三
一階と二階に繋がる階段にいた篠田みいなと警察官の男が、下の階から銃声が聞こえた頃。
場面は変わり、二発の銃声が響いた一階フロアの隅にあるテーブルにて恐怖で身体を震わす男がいた。
「あのイカれたクソアマ、マジで撃ってきやがった! ワンチャン俺に当たっててもおかしくなかったよな......!」
身体を震わす男は、自身のスマートフォンの画面を見て舌打ちをした。
知らない人物からデスゲームについてメッセージが届いていた。
そのメッセージを開き、謎の差出人〝たぬき〟に返信を入力し始める。
彼に送られてきたメッセージ内容は以下の通り。
送り主はたぬき。
日付は五月五日。
時刻は午前一時八分。
『清水魁斗様へ。この度はデスゲーム〝コロシタノダレ〟への参加おめでとうございます。これからあなたは、プレイヤーナンバー13としてゲームに参加いただきます。特殊機能やゲームルールの詳細は、ホームに表示されたコロシタノダレファイルで確認出来るようになってます。まずは、ゲーム詳細の確認をよろしくお願いします。また連絡します。たぬき』
突然人に命を狙われたのは、訳の分からないデスゲームに参加させられたからかもしれないと考える。
ゲーム不参加の意思を伝えようと、たぬきにメッセージの返信を書き込んでいるようだ。
そんな状況に待ったなしで、カツカツとフロアを歩く足音が響いて聞こえる。
明らかにこちらに近づいてきている。
「ヤバいな。追ってきてるじゃねぇか......」
清水魁斗が逃げてきたフロアには、銃を構えた女が歩いている。
辺りを警戒しながら、人が隠れられそうな場所を探している。
「あの、さっきは間違って撃ってしまってごめんなさい。本当にそんなつもりじゃなかったんです。それだけはお伝えしておきたくて......あの、このまま誤解を受けたままじゃ嫌なので、一度出てきてはいただけないでしょうか?」
二発の銃撃は誤発だと説明する女。
その発言を聞いた清水魁斗は、今の考えを改めるべきか悩み始めた。
「お願いします。直接謝らせてください!」
状況を少し整理してみる。
目が覚めたらホテルのような施設で目を覚ました清水魁斗。
同じく目を覚ました女は、拳銃を持って辺りを探索していた。
お互い出口を探して歩いていたところで出会し、少し話した後に女が二発の銃弾を撃ち込む。
銃弾は清水魁斗には当たらなかったが、当たっていてもおかしくない状況だった。
女は拳銃を使い慣れていないのだろう。
二発目の銃撃の後、尻餅をついてその場で倒れてしまう。
その隙に清水魁斗が近くのフロアまで逃げてきた流れになる。
「怖かっただけなんです。あの、お願いします。出てきてください」
「だったら銃を捨ててくれよ。そんなしっかり構えられてちゃ怖くて出て来れるもんも出て来れないだろう!」
銃を捨てろとお願いをされた女は、慌てて胸元にしまい込む。
両手を挙げて、闘う意思がないことをアピールする。
「おい。どういうつもりか知らねぇが、俺は銃を捨てろと言ったんだ」
「大丈夫です。もう捨てましたから!」
女は銃を胸元にしまい込んだだけで捨ててはいない。
それなのにも関わらず、銃を捨てたとあっさり嘘を言ってみせた。
清水魁斗の隠れている位置から銃が見えないとでも思っているのか、女の胸元に銃があるのは分かっている。
「私も訳の分からないゲームに参加させられて、目が覚めたら何故か目の前に銃が落ちてて......怖かっただけなんです。あの、本当に撃つつもりなんてなかったんです。信じてください、お願いします!」
「俺だってあんたを信じてぇよ! でもあんたは銃を捨ててなんかいないだろ?」
「信じてください。本当に撃つ気なんてなかったんです!」
「こっちは実際に撃たれてんだよ! んなもん信じらんねぇだろうが!」
「そこにいるんですね」
手を挙げたまま、清水魁斗が隠れているテーブルに近付いて来る。
拳銃は胸元にしまったままだ。
「お願いです。顔を出していただけるだけでも良いんです」
「おいおい、マジかよ......!」
テーブル付近まで女が近付いてきた。
このままだと狙い撃ちされて殺されてしまうかもしれない。
テーブルの下から潜って反対側へ行き、意を決して女に突進する。
「うおおおおおおおおお!!」
女は胸元から銃を取り出し、清水魁斗に向けて発砲した。
だが、その銃弾は狙いを外して銃声だけが響く。
一気に距離を詰め、そのまま突進して女を突き飛ばす。
派手に倒れた女は銃を手放してしまう。
「はぁ......はぁ......はぁ......形勢逆転だな。この人殺しが」
「うう......」
倒れた女に馬乗りになった清水魁斗。
すぐ横に落ちていた拳銃を拾い、銃口を女の額に当てる。
「やっぱり俺を殺そうとしてたよな!」
「殺そうとなんてしてません! いきなり出てきたからびっくりしてしょうがなかったんです!」
「どうだ? 銃口を向けられた気持ちは。怖いとかしょうがないとか、そんな一言で片付けられる次元じゃないだろ! お前はさっきまで、これを俺にやってたんだからな!!」
「わ、わわ、分かりました。拳銃はあなたに渡します。殺さないでお願いします! 殺さないでください......」
その時だった。
お互いの所持するスマートフォンから新たなメッセージが届いた通知音が鳴り響く。
その音に驚いた女が額に当てられた拳銃へと手を伸ばした。