二
死体を見つけた神崎豪の叫び声が響いた頃。
場面は変わり、死体のあるトイレ付近の廊下を慌ただしく走り抜ける一人の少女がいた。
「はぁ......はぁ......はぁ......はぁ!」
どういう訳か。
目が覚めたら見知らぬ場所にいて、周辺を探索してたらトイレを見つけ、中に入ると知らない男の死体があった。
神崎豪より先に死体を見つけていたのだ。
その死体は全身銃弾を撃ち込まれたような穴が空いていて、死体も室内中も血だらけになっていた。
「どうなってるの。あれは絶対人形なんかじゃない。私、人の死体を見つけたの!? 最悪、最悪最悪最悪ッ!!」
この先がどこに続くのか分からないけど、恐怖のあまり走り続ける。
だが、それは長くは続かなかった。
「痛っ!!」
床に転んで倒れてしまう。
死体を見つけた直後に叫んでしまった為、殺人犯が探しに来るかもしれない。
現に叫んだ直後に何者かがトイレに近付いてきた。
室内に入ったかは分からないが、今の所後ろには人の姿は確認できない。
「誰か、誰か助けて......」
急いでスマートフォンを手に取り、警察に電話をしてみるが、電波が圏外のせいか繋がらない。
全力で走れる体力は僅かに残ってはいる。
体勢を低くして足音が聞こえないか耳を澄ましてみる。
自分の来た方向からコツコツと足音が響いて聞こえる。
こちらに向かってきているようだ。
距離を離そうと早足でその場を後にする。
長い廊下の先には上の階へ続く階段と外へと続く出口らしき扉があった。
「何で? 開かない?」
出口らしきドアは、ハンドル式になっていて、近くにはカードキーのような物を通す機械が取り付けられている。
頑丈に閉められていて押しても引いてもぴくりとも動かなかった。
このままでは何者かに見つかってしまう。
上の階への階段が不気味に続いている。
「行くしかないよね......」
彼女も神崎豪にあてられたメッセージと似たような内容が自身のスマートフォンに送られていた。
〝あだち〟の名前の者から送られてきたようだが、彼女の知人であだちの名は浮かばない。
内容は以下の通り。
送り主はあだち。
日付は五月五日。
時刻は午前一時四十分。
『篠田みいな様へ。この度はデスゲーム〝コロシタノダレ〟へご参加ありがとうございます。これからあなたは、プレイヤーナンバー1としてゲームに参加させていただきます。与えられる特殊機能やゲームのルール等の説明は、スタンドファイルにて保管してあります。これからよろしくお願いします』
気味の悪い施設で参加した覚えのないゲームの話が出て、少し周囲を探索しただけで死体を発見するこの状況。
自分はただごとではない何かに巻き込まれてしまったと焦っている。
「おい。そこの女。止まれ!」
それは突然のことだった。
上の階へ上がろうと階段を登り、半分の折り返し地点に来たところで上から男がやってきた。
しかもその男は拳銃を所持していて、こちらに銃口を向けている。
「な、なんですか?」
「お前ここで何をやっている?」
男は銃を構えながら、女に手を上げろとジェスチャーしてみせる。
彼女は手をあげて抵抗する意思がないことをアピールする。
「聞こえなかったか? ここで何をやってると聞いているんだ」
「え、えと......私にもよく分かりません」
「どういうことだ!?」
ふざけた回答は二度とするなと言わんばかりに、拳銃の安全装置を解除して構える。
「ひぃぃい!?」
「どういうことだと聞いている!」
「め......目が覚めたらここにいて、ここに来た覚えもなくて、どこにいるんだろうと思ってその辺を歩いてたら、下に出口みたいな扉があって......でも開け方が分からなくて、とりあえず二階に行ってみようと思って......」
死体を発見したなどどは絶対に言えない。
そんなことを言ったら口止めに何をされるか分かったものじゃない。
拳銃を所持してる時点で男が普通でないのは間違いない。
「お前、ゲームの事なにか知ってるか?」
「え? ゲームですか?」
ゲームといえば、自分のスタートフォンに送られてきた意味不明のメッセージが浮かぶ。
ひょっとしてその事を言っているのだろうか。
「よ、よく分からないですけど、なんかのデスゲームに参加しましたみたいなメッセージが来たんですけど、その話ですか?」
「お前プレイヤーか?」
「プレイヤー? いえ、よく分かりません......」
薄暗くて直ぐには気付かなかったが、よく見ると拳銃を構える男は警察官の服装をしている。
「あなた警察の方ですか!?」
「ああ......」
「お願いします! 助けてください! 私、何者かに拉致されてここに閉じ込められているんです! 下の階に男がいました!」
男の正体が警察官だと知った瞬間、警戒心がなくなり手を下ろして助けを求めて近づいていく。
だが、男の態度は一貫して銃口を向けたまま動かない。
「動くな! いいから手をあげろ!」
「ひいい!」
警察官の男が、胸ポケットから何かを取り出してこちらに向けてきた。
動画が再生されたスマートフォンだ。
その動画を彼女に見せてきた。
「どういうつもりだ? お前、ここに映ってる人物と同じだよな。お前はこのゲームの事を知ってるんだろう?」
「なにこれ......」
警察官の男は、自身に送られてきたゲ謎のメッセージを開いて、その後にゲーム詳細のファイルを開いていた。
そこには説明書きの文章と動画が入っていて、他には〝コロシタノダレ〟ゲームアプリが入っていた。
その中の動画を再生しているようだ。
「なんで私がいるの。それにあなたも映ってる......」
「ああ、この動画の事なにか知らないか?」
そこには、プレイヤーと呼ばれる集団が一箇所に集まって眠っている映像があった。
一人一人のプレイヤーナンバーと名前を撮影者らしき人物の音声が流れ、一人一人の名前と性別、プレイヤーナンバーを紹介している。
眠らされているプレイヤーの中には篠田みいなの他、目の前にいる銃を構えた警察官の男の姿も映っている。
「どういうこと。やっぱり私......誰かに拉致されてるの......こんな映像撮られた覚えないです。見てください。眠らされてます」
事情を聞いた警察官の男は拳銃を下ろして、重たいため息を吐く。
「あの、お願いします。助けて下さい......」
助けを求める篠田みいなに対し、警察官の男が頭を抱えて返答する。
「出口を探しているからお前も協力してくれ。自分も気がついたら此処にいて、出口を見つけられないでいる。ゲームに参加した覚えはない。メッセージに自分の名前とプレイヤーナンバーが書かれていたから、きっと君と同じプレイヤーなんだと思う......」
警察官の男が篠田みいなに協力して出口を探そうと誘導する、その時だった。
下の階から二発の銃声が鳴り響いた。