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第五十七話 第二競技『魔法薬調合競争』

「納得いきません」


 エルトールは審判に直訴していた。

「あれは明らかに他所からの干渉です。あんな割れ方、不自然にもほどがあるでしょう」


「しかしですねぇ」

 審判はやれやれ、と言った感じでため息をついた。

「爆破の魔法を使ったでしょう、貴方の生徒たちは。あれのせいで割れたと言う事も、十分考えられるのでは?」


「あくまで爆破で勢い付けただけです。それにあの岩は、すこし飛ばされたくらいで割れてしまう程ヤワには見えなかったのですが?」


 エルトールは言いながらも、不毛だと感じ始めていた。この審判、こちらの言い分を聞く気が初めからない。


 ……考えてみれば当たり前の事だが。ここは王都学園の競技場。当然審判から役員に至るまで、皆王都学園側の人間である。


 暫くして無駄だと判断したエルトールは、仕方がなくテントへと戻った。テントでは、ブレンダがうずくまって泣いていた。皆が囲んで、彼女に声をかけている。


「ブレンダ」その中に入って、ブレンダの背中をさする。彼女は「ごめんなさい、ごめんなさい」と謝り続けていた。


「……君のせいじゃない。僕の責任だ。まさかこんな手段を使って来るなんて、思わなかった」


 仮にも国王によって開かれた決闘だというのに。まさか国王もグルだという可能性は――無いだろうな。イルフリーデが気づかないはずがない。


 しかし、どうするべきか。不正を暴こうとしても向こうは認めないだろうし、それに、今の衝撃は大きい。他の生徒たちも、普段頼りにしているブレンダが泣いているのを見て、気落ちしてしまっていた。


 ――そんな中、


「……ブレンダちゃんを泣かせるなんて、許せない」そう、力強く言葉にする少女が居た。皆が一斉に振り向く。


 そこに立っていたのはパトラである。だが、いつもの臆病そうな顔はそこにはなく、目にはめらめらと闘志を燃やし、今にでも敵に襲い掛かりそうな戦意を宿していた。


「……先生、大丈夫です」


 そしてパトラは、エルトールへ向かって力強く言う。「私が、取り返してきます」


 エルトールは、気圧されながら頷いた。正直、代表の中で一番心配していたのはパトラだったのだ。人前に出るのが苦手な彼女が、この大舞台で本領を発揮できるかどうか。しかしそんな心配が吹き飛ばされるほど、パトラは今、燃えていた。


「頼んだよ、パトラ。それとみんな」


 パトラチームの皆を見渡す。彼女たちは頷いて、テントから出ていった。そして――、


『次の競技は、魔法薬調合競争です』


 アナウンスが鳴り響く。競技場は変わって、今度は中央に巨大な土台が設置されていた。


 その上には鍋やら包丁やらの調理器具たちと、後は色とりどりの薬草やキノコ、それから虫の入った箱や鳥の羽、トカゲのしっぽまで、全て分類分けされて用意されていた。


 ファンファーレと共にパトラたちが、王都学園の代表と共に入場して来る。会場は気を取り直して、歓声を上げた。王都学園の生徒たちは、パトラを見て鼻で笑った。


「こんなのが相手? 馬鹿にされたもんだな」


 パトラたちは全く相手にせず、自分たちの鍋へと向かう。王都学園側は「強がっているだけだ」と判断して、にやにや笑いながら位置に付いた。


 ――そして、競技が始まったのだが。


「解毒薬!!」


 審判の言葉に調合を始める両チーム。それから数分かからずに、パトラチームが調合を終えた。


 「終わりました!」チームの一人が審判へ持ってゆく。審判チームはそれを回しながら確認し、全員が○の書かれた旗を上げた。


「次、眠り薬!!」次のお題が渡される。パトラは的確に、自身を持ってチームメイトに指示を出す。テキパキと動くこちら側に対し、王都学園は慌ててドタバタと動き出した。


「あ、こっちの材料を……」「違う! それじゃない!」


 と、意思疎通が出来ていない。みなちらちらとパトラたちを気にしているのだ。その隙に、もう二つ目のお題を終えたパトラチームは、「次、小人薬!!」と三つ目のお題を受けていた。


 そこから先は、凄まじい快進撃だった。パトラはお題を聞いて、直ぐ迷うことなく調合を開始した。王都学園側はやっと一つ目のお題を終え、次のお題に取り掛かるところ。


 観客席からは歓声というよりも、息をのむ音が聞こえて来た。魔法の事を何も知らない一般人でも、パトラのすごさがありありと伝わって来た。


 ――そして、全十問のお題の内、九問目に突入したところ。


「惚れ薬!!」


 そこで初めて、パトラの手が止まった。ざわざわと生徒たちがざわつく。惚れ薬……。それは、魔法薬調合の中でも最高難易度と名高い薬である。飲んでから最初に見た人間を、たちまち好きになるという……。


 市場でもとんでもない高値で取引されるものだった。


 パトラは手を止めて、じっと考える。その間に、王都学園側は六問目のお題を完成させていた。


 その難易度の差には、魔法薬を齧っているものなら簡単に気づける。明らかにパトラたちには高難易度の問題が出題され、王都学園側は簡単な問題ばかりだった。


「あいつら……ふざけやがって」


 リックが奥歯を噛みしめる。惚れ薬なんて、学生に作れるはずもない。――しかし、


「……よし」


 パトラは動き始めた。皆に指示を出し、素材を持ってこさせる。まさか、とその場にいた魔法使いの、誰もが思った。しかし彼女は迷いなく調合を進めて行く。額に汗を浮かべ、細かく温度を調節し、色を変えて行く鍋の中身をかき混ぜ、そして。


「できました」


 とうとう、完成した。完成品が審判の元へ持って行かれる。審判は面食らった様子だったが、その真偽を確認し、顔に驚きを浮かべた。


 そして最終的に、全ての審判が○の書かれた旗を振り上げた。


「なっ……」


 反応の差は顕著だった。魔法使いたちは驚愕し、一般人たちはその難易度が分からず、大きな歓声を上げた。


「パトラ! パトラ! パトラ!」


 とコールが響く。それでもパトラは動じず、次のお題を待った。審判は次のお題を確認し、そして険しい顔を浮かべた。そして、読み上げられる。


「強化回復薬」


 今度は魔法使いたちが、青ざめる番だった。


 それは無い、と王都学園の生徒たちですら顔を見合わせている。その様子に、一般観客たちも異変を感じ始めた。


 王都学園の最上級生が、こそこそと話す。


「強化回復薬って、帝国の賢者プギー様が開発した……」「ああ、それそれ! 無理に決まってんだろそんなの!」「賢者プギーの……」「嘘でしょ……」


 ひそひそとざわざわが広がって行く。そんな中、イルフリーデが立ちあがろうとした。しかしエルトールは手を挙げて、それを制す。


「大丈夫だ」と合図した。イルフリーデは首を傾げて、座り直す。そして、視線をパトラに移した。


 ――やってやれ。パトラはこっちへ、ブイサインをしてみせた。そして、「みんな、勝つよ」そう言って、調合を始めたのである。


 ……出来るはずがない。それが満場一致の、決断だった。強化回復薬とは、魔法の最先端の地、帝国の賢者プギーが開発した新型魔法薬である。その効力は凄まじく、重傷すら一瞬で完治する事が出来るという。王国には、レシピすら渡って来ていない。


 ――しかし、パトラに迷いは無かった。その脳裏には、エルトールと放課後行った、特別授業の記憶が焼き付いている。


 エルトールの盗まれた研究、その一つがこれだ。パトラは復讐の意味も込めて、丁寧に作業を進めて行く。難題故に、時間もかかるため、王都学園側が追いついて来た。


 王都学園の十問目は、変身薬だった。こちらとは比べ物にならないが、それなりの難易度なため、向こうも必死である。


 最後は、数秒の差となった。パトラの完成させた薬が審判に届けられた時、王都学園側の薬が完成したのである。


 審判に、魔法薬が手渡される。


 ――成功しているはずはない。王都学園側は、そう祈るしかなかった。誰もが祈った。エルトールたちも、観客たちも、サイモンたちも祈った。そうした祈りの時間の末……、

 審判たちは、○の旗を上げたのである。


『しゅ、終了っ! エルトール側の勝利っ! 1ポイントを獲得!』


 そのアナウンスを聞いて、観客たちが立ち上がった。


 空気を震わせるほどの歓声が会場内を満たす。パトラはふらふらと周りを見回して、それから顔を真っ赤にしてしまった。チームメンバーが駆け寄り、パトラに抱き付く。


「あいつ、すげぇ……」


 リックが唖然として呟いた。そんな中、「そう。パトラはすごいんだから」ブレンダが涙目で、自慢げに言った。


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― 新着の感想 ―
[一言] 元々エルトールが作った回復薬だからね・・・。 そんなものを試験に出しても、負ける訳がないもん。 次で2勝すればだけど・・・。メインはホーキレースだもんなぁ・・・。
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