第九話 感知
真っ白な建物が並ぶ美しい街、ユリシス。
ユリシア王国の『王都』とも呼ばれるこの街は、王国一の人口と武力を誇る大都市である。
大海から大陸に食い込むような湾に沿って作られた街で、少し高台に行けばどこからでも青い海を見渡すことが出来る。
そこにはいつも、漁船や商船、軍艦が浮かんでいる。
そしてひときわ目立つ建物が、街から海へ突き出るように出ている山の上に建てられた、真っ白なお城だった。ユリシア王家が住む王城、通称『白銀の城』。
――その一角。巨大な時計台のような施設の中。
その中では、球体に輪をかけた様なオブジェクトが空中でぐるぐると回っている。
周囲には火の付けられた燭台が空中に浮遊している。
さらにその下には、大量の本やら紙やら謎の機材やらが散乱している区画があった。そんな混沌とした部屋の中に一人、椅子に腰かけて本を読んでいる女が居る。
その女は、美しい真っ白な髪を持っていた。白に金の刺繍が入ったローブを纏っており、その中から白い腕が伸びて本のページをめくる。
彼女の姿を一目見れば、只者ではないと理解するだろう。雰囲気、美しさ、その全てが常人ではないことを示している。
だが女は、突如ぴくりと肩を震わせた。本を閉じ、上の謎のオブジェを見上げる。オブジェはというと、何かに反応して荒ぶるように、輪を回転させる速度を速めていた。
ガガガガガガガガと火花が散ってくる。
「……この魔力は……」
呟き、ふわりとその場で女が浮かび上がる。
そして球体の元まで浮かび上がり、ひゅっと腕を払った。
するとオブジェの回転が急停止し、周囲を回っていたいくつもの輪、それに付いていた指針が、一斉に同じ方向を指したのである。
「南……。帝国の方向か……」
そして顎に手を当て、思考を巡らせる。その時、ガチャリと音がして部屋の扉が開かれた。
「イルフリーデ様、夕食をお持ちしました」
入ってきたのはメイド服を着た女性である。
がらがらと運んできた台には料理が載せられている。
メイドは浮かんでいる女を見付け、「どうかされましたか?」と声をかけた。
白い女はメイドを見下ろし、
「……ノーザン山脈まで行くわ。兵を用意して頂戴」と、唐突に言った。