第四十八話 山での夜
空はだんだん暗さを増してきて、月と星が輝き始めていた。という事で、エルトールはみんなに指示して、各々火を焚かせ始めた。そして異空間からひょいひょいと道具を出し始める。
「相変わらずでたらめね、その魔法」
イルフリーデがこっちをじっと見つめていたが、気にしない。
取り出したるは、網たちと魔法で凍らせた肉や魚、それに野菜。ぱちんと指を鳴らすと、食材の表面を覆っていた薄い氷が瞬く間に消えて行った。
「す、すげぇ……」
覗き込んでいた男子生徒が呟く。エルトールは周囲の皆を見回して、
「今から食材を配る。配られた後は……まあ、好きなように食べなさい」
そうして、食材を受け取った生徒たちは、駆け足で自分たちの焚火の方へ走っていった。エルトールは見回りでもしていようかと思ったが、「先生―! こっちで食べませんか?」ブレンダに呼ばれて、少しお邪魔することにした。
そこに居たのは、ブレンダ、パトラ、それと女子生徒三名。この五人で班員の様だ。火にかけられた網には肉が置かれていて、ジュウジュウと音を立てていた。
立ち上る煙が、星の散らばった空へ消えて行く。
「アリサ先輩、大丈夫そうですか?」
少ししたのち、ブレンダが耳打ちしてきた。エルトールも
「ちょっと持ち直したみたいだ」と返す。
ブレンダはうーん、と唸って、「それなら、いいんですけど……」
「何か心配事でもあるのか?」
何か含みのある言い方だったので、聞いてみる。
「多分アリサ先輩って、結構抱え込んじゃうタイプだと思うんです。だからちょっと、心配で……」
どうやらブレンダも心配してくれていたらしい。エルトールは肉を頬張りながら、
「うん。でも大丈夫じゃないかな。今日の昼、凄く調子よかったし」
魔法もかなり精度が高かった。あの力を本番でも発揮できれば、向こうの代表に後れを摂る事も無いだろう。
そんなことを考えながら、食事を摂るエルトールたち。
一方、とある男子生徒たちの班では、テディ、リック、及びその他四人の男子生徒が火を囲っていた。
がつがつと肉や魚を我先にと頬張る少年たちは、
「君たち、話を聞き給え」テディの声で顔を上げた。
「何だよ。こちとら腹減ってんだよ」リックが眉を吊り上げる。
「まあまあ。それよりもだよ。夕食が終わったら、多分寝ろって言われると思うんだけど」
みんなで顔を見合わせる。「そりゃそうだろ」とリックが首を傾げた。
テディはニヤッと笑って、
「実は昼間、川の向こうに良い感じの廃屋っぽい場所を見つけたんだよね。肝試しにちょうどいい感じの」
「まさかお前、そこへ行こうとか言い出すんじゃねえだろうな」
テディは「なんでわかったの?」と言った表情をした。
リックは骨付き肉をがぶりと齧り、
「阿保か。魔物にでも出くわしたらどうする気だよ」
「おいおい、僕たちは魔法使いだよ? 魔物なんて、魔法でちょちょいのちょいさ」
それを聞いた他の男子たちは、「そういや俺ら、魔物倒せちまうんじゃね?」「怖がることねえや!」と盛り上がり始めてしまった。
リックはため息をついて、「お前ら、正気か?」
「リックこそ、昔はこういうの率先して参加してたじゃないか。随分丸くなっちゃったんじゃないのぉ?」
テディは挑発するように手を広げる。
リックはぐっとこらえて、
「……みんなの信用を裏切るわけにはいかないだろ」
「うん、まあそりゃそうか」
テディは残念そうに頷いた。
「や。何話してるんだい?」とそこに、エルトールが現れた。
びくっとして姿勢を正す班員一同。テディは敬礼して、「いえ、何も話していませんとも!」と言った。
エルトールは不思議そうな顔をしてから、
「あ、そうそう。これからの予定を伝えに来たんだ。食事が終わったら、各自テントに入って寝る事。明日も早いから夜更かしは厳禁だよ。あと、外敵が入らない様な結界も張るけど、一応杖を直ぐ出せるようにして寝なさい。分かった?」
班員は「「はい!」」と元気に返事をした。エルトールは頷き、違うテントの方へ向かって歩いていった。
「さ、いつまでも食ってないで片づけようぜ」リックは立ち上がって、そう促した。
リリリリリ、と虫の音が聞こえてくる。リックはハッと目を覚ました。テントの中でみんなで集まってカードをやっていたのだが、いつの間にか眠ってしまっていたらしい。
ぐぐ、と身体を起こす。自分の周りには、毛布がいくつか敷かれているも、誰も居ない。触れてみると、まだ微妙に温かかった。
そっとテントから外を覗くと、もう真っ暗だった。火はすでに消えていて、他のテントも完全に寝静まっている。
「まさかあいつら……」嫌な予感がした。夕食のときはうやむやになってしまっていたが……。
リックは立ち上がり、川のある方へ向かって歩き出そうとした。その時、
「あれ、リック?」後ろから話しかけられた。驚いて振り向くと、暗くて顔ははっきり見えないが、そこにはブレンダが立っていた。
「……何やってんだ、こんな時間に」
「私は……お花摘みに行ってただけだよ」
ちょっと顔を赤くするブレンダである。リックもちょっとどぎまぎして、
「あ、ああ。悪い。変なこと聞いた」
「ううん、いいんだけど……リックは?」
リックはテディたちの事について説明した。ブレンダは話を聞くうち、どんどん緊張感のある面持ちになって行く。
「テディったら……。早く先生に伝えに行かないと」
「いや、待て」ブレンダの肩を掴む。
「出て行ったのはついさっきみたいなんだ。今から走れば、先生に気づかれずにつれ戻せるかもしれない」
「でも、夜の森に子供だけで入るなんて危なすぎるよ」
「だから俺、直ぐ連れ戻してくるわ」
リックはそう言って、そのまま道の方へ走り始めた。暗い木々の間、木の葉が擦れる音が響いている。そのままキャンプを出た時、「待って!」ブレンダがたたたと後を追ってきた。そして、リックの前まで来て肩で息をする。
「馬鹿、何で付いてきてんだよ」
「だって、リックも一人じゃ危ないから……」ブレンダも杖を取り出した。
リックは無理矢理返すか、連れて行くか迷ったが、あまり時間も無い。
仕方がなく、「俺から離れんなよ!」と言って、先導して進み始めた。「うん!」とブレンダは返事を返し、それに続く。




