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第五十二話 アリサの消沈

 ――そして、夏合宿から一週間後。もう競技大会がすぐそこに迫っているという中。エルトールたちの魔法学校には、どこか暗い空気が満ち満ちていた。

しーんとした教室で、エルトールが魔法で黒板に文字を書いてゆく。


「……こういう風に、魔法は属性に分類されている。しかし分類できない魔法も存在しており……。アリサ、例の魔法を――」


エルトールはつい癖で振り向いてしまった。普段はアリサが立っている場所だが、そこには誰も居ない。生徒たちも、どこかいたたまれない様子で目を逸らした。エルトールはため息をついて、


「……そうだった。じゃあ僕が見せよう」自分で魔法を実演するのだった。


 学校が終わった後、直ぐにリックが話しかけてきた。「先生、陣営戦についてなんだけど……」


「ん? ああ」

教卓で本を眺めていたエルトールは、ぼうっと振り向いた。


「一応、陣形を考えてみた。防御プロテクションでクリスタルを守るやつらを後方に固めて……」渡された紙に目を通す。リックは暫定的に陣営戦の代表者となってから、真剣に色々取り組んでくれていた。


彼に決めた理由は、サイクロプス戦での行動力とリーダーシップを買っての事である。勿論全員に罰は受けて貰った。テディに至ってはしばらく魔法の使用を禁じたほどだ。


「いいと思う」

エルトールは読み終わった紙を、リックに返した。


「あ、ありがとうございます」

教室を出て行くリックの背中を遠目に見送る。その後は、ブレンダが話しかけてきた。「あの、岩転がしのチームなんですが――」


 話題は競技大会に関する事ばかりである。彼らも彼らなりに空気を良くしようと、頑張ってくれているのが伝わってきた。――しかし。


「……アリサ、いいかい?」


 コンコンと扉を叩く。学校はすでに締め、空は暗くなってきていた。ノックをするも、返事は無い。


扉を開くと、奥のベッドにふくらみが見えた。エルトールは夕食の乗ったお盆を持ち、そのまま中へ入った。


「夕飯だよ。今日、街の人たちが食べ物の差し入れに来てくれたんだ。応援してるから頑張れって」


 返事は無い。エルトールは仕方なくテーブルにお盆を置き、そのまま部屋を出た。

 一階へ降りると、イルフリーデが紅茶を飲みながらくつろいでいた。


「まだあの子は落ち込んでいるの?」

「……ああ」頷いて、椅子に座る。


 原因は、夏合宿の時の決闘だった。ナターリアとアリサの一騎打ち。エルトールとしては、十分勝ちの見込める勝負だと考えていた。確かにナターリアの魔法の才能は凄まじいが、アリサには教え込んだ技術がある。十分才能の差は埋まると計算していた。


 ――しかし実際は、ナターリアの圧勝だった。アリサは防戦一方でほとんど攻撃を加えられず、最後は焦ったせいで障壁に穴が開き、吹き飛ばされた。そんなアリサの元へナターリアは駆け寄って行って、助け起こしたのだ。


『ごめんね、強くやりすぎちゃった』


 その時のアリサの表情は、エルトールの脳裏に焼き付いている。色々な複雑な感情が爆発したような、絶望したような表情だった。結果、エルトールたちは決闘の契約に従って、翌日の朝山を出発する事となった。


 あまりに唐突過ぎる、合宿の終わりだった。その日以降、アリサは自室にこもって、出てこなくなってしまったのである。


「このままだと負けね」イルフリーデが無情にそう宣告してきた。かちゃりとカップを置く音が静かに響く。「敗北を自ら引き寄せているわ」と、付け加えてきた。


「分かってるよ。でも、どうしたらいいか分からないんだ」

 実力はスペックでは語れない。アリサが実力を出せてさえいれば、あそこまで一方的な展開にはならなかったはずだ。


「原因は分かっているの?」

「……向こうの代表生徒とアリサは、元々知り合いだったらしいんだ。そのことが関係しているとは思うんだけど」


 ――どうするべきか。もう、手をこまねいていられる状況では無いのかもしれない。どう考えたって、アリサの代わりは居ない。他にナターリアに対抗できる様な生徒は居ないのだ。


「……明日、王都学園に行くよ」


 イルフリーデは視線をこちらに移した。「それで?」

「ナターリア……向こうの代表生徒に話を聞く」

 エルトールは今後の方針を決定した。


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