第四十九話 洋館の怪物
一方テディたちは、丁度川を渡っているところだった。ひょいひょいと石を飛び越えて、対岸に着地する。
その手には松明が握られていた。
他の四人も次々と川を渡る。そして、対岸の不気味な暗闇を湛えている木々たちの前に並んだ。
「この奥に例の建物があるんだ」
テディは目を輝かせながら言うも、他の四人は後悔し始めていた。予想以上に怖かったのである。
「な、なあ。やっぱり帰らね?」一人が提案する。
しかし、「何を言うんだ。ここまで来ておいて」
しかしテディは完全に乗り気のままだ。そしてそのままの勢いで、森の中へ足を踏み入れてしまった。
火を持っているのはテディなので、他三人も後戻りできず、恐る恐る後に続く。草をかき分け、枝を折り、そのまま森の中を進む事約十分。少年たちの視界に、ようやく黒く巨大な建物の陰が映った。
ひょいっとテディが杖を振る。途端に、植物に浸食され、固く閉ざされていた門が音を立てながらひとりでに動いた。
「「「ひいいいいいい……」」」
少年たちが怯えた声を上げる。門の向こうに見えるのは、大きな洋館だった。しかしどこもかしこもひび割れて錆びついていて、植物の蔓が巻き付いている。
門を抜けた先には、巨大な木製の扉があった。皆で力を入れて押すと、その先は全く光の無い暗闇だ。
「おお、いい雰囲気」
テディが松明を掲げて中を照らす。そして振り向き、
「取り合えず一階から見て回ろうか」とにこやかに言った。
そこから暫く洋館の探索劇が始まったが、想像に反して、魔物も出なければ幽霊も居なかった。ただ荒れ果てた様子が広がるばかりである。
「何も出てこないなぁ」テディは残念そうに呟いた。二階の探索も終わり、そろそろ本格的に行く場所が無くなって来たころ。
「うーん、大して面白いものは無かったな」
ようやくテディはそれを認めた。
「も、もういいだろ。早く帰ろうぜ」
少年の一人が提案する。頷こうとした彼だったが、
「……あれ? あそこ、階段あるね」
一階のホール。その隅っこに、地下へ降りる階段があるのを見付けてしまった。階段は石造りで、下からはひんやりと冷たい空気がこちらに流れ込んできている。
「おい、嘘だろ?」少年の言葉に、テディはにやっとした。
「さ、行こうか!」
一方、リックとブレンダは川を渡り終え、丁度洋館の門の前までやって来ていた。門は完全に開かれ、奥の洋館は黒い口を開けている。
ブレンダがぎゅっとリックの袖を掴んで、
「ほ、本当にこんな場所に……?」
「ああ、多分な」
二人はゆっくりと門を抜け、洋館に近づいていった。
「テディ! 居るんだろ? 出てこい!」
入り口のすぐ前でそう呼びかけるも、中はシーンとしていて返事がない。仕方がないので、中に入ろうとしたその時。ドォォォォンと大きな音が鳴って、地面が震えた。
「ひいっ!? 何っ!?」
ブレンダがしがみついてくる。リックはじっと、エントランスホールの奥を見つめた。真っ暗闇の中、誰かが走ってくる。
杖を構え、「止まれッ!」と叫ぶ。しかし相手はこちらの警告を完全に無視していたう。
「火炎弾!!」
リックは炎の球を作り出した。そして浮かび上がったのは、――テディと共に出て行った班員の一人だった。
少年は青ざめた表情で、「に、逃げろっ! か、怪物が!!」「怪物?」
リックとブレンダは、少年の後ろを見た。また次々と班員が走ってきて、二人の脇を駆け抜けて行く。その後ろでは――、
『グォアアアアアアアアアアア!!』見上げるほどの巨躯を持った一つ目の巨人が、地面の石を突き破って出てくるところだった。
「た、たすけてえええええええええ!!」その手には、テディが握られている。
「お、おいおいおい!!」「嘘っ!?」
二人へ後ろから、「リック! ど、どうすればいい!? に、逃げるかっ!?」
少年たちが声をかけてくる。
リックは「テディが捕まってんだろ! 助けてから逃げるぞっ!」と叫んだ。
その間にも巨人は一階へ這いあがり、さらにリック達の方へ這いずってきていた。リックは展開した火炎弾を、そのまま巨人の頭に向かって発射した。バンっと音を立てて巨人に直撃する。しかし、巨人はぱちりと瞬きしただけだった。
「こ、こいつサイクロプスだ! C級の魔物だよっ!!」テディはこちらに向かって叫んだ。
C級と言えば、熟練した魔法使いでも苦戦する程の強さを持っている。子供にどうこうできる相手ではない。
しかしリックはブレンダを連れて素早く後ろに下がり、少年の一人に「お前、キャンプに戻って助けを呼んで来い!」と指示を出した。少年はハッとして、森の奥へ駆けて行く。
「他の奴らで、テディを助けるぞ!」
そう叫び、杖を構えた。ブレンダもその横に並ぶ。
二人は頷き合い、「「拘束っ!!」」と唱えた。
魔法の縄が二つ飛んで行き、一つは巨人の足を、もう一つは胴体と片方の腕をぐるぐる巻きにした。
その隙に、
「今だ! 引っ張り出せ!」
班員たちに、そう指示する。彼らは動揺しながらも、魔力を使って巨人の腕を開こうとした。
しかし――、
「だ、駄目だ! こいつの手、びくともしないっ!!」
そうしている間に、拘束はバンッ! と破裂して解かれてしまった。
もう一度「拘束」を唱えるも、敵はひらりと素早く動いてかわしてしまう。そのまま敵はしせいをひくくしてリックへ走り出す。
『グォォォォォォォォォォ!!』
リックはブレンダを突き飛ばし、「防御ッ!!」と唱え、障壁を張った。
サイクロプスの岩のような拳がそれと衝突し、バシン! とヒビが入った。
「ぐ……」
そのまま杖を構え続けるも、もう持たない。そんな中、巨人の背後にドォン! と爆発が起こった。
ブレンダが巨人に向け、魔法を放ったのだ。『ガアアアアアアアア!?』巨人が振り向く。
その顔面に、
「爆破ッ!!」ブレンダの高密度の魔力が、炸裂した。
ドンっ! と爆発が起こり、巨人がよろめく。リックは慌てて走り、倒れてくる巨人を避けた。
ドオオオオオオンとものすごい音を立ててうつ伏せに倒れた巨人。その腕から力は抜け、いそいそとテディが這い出してきた。
「リックゥゥゥゥゥ!! あ、ありがどおおおおおおおお!!」
抱き着いてくるテディ。そこに、ぼかっと拳骨をくれてやる。
「痛いっ!」
「痛いじゃねえ! 何やってんんだよお前は!」
それから倒れた巨人からなるべく距離を取って、ブレンダたちの方へ移動する。そこでは、倒れたブレンダと、その周りを囲んでオロオロしている班員たちが居た。
「どうしたっ!?」
駆け寄るリック達。そしてブレンダを抱き上げると、「う……」と呻いた。
「おい……大丈夫かよ……」そんな彼女を覗き込んで、
「た、多分、難しい魔法をいきなり使ったせいじゃないかな。爆破って、中級魔法だし」というテディ。
リックはじろっと彼を睨むも、そんな悠長な暇はない事は理解していた。ブレンダを抱き上げ、「よし、じゃあさっさとキャンプの方へ――」
とそこまで言った時、ずずっと突如サイクロプスが顔を上げた。そして、首を曲げてこちらを見てきたのである。
巨大な一つ目が、子供たちの姿を確認する。そして、昏睡しているブレンダに焦点を合わせた。そして、こっちへ手を伸ばしてくる。
『グ、グギ……グギギ……』
「逃げるぞっ!!」リックは叫んで、ブレンダを抱きかかえたまま走り出した。そして、巨人との鬼ごっこが始まった。




