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第五話 見習い魔法使い

「大丈夫?」

「ひうっ!?」


 突然声をかけられ、びくっと振り向く。そこには、自分と同じようにローブを着た青年が立っていた。


「だ、だだだだだ、誰っ!?」


 真っ青になって聞いてくる女の子。また聞かれた。この村に着いてからすでに三回目だ。

「あー、僕はエルトール。旅の魔法使いだ」


 女の子はしばらくガタガタしていたが、どうやら状態を理解したらしく、ほうっと息を吐いて立ち上がった。

「な、なんだ……。ただの魔法使いか……」

 そしてポンポンと土ぼこりを払う女の子。なかなかにボロボロだ。


「……大丈夫かい?」

「んん? 大丈夫大丈夫! 大丈夫に決まってるじゃない! あたし、凄腕の魔法使いだから!」

 少女は自信満々に胸を張った。

 ほう、凄腕とな。少女はびしっと黒焦げになった怪物を指さし、


「このミノタウロスの死体を見てみなさい! あたしがやったのよ! 上級の魔物を一撃必殺だなんて、これはもう凄腕魔法使い以外の何物でもないわ!」


 …………。どこから突っ込めばいいだろうか。少女はふふんと自慢げな表情で、ちらちらとこっちの反応を伺ってきている。自分の才能を疑っていない様子だ。

 まあ、いいか。と思い直し、エルトールはニッコリと笑った。今は仲良くして情報を聞き出したい。


「あー、……すごいね! 君、もしかして天才?」


 少女は輝かんばかりの笑顔を浮かべた。ちょっとだけ罪悪感。


 二人はそれから、エルトールのキャンプへと移動した。少女は移動中、自分の冒険劇を語りながらずっと腹を鳴らしていたので、到着してからすぐに食料を分けてやった。

 山を渡ってくるときに採取した木の実とか、魔物の干し肉だとかである。


 少女は焚火の日の向こうで、がつがつと食料にありついている。その顔が炎に照らされている。


 ……どう見ても幼い。ユリシア王国の魔法使いは、この年齢で独り立ちするのだろうか。

 エルトールの卒業した帝国魔法学園は基本的に十二歳に入学し、十八歳に卒業する。この少女は大きく見積もっても十五、六歳だ。

 そう考えていると、少女が顔を上げて、こちらを見てきた。


「ん? あたしの顔になんかついてる?」

「ああ。口の端に」指で示してやると、少女は舌で舐めとった。そして思い出したように、

「そういえば、名前言ってなかったわ。あたし、アリサ。王都からやって来た凄腕魔法使いよ」


 自分で凄腕と言ってしまうあたり、そこはかとなく胡散臭いが。エルトールも自分を天才だと認識しているので、そこは突っ込まないことにする。


「アリサちゃんか。君が、この村の異変を解決しに派遣されたっていう?」


 と聞くと、ちょっと気まずそうな表情をした。「……まー、そんな感じ?」もぐもぐと口を動かしながら、

「いやー、それにしても、食べ物まで分けてもらっちゃって悪いわねー! 貴方、とてもやさしいのね!」

 と、あからさまに話題を逸らした。どことなく語気が強くなっている気がする。


「て、ていうか! えーっと、エトルールだっけ? 貴方は何しに来たの? こんな辺境の地に!」

「エルトールだよ」

 付け加える。アリサはうぐ、と口を噤んで、

「長いのよ! エルでいいでしょ?」と言ってきた。


 長いって言われるのは初めてだ……。まあ、呼び方なんて何でもいいけど。


「僕は帝国からこっちへ渡って来たんだよ。色々と事情があってね」


 そう言うと、アリサはぽかーんと口を開いた。そして、


「アハハハハハハ!! 面白い冗談言うのね! 帝国から来たって? それじゃあ、あの山を渡って来たって事?」

「そうだけど」

 何がおかしいのだろう。アリサはお腹を抱えて笑っている。

「ふー、ふー、あー、お腹痛い。なるほど、分かったわ。うんうん、そうよね。ホントの事は言いたくないわよね」と、何か一人で納得している。そして優し気な視線を送ってきて、

「貴方、見習い魔法使いね? その年になってもまだ見習いなんて恥ずかしいから、山を渡って来ただなんてとんちんかんな嘘を付いたんでしょ」

「違うけど」


 何を言ってんだこの子は。


「大丈夫。気にしなくていいわよ。あたしも見習い魔女だから」


 なぜか一人で納得してしまっている見習い魔女、アリサ。

 どうにもここまで話した感じ、少々思い込みの激しいタイプの様だ。はてさてどうしたもんかな、と考え、取り合えず情報収集。


「じゃあ、王国は見習いの魔女を異変の解決に送って来たって事?」

「いや、あたしは通りかかっただけ。でも困っている人が要るんだもの。魔法使いとして、放っとけないでしょ?」

 当然でしょ? といった感じで言うアリサ。結構正義感があるのかもしれない。


 アリサはごくんと残った干し肉を飲み込んでから、だっと立ち上がった。

「ごちそうさま! ってワケで、あたしも御礼しなきゃね」

「御礼?」できればこの国に関する情報が欲しい。が、そんな意見を口にする前に、

「エル、貴方を私の弟子にしてあげる!」


 と、ニコッと微笑んで言ってきたのである。

 ……そうきたか……。


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