一
痛い。
身体中がズキズキと痛くて目を覚ます。
視界がぼやけて見える。
「いたたた......」
身体を起こそうと立ち上がってみるが、立ち上がり直ぐに頭を強打して倒れるようにしゃがみ込む。
「痛いって!」
狭い空間で眠っていたようだ。
次は慎重に立ち上がろうと何かに掴まろうとしたが、目の前の〝それ〟が開いてズッコケる。
「うわあああ!!」
大きな物が倒れる音が響いて、そのまま薄暗い空間へ身体が放り出される。
「うぐっ......」
目の前に現れたのは、人一人がしゃがんで入れる大きさのゴミ箱とゴミ箱の蓋らしき物が転がっていた。
どうやらこのゴミ箱の中から出てきたみたいだ......
「ここはどこだ?」
薄暗い空間に微かに見える大きなテーブル。
テーブルには椅子が複数置かれていて、テーブル上には火が灯されたローソクが並んでいる。
下に轢かれた赤いカーペットは、小動物か何かの引っかき傷が複数あってボロボロになっている。
完全に身に覚えのない場所。
「どうなってるんだ?」
ここまで来た経緯を思い出せない。
ゴミ箱の中で眠っていたのも意味が分からない。
「今何時だ?」
ポケットに手を入れてスマートフォンを取り出す。
画面には日付と現在時刻、残りの電池量と電波状態、それから二件の新着メッセージ通知が表示されている。
日付は五月五日。
時刻は午前三時十一分。
残りの電池量は二十七%。
電波状態は圏外。
「圏外か。充はどこに行ったんだ?」
昨日の記憶を少し遡ってみる。
充を含めた三人の友人と会う為、夜に自宅から最寄りの駅まで歩いていた。
最寄り駅に行く前に、自宅から徒歩で五分の所に住んでいる充の元へ伺い、二人で最寄り駅付近を歩いていた。
最寄りの駅に到着し、改札口を通ろうとした所で充が財布を忘れたと言い、取りに戻るから駅で待っていてくれと頼まれる。
「そうだ! あの時俺は改札を通らないで、近くにあった自販機に行ったんだ」
そのまま駅の入り口前で充が戻ってくるのを待っていた。
その十分後に充からメッセージが届いてきた。
「なんて送られてきたんだったか?」
未読の新着メッセージを飛ばして、充から届いたメッセージ内容を確認してみる。
日付は五月四日。
時刻は午後七時三十一分。
『ごめん、先に行ってて』
充のメッセージに対して了解と一言返し、メッセージは終わっている。
充とはあれから合流した覚えがなく、自身がその後に乗る予定だった電車に乗った覚えもない。
電車に乗っていないのであれば、ここは自宅からそう遠くない筈だろう。
試しに充に電話をしてみるが、圏外のため繋がらなかった。
未読の新着メッセージを確認してみる。
二件とも同じ人物から送られているようだが、内容がぶっ飛び過ぎて理解が追いつかない。
とにかく優先すべきなのはここがどこで何をしに来たのか、ここに至るまでの経緯を思い出すこと。
理解不能な二件のメッセージに関しては考えないことにした。
「少し歩くか......」
カツカツと自分の足音がフロア内で響いて聞こえる。
天井が果てしなく高く、真っ暗闇が続いてよく見えない。
左右の壁には絵が飾られている。
「ホテルか何かかここは?」
歩きながら他に持っている物はないかポケットの中を確認してみるが、何も持っていないようだ。
手に持っているスマートフォンを握りしめて先へ進んで行く。
その画面には、先程既読をしたメッセージが表示されている。
ーー新着メッセージ。
送り主、さやか。
日付は五月五日。
時刻は午前一時三分。
『神崎豪様。デスゲーム〝コロシタノダレ〟へようこそお越しくださいました。あなたにはゲームプレイヤーナンバー5の名誉と特殊機能を追加させていただきました。これから思う存分、その手で人を殺害してくださいませ。運営の身として貴方というプレイヤーを尊重し、陰ながら見守らせていただきます。よろしくお願いします』
二件目の新着メッセージ。
送り主、さやか。
日付は五月五日。
時刻は午前一時四分。
『ゲームの詳細をまとめたファイルが貴方のスマートフォンに保管されております。ゲーム開始前に内容をご確認ください。以後、運営からの連絡等は、私の方でメッセージを送らせていただきます。よろしくお願いします』
イタズラか分からないゲームの話を〝さやか〟という知らない人物から送られていた。
「わ!?」
隣の部屋から人の叫び声が響いてきた。
「誰かいる?」
ロウソクの灯りだけが頼りの薄暗いフロアを走り抜け、更に暗い廊下へ出る。
そこから慎重に叫び声が聞こえた方へ向かう。
廊下に出て直ぐの所にトイレマークのドアを確認。
反対側にはどこかへ続く青色のドアがある。
その更に奥は暗くて何も見えない。
トイレマークのドアを開けてトイレの中を確かめる。
「え......え? えええ!?」
そこには、全身傷だらけで、銃弾のようなもので開けられた穴から噴き出た血に塗られた......充の姿があった。