四
「俺の名前は神崎豪。今年二十歳になる至って普通の大学生。ルックスは特に目立つ感じじゃなくて、女の人にモテる部類ではない。勉強は普通に嫌いだ。運動神経も良くもなく悪くもなく。趣味はこれと言ってないが、友達と遊んでる時間は最高に充実してるんだ......将来のことを考えると不安しかないし、彼女がいないのは正直寂しい。今はただ、友達と過ごす時間をなによりも大切にしていこうと思うんだ......」
どうして。
どうしてこうなったのか。
どうして充は死んでいるのか。
どうして目の前に死体があるのか。
どうして昨夜からの記憶がないのか。
どうして何も分からない。
何も。
何も分からなかった。
「充......」
充の死体のあったトイレを後にして廊下を歩いていく。
二発の銃の発砲音は直ぐ近くで聞こえてきた。
銃声が鳴った方と思われる方向とは反対方向へ早歩きをする。
充の死を悲しんでいる余裕がない状況。
「本当に殺し合いが起こってる......いや、まさか気味の悪いメッセージが来たくらいでそんな簡単に人を殺せる訳がない」
実際に充の死体はそこにあった。
今も銃撃音が聞こえてきた。
状況的に普通じゃない。
それは間違いない。
「とにかく電波のあるところまで行かないと......」
廊下を抜けると避難通路の扉を見つけた。
扉は開いていて、その先は上と下の階へ行ける避難階段があるのが確認出来る。
ここでスマートフォンを見てみると、電波が二本立っていた。
場所を移動したおかげか、今なら電話も出来るみたいだ。
急いで110番で警察に電話を掛ける。
発信音が鳴って間もなく相手が電話に出た。
「はい、こちらコロシタノダレ緊急司令部。殺人ですか? 脱走ですか?」
「え?」
「あの、神崎豪様ですよね?」
「そうですが......」
電話が繋がった先は警察ではなく、ゲーム主催者側のコロシタノダレ緊急司令部という場所だった。
「抜け駆けはあまりよろしくありませんね。次に外部と連絡をするような動きがあれば、予めセットしておいた爆破装置が作動し、スマートフォンを爆破させていただく事になるかと思います。どうかお気をつけください。間もなくゲームが始まりますので、そのままお待ちください」
110番に掛けた筈だがどうなっているのだろうか。
スマートフォンの発信履歴を確認してみると、何故か知らない番号に掛かっていた。
画面の通話ボタンを見ると、見覚えのないマークになっていた。
電話のマークではなく、拳銃のマークに変わっている。
どうやら通話アプリそのものがレプリカにすり替わっているようだ。
せっかく繋がったた電話だが、ここで切れてしまう。
「スマホを爆破する......これに爆破装置が仕掛けられてるのか??」
スマートフォンが本来の役割を果たしてくれないかもしれない事実を知り、絶望的な気持ちにやられる。
「とにかくここから出ないと。出口を探そう......」
避難階段は上の二階にも下の地下一階にも進める。
二階へあがって別の階段から一階へ戻り、出口を見つけようと考える。
その時だった。
二発の銃声が聞こえた場所と同じ方向から更に一発の銃声が聞こえてきた。
その直後に今度は自身のスマートフォンから何かの通知音が鳴り出す。
「え......!?」
銃声から遠ざかるように二階へあがり、しゃがみ込んでスマートフォンを確認してみる。
新着メッセージ。
送り主、さやか。
日付は五月五日。
時刻は午前三時二十九分。
『ただいま参加プレイヤー様が全員目を覚まされました。これより〝コロシタノダレ〟始業式を行います。各自、一階の大広間ゲームルームへお越しくださいませ。大広間の場所は、画像より赤色の枠で囲まれた空間になります。まずは地図をご確認ください。よろしくお願いします』
メッセージには本文と一緒に施設一階の地図も送られていて、画像を確認してみると赤色の枠で囲まれた大広間と思われる場所が確認出来る。
プレイヤー全員が同じ場所に集まり、ゲームの始業式を行うみたいだが、一体何をやらされるのか。
どうして充が殺されているのか。
行くしかない。
行って主催者側の話を聞くしかなかった。
「拳銃を持った危険人物もいる。慎重に行こう......」
神崎豪は大広間ゲームルームへ向かうことにした。