第五十九話 第三競技『陣営戦』2セット目
暫くして、二セット目の入場が始まった。今度は反対側のクリスタルに位置取るリック達。対した王都学園側は毅然とした態度で箒に跨った。一戦目の感覚から、敵が余裕をかましていい相手では無いと理解したのだろう。しかし――、何故かリック達では、リック以外箒に跨らない。
「なにやってんだ?」と、観客席でも疑問の声が上がった。しかし、審判は待ってはくれない。
『第二セット……開始っ!!』
決戦の火蓋が切られた。ここで王都学園がポイントを取れば、向こうの勝利が確定する。王都学園側は勝ちを取るため、一斉に浮かび上がった。だが、向こうで浮かび上がるのはリックのみ。他の生徒たちは杖を掲げて、リックの方へ構えていた。
――そして、
「「「「防御!!!」」」」全員で、リックへ魔法障壁を重ね掛けしたのである。
リックはにやりと笑い、そのまま……「うおおおおおおおおおおおお!!」敵陣に向かって、特攻を始めた!
「馬鹿な!」定石を崩すやり方に、選手たちは慌ててリックへ杖を構える。すかさず目の前に障壁が張られ、リックのものと衝突した。バババババ!! と魔力がこすれ合って火花が散る。
そんなリックに、王都学園側が放った攻撃魔法が次々と着弾した。空中に凄まじい爆音が響いてゆき、ブレンダが観客席で悲鳴を上げた。
「先生! あんなの死んじゃうっ! 辞めさせてっ!」だがそれを、アリサが抱いて抑える。
「落ち着きなさい、ブレンダ。リックを信じるのよ」ブレンダはそれを聞いて、騒ぐのを辞める。そして、目を覆いながらリックの方を見た。
「あああああああああああああああああ!!」
リックは叫びながら、火の海の中へいた。仲間たちが張ってくれた魔法障壁も、どんどんひびが入って来ている。一枚が割れ、また一枚が割れた。
不意を突いて、そのまま敵クリスタルに突っ込めれば一番良かった。しかし反応された以上……ここは耐えるしかない。耐えて耐えて、タイミングを見計らうのだ。
だが、障壁は無慈悲にも割れていった。
「撃ち落とせ! 殺す気でやるんだ!」敵側が興奮して叫ぶ。観客たちは悲鳴を上げて、目を覆った。
バリン、とまた障壁が割れ、残すはあと一つとなった。
「くそおおおおおおおおおおおお!!」それもどんどん割れて行く。割れた隙間から瞬時に温度が上がり、リックの肌を焦がした。だが、負けるわけには行かない。やっと、魔法使いになるチャンスを手に入れたのだ。絶対に、手放すわけには行かない。
「みんなと一緒に……魔法使いに……!!」
ばっと、今までの記憶がよみがえった。ハッと気づくと、最後の障壁が割れている。直後、リックに敵の魔法が直撃した。
ドォン! と悲惨な音を立てて、リックが黒焦げになって敵陣側へ落下してゆく。
観客席は悲鳴に包まれた。
「……ふう、やってくれたな」しかし敵側は、余裕の表情だった。
「まさかそんな命懸けの囮を使うだなんてね」その男は、片腕に何かを掴んでいた。その透明な空間に杖を当てると、何もない空間からテディが現れたのである。
あっと全員が驚く。そうか、テディを接近させる作戦だったのか、と。
敵はため息をついて、
「何かおかしいと思って、探知をかけてみたんだ。いやはや、驚いた。こんな子供が透明化を扱うなんて。一体どうなっているのやら」
そして、残った生徒たちに視線をやる。彼らは、完全に戦意喪失していた。当たり前だろう。すべてをかけた渾身の策が、あっさりと見破られてしまったのだから。
「やれやれ、これで、我々の勝利――」
そして勝利を宣言しようとした時、気づいた。こちらに落下したあの男が消えていることに。ハッとして、「あの黒焦げの奴はどこに――っ!?」と聞こうとする。その時、クリスタルの真下に、その男が這いずって移動しているのを見付けた。にやりと笑い、クリスタルに杖を向けている。
止めようにも、もう遅すぎた。少年は「バーカ」と笑って、クリスタルに魔法を撃ちこんだ。何の防御も張っていない真下から撃たれた攻撃に、クリスタルは無力だった。バキバキといとも簡単に崩壊してゆき――そして、割れた。
しーん、と競技場が静まり返る。倒れたリックは、最後にブイサインをしてみせた。そこから、堰を切った様な歓声が起こった。
「リック……」
思わずエルトールも立ち上がる。ブレンダは涙をボロボロ零しながら、立って拍手をしていた。リックは微笑んで、医療班に搬送されていった。観客席からは、いつまでも拍手が続いていた。




