第五十八話 第三競技『陣営戦』1セット目
これでポイントは一対一。そして次の陣営戦は――二セット勝負。合計二点を争う競技である。参加人数も最多で、十五人対十五人の大規模戦だ。今日行われる競技戦としても、最も観客が楽しみにしている競技でもある。
エルトールは参加生徒たちと共に、テントの中で円陣を組んでいた。リックがその中心で、声を張り上げる。
「パトラが繋いでくれた同点、……ここから後れを取るわけには行かねぇ。俺達が2ポイント取っちまえば、勝利は確定だ! 勝利を確定させて、アリサ先輩に楽させてやろうぜっ!」
「余計なお世話よ」
円陣の外に居たアリサがツッコミを入れた。アリサはきっちりとしたローブに身を包み、頭にはとんがり帽子をかぶっている。ほうきレースの正装という事で、王都の職人にオーダーメイドしてもらった服だった。
「頼んだぞ、リック。みんな」エルトールが呼びかける。皆は頷いて、
「絶対勝つぞっ!!」
「「「おおおおおおおおおおおお!!」」」
掛け声を上げ、ぞろぞろとテントから出ていった。それを見送り、そして二人になった中、アリサが話しかけてくる。
「大丈夫でしょうか?」
「……分からない。皆の力を信じるしかないな」
――あちらは仮にも、大量の入学希望者の中から魔力量を選定された生徒たち。さらにその中でも、戦闘が得意な者たちが集まっているはずだった。いくら技量で勝負をかけようにも、単純な出力勝負になれば分が悪い。
本当はブレンダとパトラで二点を獲得し、同点でアリサのほうきレースに賭けるのが理想的な運びだった。
だが、
「……僕は信じるよ。皆の事を」
そして二人は応援席に戻った。競技場には二つのクリスタルが両脇に用意されていて、真ん中には闘技場のような石の足場が設置されている。暫くして、ファンファーレが鳴り始める。
『次の競技は、陣営戦です』
こちらも緊張しながら、リック達が出てくるのを見守った。リック達も、王都学園側も皆箒を持っている。そして、クリスタルの前に横並びになり、全員で跨った。リックが、こっちにブイサインをしてくる。こっちもみんなで返した。アナウンスが始まり、
『一セット目……始めっ!!』合図が鳴り響いた。
バリィィィィィィン!! と音が鳴って、クリスタルが砕け散る。割られたのは、リック達のクリスタルだった。
試合時間、三十分。陣営戦は、壮絶な魔法戦を示して見せたが……、開始ニ十分でリック達は押され始めた。
魔法障壁に穴が開き始め、攻撃を加える暇が無くなり始めたのだ。そこからは一方的な攻撃だった。敵側は低級のみならず、中級の攻撃魔法を持ち出してこちらの障壁に打ち込んできた。
観客たちの歓声が鳴り響く。すっかり興奮した様子で、音楽を奏で、歌を歌っていた。大人数の魔法使い同士による魔法合戦。その様子は、観客が見たかった競技大会そのものだったのだ。観客たちには、接戦のように見えたというのもある。
だが、本人たちからすれば、単純な力量の差が露呈した試合だった。
「くそっ!!」
クリスタルの交換のため、一度テントに戻って来たリック達は、完全に勢いを削がれた様子だった。
「大丈夫だよみんなっ! 惜しかったじゃない!」ブレンダがみんなを励ます。
しかし、理解していた。単純に相手に押し負けたのだと。どことなく落ち込んだ空気の中、かつん、とアリサが箒の先で地面を叩いた。
「ほら、アンタたち。正座しなさいっ!」
リック達は驚いて、おずおずと集まってくる。アリサはエルトールの方を見た。何か声をかけてやれ、という事だろう。当然何を言うべきか考えていたが、これだというものが思いつかない。……しかし、言うべきことはある。
エルトールはそのまま、リックの前に膝まづいた。
「リック。正面からまともに戦っても勝てないことは、理解したね?」リックはこくりと頷く。
「正直、力を過信してました」
「いや、それでいいんだ」エルトールは続けて、みんなを振り返った。
「実力差を理解した。これだけで、一戦くれてやった価値はある。なら次どうするべきだと思う?」
リックは考え、「……正面から戦わない?」
「それが出来たら一番いいが、そう向こうも易々と通してはくれないだろう」エルトールはそれから、
「第一戦目は……とてもまともな戦い方だった。みんな、非常に理に適う動きをしていたよ。だが、理にかなっているだけでは力で勝る相手には勝てない。――もっと、常識から外れて考えるんだ。常識を超越する。それが、天才への第一歩だよ」
それを聞いたリックは、はっとしてこちらの目を見返してきた。何か掴めたのなら幸いだが、正直観客席から見ているだけでは、こちらとしてもいい案が浮かんでいないのも事実だった。
ただ、考え方を教えただけ。あとはリック次第である。
「……分かりました」リックは頷いて、立ち上がった。そして、チームメンバーに問いかけた。「みんな、俺を信じてくれるか?」




