕したが、もうその辺は傍らに立つ良善の存在が理由として成立していたので考えるだけ無駄と判断する。
「爆発したってことはあんたと同じく兵器を生み出す力? あの子案外ミリタリー好きだったとか?」
「いや、今の爆発は機体の内部からだった。それに円が投擲したあの瓦礫に炸薬が形成された感じは無かった。七緒が言う通り断定はしかねるが、恐らく彼女の能力は対象に自己の〝D・E〟を触れさせてその対象の形質を変化させる侵食型である可能性が濃厚だな。あの瓦礫に付着させた〝D・E〟をヘリに投げ付け、今度はそのヘリに接触した〝D・E〟がヘリ内部を変形させて燃料への引火や残弾の誘爆を誘ったのだろう。傍らに立つ恋人はサポーターと言ったところか」
「ふぅ~ん……物の形を変える、ねぇ。普通に強そうじゃない♪」
「確かにな。本人次第ではあるだろうが練度を高めれば十分にこちらの主力になり得る才覚だ」
「えぇ、もしそうなら敵陣に風穴を開ける突破役や極めて高い空間制圧力が期待出来ます」
紗々羅、ルーツィア、七緒が太鼓判を押す円の能力。
美紗都や夜空、それに真弥と千紗も感嘆の表情を見せていた。
ただ……。
「司様……ご覧にならなくてよろしいのですか?」
「……あぁ、別にいい」
椅子に腰かけ少し回復して来た様子の曉燕が隣でコーヒーを啜る司に恐る恐るといった感じで声を掛け、それに対して司は黒い湖面に映る自分の顔と目を合わせたまま心ここにあらずと言った感じで生返事を返した。
(やっぱり、こうなるのかよ。ちょっとくらい思った通りになってくれてもいいだろうに……)
良善から聞いたあの二人を離れ離れにさせずに生き永らえさせる方法。
はっきり言って司にとってはあの二人をこの〝Answers,Twelve〟対〝ロータス〟の戦いに巻き込むこと自体避けたかった。
しかし、もうこの世界に二人の居場所は無く、司とてまだ自分が消えて無くなる訳にはいかない。
納得は行かないが理解は出来る落し処。相変わらず自分の師匠は他人に文句を言わせない才能があるなと関心と辟易が同時に押し寄せていた。
(復讐を果たした後なら……あ、いや。俺にだって今は一応……な)
司は隣に座る曉燕の頭を不意に撫でる。
驚いて固まる曉燕だったが、その表情はすぐに緩んで心地良さそうに司の肩にその身を預けて来た。
すると……。
「あぁッ!? 司様ッ! なんで曉燕だけッ! 私もぉッ!!」
「司様ッ! そう言えば私まだパワーアップしたご褒美のヨシヨシして貰ってないぃッ!!」
「え? ――ぐぇッ!? ちょ、お前ら! ま、待てってッ!」
何となく振り返ったら曉燕が頭を撫でられながら司に甘えていて、何を抜け駆けしているんだと飛び付いて来る紗々羅と美紗都。少し遅れて小走りに七緒がさりげなく混ざり、曉燕は初期位置を死守して司を揉みくちゃにする。なんだかんだと勢いでこんな関係になってしまったが、まかりなりにもそんな気にさせた以上は責任を取らねばなるまい。
(自分が死んだらこいつらが悲しむ。まさか、そんなことを思える様になるとは思わなかった)
自分の命に価値を見出せた。
〝Answers,Twelve〟に入る前には一度も感じたことの無い心境。
そう思わせてくれた彼女達を蔑ろには出来ない。
初めてそう思えた事実を、司は極力大事にしようと考えていた。
「司様……博士様達がこちらへ戻って来る様です」
「ん、分かった。多分ここへ来るだろう。ほら、みんな一旦離れろって。こんなラウンジみたいな場所でソファーに座りながら女の子を侍らせてるなんてヤな奴感出ちまうから!」
抱き着いていた四人は、自分達を押し剥がす司に『何か問題でも?』と不満タラタラながらも従い離れる。そんな中、目ざとくあることに気付いた紗々羅がサッとルーツィアに近付く。
「ちょっと……あんたいつの間に〝閣下〟から〝司様〟に呼び方変えたわけ? 何があったの? 気になるわねぇ~♪」
ニヤニヤとルーツィアの腋を小突く紗々羅。
対するルーツィアは鬱陶しげに顔をしかめるが、そっぽを向いたその頬は若干赤く染まっていた。
「黙れ。私は元々出会った当初から司様に対して忠誠を誓っていた。何も変わらない」
「いやいや、そんなこと聞いてないって。なぁ~んで前より距離が縮まった感じの名前呼びになったのかって話♪ 何があったのかな~? もっとお近づきになりたいと思う様な事があったのかなぁ~?」
まるで『鬱陶しいでしょ?』と書いてある様な紗々羅のニヤけ顔に目尻を吊り上げるルーツィアが存在圧をぶつけ合う。今更気にするまでもない二人のいがみ合い。ただ、まだ慣れていない夜空はサッと美紗都の背後に隠れてしまう。
そうこうしている内に、良善と円の気配が〝ルシファー〟の艦内へと入り、このブリッジへと近付いて来て司以外の面々は一度居住まいを正して整列。
司はソファーに腰かけたまま、肩口に扉を振り返り戻って来た良善達を迎えた。
「おかえりなさい……良善さん」
「あぁ、ただいま。……フッ、おやおや。司? 師を出迎えるには些か態度が悪くないかい?」
「……弟子の心情を慮ってくれる師匠の深い懐を期待します」
「ハハッ、確かにそれも一理あるか。ならまずは面通しを済ませてくれ。コーヒーはあるかい?」
「そこのカウンターに落としている最中のがありますよ」
「フフッ……君は本当に良く出来た弟子だ♪」
スタスタと一旦その場から退き、バーカウンターならぬコーヒーカウンターで機嫌良くカップの準備を始める良善。
そして良善が退いた入口の前には、この場にいる以上〝Answers,Twelve〟入りを承諾したのであろう円がまだイマイチ居心地の悪そうな面持ちで立っていて、司は椅子から立ち上がりその正面に立つ。
すると……。
「あ、あの……――え? あ、う……うん」
司に何か言おうとした円が誰かに遮られた様な感じに言い淀む。
事情は把握している司は黙って待っていると、円の左半身が赤黒い泥のコートに覆われて、そこからよく見るとTシャツっぽい上着を着ているが所々肌と癒着してしまっている円の司が姿を現す。
(思ったより……グロい感じだな)
背後にいる七人も少しゾッとした空気を感じさせる。
ただ、司は一旦円からも視線を外し、現れたもう一人の自分と目を合わせ……。
「『やぁ……俺』」
お互いが自分を視界に収めて相互認識する。
目の前にいるのは自分であると確信を持ち、自分がもう一人現実に存在していることを確定させた。
そして、次の瞬間……。
「――ぐぅッ!?」
出迎えた側の司が口を抑えてその場に膝を付く。
周りは慌てて駆け寄ろうとするが……。
――パンッ!
「今の彼に触るな。心配はいらない。司、落ち着いて自己を認識したまえ」
一度大きく手を打ち鳴らして場を制止させる良善。
そして、司は口を押え滝の様に汗を掻きながら膝立ちに震え続ける。
(なん……だ……これ? 目、が……回る……気持ち悪い……俺……今、どうなってる? 立ってんのか? 倒れてんのか?)
歪む視界。
まるで自分の存在そのものがブレて今にもバラバラになってしまいそうな感覚。頭の中でも音叉が叩き続けられている様に意識が震え、このまま自分という存在の形が崩れて無くなってしまうのではないかと本気で不安になり恐怖が込み上げる。
だが、意識の震えは徐々に強くなりこのままでは本当に不味い……と思った瞬間に、まるで峠を越えたかの様に突然震えはゆっくりと落ち着き始めて次第に意識も明瞭さを取り戻していく。
「ハァッ! ハァッ! ハァッ! ハァッ!」
「心配はいらない。万全を期して片方には肉体まで捨てさせたのだ。対消滅は起こらない。今のそれは意識分の余波の様なモノだ。その程度では今の君の存在を脅かすには全く足りない。落ち着いて呼吸を整えるんだ」
注いだコーヒーの香りを楽しみつつ、司の方を見もせずに良善が断言する。
悪辣組織の副首領とはいえ彼がキッパリと言い切るその信頼感は凄まじく、事実司はその言葉で身体の震えが一気に弱まっていくのを感じた。
「う、く……あぁ……。ハァ……ハァ……なるほどね。本当なら、あのまま自分が分からなくなって存在が無くなっちまうって訳か。一種の臨死体験? き、貴重なことだな、全く……」
震えは完全に落ち着いたが、その代わりに今度はドッと冷や汗が溢れ出る。
以前血達磨になった時は死ぬどうこうよりも痛みが全てを塗り潰していたので実感という意味では曖昧だった。
しかし、今回は自分の生きるか死ぬかのラインに自分が近付いていくのを確かに実感出来てしまっていたので、今回の方が精神的な疲弊は大きかった。
「つ、司……大丈――」
『大丈夫か? 俺』
歩み寄ろうとして来ていた円より先に円の司が司に近付く。
床に赤黒い泥はスルリと流れ伸び、どうやらその上なら彼は自由に動ける様だ。
「あ、あぁ……大丈夫だ。もうかなり落ち着いた」
『そうか、よかった。じゃあ、改めてよろし……――くッ!』
「ぐはぁッ!?」
息を整え身体を起こした司の鳩尾に円の司が拳を叩き込む。
突拍子もないその行動に周囲は唖然として、良善でさえも目を丸くしていた。
『これはこの前の膝蹴りのお礼だよ。本当は俺が死ぬ前に助けてくれたことで円を悲しませずに済んだからチャラでもいいかと思ったけど、あの時のお前の顔がウザかったからさ』
「ぐ、ぶぅッ!? ゴホッ! チッ! あぁ、そうかよ……なら、これで貸し借り無しにするために、今回はその顔面をぶっ飛ばすのは許してやる」
七緒との時の一件を思い出して苦笑に留める司。
ただ、改めて身体を起こしたその顔は真剣な表情で司は人の身を捨てた自分を睨みつける。
「良善さんからお前をそんな風にする提案を出された時……正直迷った。でも、俺ならそうしてでも円を安全な所へって思うだろうなと感じたから良善さんの提案を承諾した。そいつのこと、一生護れよ?」
『もちろんだ。この妙な身体にあるのかは知らないけど、命に代えても――』
「違う。お前が死んだら意味が無い。ずっと傍に居るのは最低条件だ。その上で護れって言ってんだよ」
グッと距離を詰め鼻が当たりそうな距離まで近付き、赫色の眼を見開いて底冷えする様な低い声で言い放つ司。
並の精神では腰が抜けるか酷ければ失禁しかねないほどの迫力。
しかし、自分からの檄に怯える必要はなかった。
『……ごめん。分かった。絶対に、一生傍で円を守り抜くって俺自身に誓うよ』
真正面から返される決意の眼。
これならば……大丈夫だろう。司の中でほんの少し肩の荷が下りた気がした。
「ならいい。何か困ったことがあったら言ってくれ。俺に分かる範囲なら何でも協力する。別にお前に任せて『あとは知らない』なんてつもりもないからさ」
『うん、分かった。その時は素直にお願いする。俺達にとって優先するべきは円の未来だからさ』
肩を竦めて苦笑し合う二人の司。
だが、そこで……。
――トントン。
「あの、司様?」
「ん? どうした美紗都?」
美紗都に肩を叩かれ振り返る司。
すると、美紗都の顔はどこかむず痒そう口元がムニュッとなっており若干頬も赤い。
そして、振り返った司はそこで美紗都が指を差していることに気付きその先へ視線を向けると……。
「あ、あのぉ……二人、とも……。そ、そういうの……ひ、人前で……やめ……う、うぅぅ~~ッッ!」
そこには両手で顔を覆い耳まで真っ赤になった円がしゃがみ込んで弱々しく首を左右に振っていて、司達もそれを見てようやく自分がこっ恥ずかしい独り言をしていたことに気付いた。
「さて、エスプレッソもカフェラテになりそうなお話は済んだかな? まだ語り足りないと言うなら申し訳ないがあとは三人で別室にでも移って勝手に続けてて貰えるかい?」
「し、死ぬぅ……そんなの死んじゃうって!」
「いえ、大丈夫っす……」
『お、俺も……』
失笑する良善の提案を丁重に断る三人。
そして、仕切り直して他のメンバー達とも改めて自己紹介が始まった。
「ルーツィア・フォン・アイスレーベンだ。言っておくが私はこちらにいる司様のみに忠誠を誓っている。私は私の主義に従い、貴様を司様とは別人格であり同一とは見ない。つまりは我ら〝Answers, Twelve〟の新参者として扱うので……そのつもりで」
『あ、あぁ……うん、分かっ……分かりました』
「宇奈月紗々羅。私もスタンスはルーツィアと同じ。まぁ、そこの堅物女よりは仲良くやるつもりだし、よろしく♪」
『え、あ……うん。よ、よろしくね』
「李曉燕です。私も先の二人と同様で、あなたのことは司様とは別の独立した一人格として接しさせて頂きますね」
『うん、それでいいよ。あと、俺の傷の治療をしてくれたって聞いた。本当にありがとう』
「美桜七緒です。後ろの二人は綴真弥と曽我屋千紗。司様とあなたの認識は他の方達と同じです。よろしく……あ、それと、以前会った時に庇ってくれてありがとう。素敵だったわ。もちろん、こちらの司様の次にね」
『う、うん……よろしく』
「凪梨美紗都よ。こっちは月見夜空ね。あなたに関しては……以下同文かな。別に一線引いて拒絶してるとかそう言うのじゃないから。司様は司様、あなたはあなた、シンプルによろしく♪」
『あ、あぁ……そうだな、よろしく』
簡単にではあるが、一通り自己紹介を済ませたところで改めて司と円の目が合う。
司は軽く一度咳払いをして口を開いた。
「鷺峰、もうこうなっちまった以上は仕方ない。仲間として一緒に戦おう。ただ、ここでは俺の方が先輩だ。一番の頭はそっちにいる良善さんだけど、状況によっては俺の命令にも従って貰うからな?」
彼女だけを過保護に特別扱いするつもりは無い。
今の司にとっては美紗都達だって大事な存在であり、その辺は平等に扱うつもりだ。
ただ、場慣れしていない内はある程度優先してフォローしてやるべきだろうと思い、いきなり言い放った上下関係もその辺を含ませての考えだった。
「うん、分かった……司の指示に従うよ」
「……あのさ? その〝司〟ってやめないか? お前にとっての司はそっちにいるだろ? 俺のことは別で――」
「え、なんで? あなただって私にとっては司だよ。こっちが本物でそっちが偽物とか、私そういうのヤダ」
「いや、まぁそう言ってくれるのは有り難いけどさ。なんて言うか……不便じゃん? 俺も司でそいつも司だと。だからその辺を分かりやすくする意味でも俺の方を別の呼び方で――」
「嫌。それ、なんだかあなたのことだけ否定してるみたいで好きじゃない。私のことを本気で気に掛けてくれてあなたも私にとっては司だもん」
「だ、だから……存在を否定とか、そんな大げさな話じゃなくて――」
「ダメ」
「単純に分かりにくいだろ?」
「嫌」
「いや、だから――」
「しつこい」
「どっちも同じ呼び方だと分かりにくいって言ってんだろッ!? それならこの場は俺の方を違う名前で呼ぶのが一番シンプルだろうがッッ!!」
「いぃぃぃぃやぁぁぁぁッッッ!!!」
怒鳴り合う司と円。
あまりにも波長が合っている。先の良善ではないが、その場にいる他の面々も『あ、この二人は結ばれる運命だったんだな』と思わせた。
ただ、そうとは言っても、間に円の司が割って入りなだめても一切主張を譲る気は無さそうな円の頑なさは正直少し過剰に見えた。
「あの子……もしかしてちょっと変? 言ってる意味は分かるけど、あそこまで拘る話?」
「致し方あるまい。この状況で穏やかなままの方が闇深いと私は思うぞ? 今はあれくらい情緒不安定になっているくらいの方が寧ろ正常まである。美紗都、年齢や環境的にお前が一番近しいだろう。私や紗々羅ではあの様な精神面はサポートしてやれない。そこの小娘と同じくしばらく気に掛けてやってくれ。あの才覚は出来れば早く安定させて戦場での戦力にカウントしたい」
「うん……私も案外落ち着いているなとは思ったけど、やっぱり世界が変わるって……結構キツいもんね」
身に覚えのある感覚。
その時の自分の傍には司がいてくれた。
美紗都としても近しい境遇の彼女には手を差し伸べてやりたいと思う。
ただし……。
(さっさと落ち着いて貰わないと……このままどっちもだなんて主張されたら堪んないもん!)
「美紗都、顔に出ているわよ?」
「んみゃッ!?」
曉燕が背後から美紗都の頬を両手で挟む。
さらに横から七緒が美紗都の前に歩み出て鼻をつつく。
「もしかして、せっかく能力が覚醒したのにもっと目立つ出来事が起きて拗ねてるのかしら? あなた、意外と嫉妬深いの?」
「なッ!? ち、違うわよ! 人をメンヘラみたいに言わないで!」
頬を膨らませてプイッと顔を背ける美紗都。
ワイワイと騒がしくなる場の空気。
それを一歩引いて遠巻きに見ていた良善は、やや時間を置いてから手を叩き場を整え直す。
「諸君、少々場の空気が休み時間の学校みたいになっているので仕切り直させて貰うよ。これからとても大事な話があるからね。ところで……二人の司の呼称は決まったのかな?」
「あぁ……えっと、俺も〝司〟こいつも〝ツカサ〟でお願いします。まぁ、近くで会話する分には雰囲気で分かるしな。……はぁ」
『何かあって呼ぶ時は〝円のツカサ〟とでも呼んでくれたらいいよ。俺はもう円の一部で彼女のモノだしね。……はぁ』
「ち、ちょっとヤダぁ! さっきから何度かあったけど、改めて言われるとやっぱりその言い方、ちょっといいかがわしい気がするよぉ……もぉ……♪」
「『うるせぇよ』」
結局、最終的には司達側が折れたらしく自分の主張を通した円はモジモジと照れほくそ笑むくらいにの機嫌を戻していた。ただ、内容的に怒るに怒れない主張で散々振り回された挙句、元鞘に収まる徒労にどちらの司もなんだかドッと疲れた顔をしていた。
「すみません、良善さん。なんか温い空気にしちゃって……」
「フッ、構わんさ。我々は仲良し集団ではないが、逆にそれを厳守しなければならないなんて決まりも無い。温い空気だろうと利害のために敵を蹂躙するというのも、それはそれで面白いかもしれないからね」
クスクスと笑い、良善は歩み出して席に着く。
その場所はいつもの場所のちょうど反対側。
〝Answers,Twelve〟の首領にして№Ⅰ――達真が座る場所。
事情を知る既存メンバーの顔には少し緊張が走った。
「さて、本題に入ろう。私が今この席に座った意味……新参の者達にはイマイチよく意味が分からないかもしれないが、この度、我ら〝Answers,Twelve〟のトップである首領が遁走した。それどころかどうやら我々と正式に対立姿勢を取るつもりの様だ。全く持って嘆かわしい……創設以来何度も入れ替わりがあったとはいえ、一度も〝裏切り〟という項目での除名は無かったというのに、その最初の一例がまさか創設者本人とは……。まぁ、憂いていても埒は空かない。とりあえずは副首領である私が代理首領としてこの座に就く。そして、それに伴いメンバーの席位も私が再編する。……異論がある者は?」
良善の問いにその場にいる全員が無言を持って異議無しの意図を示す。
「了承と受け取ろう。では、上から順番に指名していく。司、君がそこへ座りたまえ」
足を組み、首領の座に対する気負いなど欠片も感じていない様子で、良善は司を指名して対面の座を指差す。
長方形のテーブルを囲む十二の席の内、短側面の二席は首領と副首領の席。
まさかの№Ⅱ指名に司は思わず目を丸くした。
「えッ!? あ、あの……俺がいきなり二位なんですか?」
「不服かい? いずれ君にはこっち側の椅子を与え、私はオブザーバーにならせて貰おうと思っているくらいだ。現メンバーの大半を従僕にしていて、首領である私の直弟子であり、実力も伸び盛り……悪くない人選と自負しているが?」
「え、えっと……あ、いや! ――分かりました。引き受けます」
ここでオドオドする様な自分はもう捨てた。
やってやろうじゃないかと言うくらいの面持ちで、司はつい先日まで師が座っていた座席に座る。
ふと視線の端では美紗都、紗々羅、曉燕、七緒がそんな司の姿に悶える様に顔を赤らめており、あのルーツィアまでもがうっとりとした目をしていて、司は若干の気負いとむず痒さに表情が少し強張っていた。
「フフッ……席位と言ってもあくまでも便宜上の記号だ。そんなに身構える必要もない。さて、次だが……ルーツィア、君には第三位に就いて貰らおうと考えているのだが、その前に一つ……君は、達真と戦えるかい?」
№Ⅲへの指名を受けるルーツィア。
ただ、彼女は元々〝Answers,Twelve〟の意義というより、達真や良善といった超越者達の力に感服して従属する道を選んだ者。こちらにはまだ良善がいるとはいえ、単純に考えれば首領に付き従うべくここを抜け出してあとを追っていてもおかしくはない。
そういう意味を含めた良善の問い掛け。
それに対するルーツィアは……。
「はっきりと申し上げて悩ましい部分もございます。しかしながら博士様への忠義も決して偽りは無く、今は司様も我が頭上に座す超越者のお一人。単純な数の問題ではございませんが、ここは初めてお会いした時から一貫性を持たれている新首領様と新副首領様に忠義することが最良と判断させて頂きます。相手になるとは思えませんが、いざとなれば無比様へ銃口を向けることにも躊躇わぬ様、気持ちを整えておく所存です」
「結構。では、副首領補佐として引き続き尽力して欲しい」
「はッ! 全身全霊を持って務めさせて頂きます」
なかなか締まる掛け合い。
ちょっと格好いいとさえ思いながら右長側面の良善側に座るルーツィアを司は眺める。
彼女が直属補佐に付いてくれるのは実に頼もしい。
ただ、そうなると……。
「そういう訳で紗々羅嬢は第四位に後退……と言っても、別に君が三位でも構わないんだが、補佐役としての立ち回りをちゃんと出来る自信はあるかい?」
「無いわね!」
「いいお返事だ。まぁ、一番自由に動ける位置で好きにしてくれ。君の力は下手に役職を与えない方がよいだろうからね」
「そうさせて貰うわ。でも、そういうゴチャゴチャしたのは抜きに私は司様のモノだけどねッ♡」
字面的に降格感があり、ルーツィアとも割とバチバチな紗々羅がどう反応するか心配だったが、どうやらその辺の心配は全くの杞憂であったらしく、円達の話に準えて『司様のモノ』とやけに強調して司にウインクを送る紗々羅はルーツィアの向かいに腰を降ろした。
「次に第五位だが……曉燕、デーヴァとはいえ屈服後の君の献身は確かなモノだ。私は別に選民思想は持ち合わせてはいないのでね。これまでの結果を持って判断して君に第五位を与える。今後も〝Answers,Twelve〟に……いや、司に忠誠を誓い続けたまえ」
「承知しました。この身朽ち果てるまで永久に」
「七緒、君も同様の判断基準を持って第六位の座を与える。まぁ、正直実力的にはまだ名を連ねるレベルとは言い難いが、君も曉燕と同じく司への忠誠は揺るぎないだろう。その忠義心を買ってこの地位とする。それから後ろの二人は以降君の従者扱いとする。しっかりと躾けておきなさい。万が一の場合は君の責任とするのでそのつもりで」
「畏まりました。司様と〝Answers,Twelve〟への忠誠を誓います」
これは少々意外な人選だった。
〝Answers,Twelve〟の打倒対象である〝ロータス〟の出である曉燕と七緒が正式にこちらの中核メンバー入り。
無論、司も異論はない。
そして、曉燕と七緒はそれぞれ五位と六位の座に歩み寄り腰を降ろす前に司の方へ揃い向き……。
「「私達も司様のモノですぅ♡」」
「うぐッ!? い、いいってのそういうの! さっさと座れ!」
「「はぁ~い♡」」
へそ下で両手を組み恭しく頭を下げて来る二人のあまりに揃った声が気恥ずかしく、司は少し視線を逸らして手で払う様な返しをするが、曉燕と七緒はそんな司の照れた態度が堪らないのか、嬉しそうに返事をして席に着いた。
「やれやれ……最初期には政界の黒幕や経済界のボスなど、分かりやすい小悪党達が顔を連ねていた席が随分とほのぼのとしてしまったモノだな。さて……お次は」
苦笑する良善が改まって向ける視線の先。
そこにはついに能力を覚醒させた美紗都と完全新参の円。
「美紗都、それに円嬢。君達にも席位を与えようと思うが、その前に一度現時点での二人の優劣を確認しておきたい。美紗都、能力を見せてみなさい」
「あ、はい……えっと」
先に指名を受けた美紗都は、キョロキョロと辺りを見回してふと傍らにいた夜空を見ると、瞳に血色を宿し……。
「んッ! ……あ、あれ? さっきより難しい……う、ぅぅッ! ――くッ!!」
「え? え? み、美紗都様……何し……――ひゃわぁッ!?」
美紗都が眉間に皺を寄せてこちらを見て来るせいでオドオドとしていた夜空。
するとその小さな身体が突然頭上から引っ張られる様にフワリと浮かび上がり、そのまま空中ブランコにでも乗っているかの様に皆の頭上をゆっくりと旋回し始めた。
「おぉ……ね、念力みたいな能力ってことか?」
「いや、これは……」
司は緊張して強張った顔の夜空と相変わらず眉間に皺を寄せて顔を歪めている美紗都を交互に見ていたが、良善の視線は回る夜空よりも少しズレた位置に目を向けていて視線を動かしていた。
「美紗都……私達があのビルに着く前にもこういう風に能力を使っていたのかい?」
「あ、やっぱり……見えてます? えっと、いや……ビルにいた時は無我夢中だったんですけど、もっと細かく調整出来てました。ただ、今この落ち着いた状態で改めてやろうとすると何だか滅茶苦茶難しくて……」
「覚醒時の勢いでハイになっていたんだろうね。まぁ、目覚め立ての能力ならこれくらいの精度でも致し方ない。しっかりと鍛錬を積む様に」
「ちょ、ちょ! ちょっと待って下さい良善さん! 何が見えてるんですか?」
どうやら良善には美紗都の能力の全容が見えているらしいが、司には美紗都が夜空を空中浮遊させているだけにしか見えなかった。
「ちゃんとよく見てみなさい。精度はまだお粗末だが、これはなかなか便利な能力だ」
「み、見ろって……んん~?」
首を傾げ眉間に皺を寄せながら、司も血色の瞳で良善の視線を追ってみるがやはり特に変わった様子はない。
と思ったその時。
「ん?」
一瞬、宙に浮かぶ夜空の周囲に不自然な空気の揺らぎが見えた。
その手掛かりを頼りに司はさらに目を凝らしてその輪郭を捉える様に意識してみる。
すると、ようやく美紗都の能力の詳細が見えて来たのだが……。
「な、なんだ……あれ?」
司に見えたのは小さな赤い球。
それが夜空の周囲に浮かんでいるのだが……数が尋常ではない。
恐らくは一粒一粒はエアガンなどで撃ち出すBB弾くらいの大きさで、それがザッと見ただけでも数百……いや、下手をすると数千粒もあり、まるで夏の川辺に湧く蚊柱を連想させて凄まじい生理的嫌悪感を覚えた。
「え? キモぉ……。み、美紗都? え? な、何あれ……?」
「ち、違うの! 本当はもっとスマートに出来るんだけど、力加減を間違えると夜空ちゃんを吹き飛ばしたり叩き潰したりしちゃいそうだから……か、加減がッ!」
司のドン引き顔に美紗都は顔を真っ赤にして地団太を踏む。
必死に主張するその言い訳によると、美紗都は自分の身体を拡張する様に周囲に外骨格を広げられる能力らしいが、良善に能力を披露する様に言われて夜空を持ち上げて見せようとしたのだが、拡張した外骨格の手で夜空をすくい上げようとした瞬間、危うく握り潰してしまいそうだったので、必死に力を抜いてガラス細工を持ち上げるくらいのつもりで能力を使った結果、スカスカの手になり集合体恐怖症お断りの粒々が見えていた様だ。
「なるほど。まぁ、見た目はともあれ制御自体は出来ているなら、あとは回数を熟して慣れて行けば問題あるまい。ちなみに……円嬢は見えているかい?」
「あ、えっと……すみません、よく分からないです」
「ツカサは?」
『この身体のせいなのか『何かあるな』って感じは分かるんですけど、はっきりと認識は出来て無いです』
「ふむ。まぁ、それも経験の問題だな。知覚に関してはやはり本人の技量に依存するか。よろしい……現時点での〝D・E〟の成熟度を見るに、美紗都に第七位、円嬢に第八位の座を与えよう」
良善の結論に美紗都は浮かび上げていた夜空を降ろし抱いて曉燕の隣に座り、円はツカサを背後に漂わせたままペコペコと頭を下げて七緒の隣の席へちょこんと腰を下ろす。
「とりあえず現時点で八位まで埋まったのは喜ばしいことだ」
微笑を浮かべて頷く良善。
ただ、すぐにその顔は引き締まり、何か言いたげに一番遠い正面にいる司を見て来る。
何が言いたいのかは大体読み取れたので、司はそのご期待に沿うために口を開く。
「それで? ここからの行動はどうするんですか? 良ければ副首領から一つご提案が……」
「ほぉ……何かな? 聞こうじゃないか」
(そっちが『何か言え』感出してたくせに……)
実に自然と意外そうな顔をする良善。
意地の悪い師にうんざりしつつ、司は話の舵取りを引き継いだ。
「いい加減受けてばかりでウザいです。今回の件で俺としてももう我慢の限界を越えました。新首領……今度はこっちから敵の領地に攻め込みましょう」
敵の領地……それはつまり未来側への侵攻。
迂闊に敵陣へ向かうというのは確かにリスクだ。
しかし、こうして今回も〝ロータス〟の悪あがきを受け、司は出来れば巻き込みたくない円ともう一人の自分を自陣に加えざるを得なくなった。
「達真の件があるので難しいかもしれませんが、それは慎重に構えて敵の動きを待っていても同じことでしょ? だったら少しでも今度はこちらが先手を取るべきです」
「うむ、悪い案ではない。ただ、本格的に敵陣に切り込むにはまだ二つ解決しなければならないことがある」
「二つ? なんですか、それは?」
「まずはすぐにでも対処を開始出来る方から話そう。それは……現状我々の唯一の時元間移動手段であるこの〝ルシファー〟がそろそろガス欠だと言う点だ」
「ガ、ガス欠ぅッ!?」
未来の時元航行戦艦にそんな現代チックなトラブルに見舞われるなど想像もしていなかった。
ただ、確かにこちらの唯一の移動手段であるこの〝ルシファー〟が侵攻途中で立ち往生するのは致命的だと言わざるを得ない。
「あぁ、すまない。今の説明には語弊があるな。正確にはエネルギーは無限にあるのだが、エンジンがボロボロなのだよ。一応断っておくが文句なら達真に言ってくれ。現在この〝ルシファー〟に積んでいるエンジンは、通常三千万年分の時間移動に耐えられるモノであり、普通に使っていれば全く問題ない使用限度を確保していた。しかし、あの馬鹿がそれを大幅に超えて『恐竜を見に行きたい!』と、一億四千万年分をフルスピードで往復して帰って来たのだ。ある意味製作工場の工員達には賞賛を送りたいね」
「うわぁ……なんだか、もう買い替えるべきなボロボロの中古車を無理して乗り回しているみたい……」
「しかも、メーターの桁が億単位って……いつ壊れてもおかしくないんじゃない?」
美紗都と円が不安げに改めて周囲を見回す。
どこを見てもピカピカだが、その心臓部はどうやら廃棄寸前というのも生温いほど酷使されている様だ。
「もしや無比様はそれを見越して〝ルシファー〟を消耗させていたのか?」
「いいや違うわね。あの人のことだから『恐竜を見に行きたい!』の部分はガチだったんでしょ。でもって、その結果こっちが割を食う……あの人の行動は大して考えなくても大抵他の人間が被害を被る様になってんのよ」
考え無しでも他人が被害を受ける。
まさに生きた災害の様な存在だ。
しかし……。
「で、でも……それって、もう随分前から分かっていたことですよね?」
「あぁ、無論だ。そのため私はこのあと〝ロータス〟のいる未来にまで向かう前に、その随分手前……2308年に飛ぼうと考えていた。……七緒、歴史の授業だ。2308年には何がある?」
「はい、2288年に地球に墜落した彗星を元に造られた超高濃度エネルギー体――〝コメット・コア〟が秘密裏に完成した年です。ちなみにそれが公になったのはそれから400年後ですね」
「正解だ。ちなみにそれを造り上げたのが〝Answers, Twelve〟の遠縁組織でもある。問題の一つを解決するべく、次に我々が起こす行動は、そこへ向かい出来立ての〝コメット・コア〟を一つ頂戴してしまおうというモノだ。もちろん、すでに手は打ってある」
良善がホログラムのモニターを呼び出し、全員の前に広げさせる。
写っているのは時元空間。そこに一隻の時元航行艦が漂っていた。
「〝イオフィエル〟……四つの顔、四つの腕、四つの翼を持つ者とされる知恵、理解、判断力を司る天使の名を付けた私がほぼ私物化していた研究艦だ。艦戦能力はさほど高くは無いので置き去りにしていたが、一応この〝ルシファー〟の姉妹艦でもありそろそろ回収しておこうと思う」
良善の私物というその機体は、真ん中の胴体と思わしき部分は長く引き伸ばした円錐形をしており、その上下左右に樽型のブロック部を設けて十字のフレームで繋ぎ、さらにそのブロック部同士も丸いフレームで繋がれたまさに未来の船といった感じのシルエットをしていた。
「この機体は現在2300年の辺りで自動航行させている。この機体と合流して2308年の本流世界で略奪作戦を行う。今回の舞台は側流世界ではない。下手をすれば人類史が滅茶苦茶になるだろうからこちらも相応の注意が必要だ」
「そ、それはまたなんとも……でも、それって大丈夫なんですか? そもそも、そんな重要な場所なんて〝ロータス〟が先に手を打ってるんじゃ……」
「いや、その心配はない」
やけにハッキリと言い切る良善。
すると、先ほど指名された七緒が話を引き継いだ。
「2308年の本流世界は〝ロータス〟も決して無茶なことは出来ません。先ほど私が言った通り〝コメット・コア〟は2708年に公にされた技術であり、それ以降の人類社会の発展は〝コメット・コア〟無しでは語れないほどなのです。つまり、向こうからしても自分達の今を守るために2308年は決して壊す訳にはいかない人類の分岐点の一つという訳です」
「なるほど、どちらにとっても重要って訳か。でも、だからこそ向こうだって……」
「あぁ、間違いなく戦闘自体は起きる。無茶苦茶なことは出来ない分、向こうもそれなりに知恵が回る奴が指揮を執るだろう。力技がモノをいう戦いではない。そして、そこで重要になるのが……こっちの戦力の精度。カギになるのは君だぞ? ――司」
「お、俺?」
良善の顔が一段と真剣味を帯びる。
確かに、こちらの最前線に立つのは良善よりもまずは自分だろう。
そこで自分が重要とは、つまり……。
「もしかして、もう一つの問題って……俺の能力に関することですか?」
「フフッ……段々賢さも増して来たじゃないか。その通り。ちなみに司……君は自分の能力を〝感情を操るだけ〟としか見ていないだろう?」
「え? ち、違うんですか?」
「当たり前だ。〝D・E〟には能力の階層が存在し、それが上がるにつれて能力はさらに強力なモノへと進化する。達真を例に挙げよう。君があいつの能力を最初に見た時、あいつは光速を越える速さで移動して見せたな? その次にあいつの能力を見た時……あいつは何をした?」
「…………如月を、吸収してました」
現場を見ていない他のメンバー達がギョッとする。
特に七緒、真弥、千紗の反応は顕著だったが、詳しい説明は後回しだ。
「そうだね。一見この二つの能力は全く別の系統に思えるだろう? しかし、違うんだ。達真の能力は一言で言えば〝自分が最強である〟というキーワードの下……〝誰にも追いつけない速度〟〝他者を自分の糧にしてしまえる〟など、全く違う様に見えて根幹の部分では〝他人より自分の方が上に〟で共通している。〝D・E〟保有者にはテーマが存在するんだ。それが〝D・E〟の唯一のルールと言っていい。そして、感情を操る君の能力もそのテーマに沿ってさえいれば、一見全く別の様な力を発揮することが出来る。言っておくが君の能力の先には……私や達真をも脅かすモノがあると私は見ているぞ?」
「良善さんや……あ、あいつにも?」
「あぁ、しかしそのためのステップを今までの様に示唆してやるつもりはない。君の能力を育てられるのは君だけだし、下手の助力は完成度を鈍らせる恐れもあり、私としては絶対に避けたいところだ。相応の苦労はあるだろう。次の作戦で目覚め切れるかもまだ怪しい。だが、私から言えるのは『頑張れ』だけだ。皆もそのことを弁えた上でしっかり副首領様に仕えたまえ」
「「「はいッ!!!」」」
ルーツィア、紗々羅、曉燕、七緒、美紗都は強い決意を持って返事をする。
「は、はい!」
「うん、私達も助けて貰ったし、ここは……ね、ツカサ?」
『あぁ、やろうとしてることはアレだけど、俺達も今更だし……それにちゃんとお礼はしないとね』
夜空は雰囲気に流される感じで返事をして、円とツカサは頷き合い同意する。
ただ……。
「「…………」」
未だ明確な立ち位置が定まっていない真弥と千紗。
しかし、釘を差す様に七緒が振り返り、二人は押し黙る様に並び立ったままだった。
そして、主題に置かれた司はというと、今一度改めて示された自分の底知れない可能性に口を噤む。
自分のこととはいえ、全く要領を得ない今の時点ではそんなモノまるで自信にはならない。
寧ろ、まだ自分の中には自分では想像も出来ない領域があるのかと、司の足はテーブルの下で微かに震え、その口端はどう呼べばいいのか分からない感情に押し上げられていた…………。
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峪房四季 @nastyheroine