第四十七話 特別授業
しかし、いつまでも遊んでいるわけには行かない。競技大会はもう目前に迫ってきているのである。びしょ濡れの生徒たちを魔法で一気に乾かし、それからキャンプに戻って来た。エルトールは全員を集め、合宿の日程を説明した。
「取り合えず、ここには三泊程を考えている。気候等によっては前倒しも後ろ倒しもあり得る事は気にかけて置いてくれ。よって、うかうか遊んでばかりも居られない。早速、ここで行う授業について説明したいと思う」
エルトールは早速、競技大会にて行われる種目を再度説明し始めた。
まず最初の種目、
「岩転がしは、名前の通り岩を転がす種目だ。五人のチーム戦で、魔法は何を使っても自由だが、基本的に相手の球に干渉してはいけない。お互い、両脇が溝になっているコースを走らせて、落ちずに先にゴールした方が勝利だ。繊細な魔力操作が重要になってくる競技だ」
次に第二の種目。
「魔法薬調合競争は、四人のチーム戦だ。会場に用意される大量の素材を使って、審判から言い渡されるお題の魔法薬を早く完成させた方が勝利となる。主に知識を求められる競技だ」
次、第三の種目。
「三番目の種目は、団体陣営戦。十五人のチーム戦となっている。ルールは簡単。敵陣地にあるクリスタルを破壊すれば勝ち。これは総合的な魔法力が求められる大規模な競技だ。攻撃魔法も何でも使用可になっている」
ちらりと生徒たちの顔を見回す。皆緊張で、ごくりと唾を呑んでいた。
「そして最後に、ほうきレースだ。これは知っている人も多いだろう。この国では伝統的な行事。二人の魔法使いがお互い邪魔をし合いながら、目的地を目指す競争だ。これはウチの代表である、アリサに出場してもらうことになっている」
アリサはこくりと頷いた。その表情に不安の色は見えない。
説明し終えたエルトールは、
「取り合えず、一番考えやすいのは魔法薬調合競争だろう。これについては、魔法薬の授業で高得点を取った生徒に代表を任せたい」この言葉を聞いて、パトラがハッとした。そう。数日前抜き打ちで行った魔法薬の試験。これに唯一全問正解して見せたのは――、
「これの代表はパトラ、君だ」
生徒たちはそれを聞いて、納得の拍手を送った。
「ま、パトラしか居ねえよな」「パトラちゃんなら絶対勝てるよ!」淡々し始めるパトラに、ブレンダが抱き着く。「やったねパトラ!」「あわわあわ……わ、わたしが……」一方彼女は大変なことになっていたが。
そこでブレンダに、「ブレンダ。君は岩転がしの代表としての覚悟を決めておいて欲しい」
ブレンダがこっちを向いた。
「え、私ですか!?」
「ああ。精密な魔力操作で言えば、君がぴか一だからな」
ブレンダは動揺した様に周りを見て、それから、覚悟を決めたようにこくりと頷いた。
「が、がんばりますっ!」
「あとは陣営戦だが、実を言うとまだ代表は決めれていない」
エルトールが正直に言うと、「はいはーい!」とテディが手を上げた。
「僕が適任じゃないですか?」
ジト―っと周囲から視線を向けられる。今やクラスの中で一位を争う問題児のテディを推薦する生徒は、誰一人いなかった。しくしくと泣くテディに、
「まあ、色々と考える予定だから、テディになる可能性もある。しかし陣営戦のリーダーに求められるのは、リーダーシップだ。それを発揮してみんなを引っ張っていける人物……この合宿中にでも、それを見定められたらなと思っているよ」
そうして集会を終え、一先ずグループに分けて呪文の訓練を行う事となった。
「火炎弾!!」
キャンプ地から少し離れた草原に、丸い的が浮かんでいる。エルトールはその的をぐるぐると一定間隔で動かすようにして、生徒たちに魔法を撃たせていた。
「次!」
次の生徒が出てきて杖を構える。
「火炎槍!!」そして、炎の槍を作り出し、的へ撃った。槍は的のぎりぎりを通過して、地面に突き刺さった。
「惜しかったね。次!」次に出てきたのはアリサである。アリサは緊張した面持ちで杖を構えた。そしてタイミングを見計らい――、
「衝撃波!!」と呪文を唱えた。すると地面をえぐりながら魔法が発射され、的をバラバラに破壊してしまった。
「す、すげぇ……」生徒たちが呟く。中級の攻撃魔法。かつてのアリサでは、構成する事が出来なかった魔法である。
アリサは安心した様に息を吐く。「やったな」と事情を知るエルトールは、肩を叩いてやった。アリサは「はいっ!」と笑った。
その訓練が終われば、次は防御の授業である。
「いいかい? 呪文は防御だ。だが、呪文に頼り過ぎないように。防御は魔力の消費が激しいんだ。だから、効率よく発動するやり方を身に付けなさい」
遠くに立ったイルフリーデに合図する。
イルフリーデは容赦なく「石礫」を撃ってきた。大量の石が地面から持ち上がり、こちらへ飛んでくる。エルトールは慌てて魔法障壁を展開した。バチバチと障壁にはじかれ、石が落下してゆく。
魔法が終わった後、
「……これが防御だ。ちょっとイルフリーデに話をしておくから待っていなさい」
エルトールは慌てて、イルフリーデに「ケガをさせない程度の魔法」を使う様に指示した。次からは、水の槍が襲ってくるようになった。とはいえかなりの魔力が込められているので、半端な魔法障壁では簡単に粉砕されてしまう。
六人目に出てきたリックは懸命にも十秒間耐えたが、「ぎゃあああああっ!?」その後障壁を砕かれてしまい、ずぶ濡れになる事となった。
そしてこの試練を乗り越えたのは、またもやアリサだった。
「防御!!」
ぼうっと透明な膜が展開される。エルトールは目を見張った。今までの生徒たちの物とはまるで違う、洗礼された魔法だった。イルフリーデの攻撃が障壁に当たるも、びくともしない。自分が彼女にこれを教えたのは、ラフレシアと戦ったあの一件だけだったはずだが……そこから独学でここまで鍛え上げたとは。
イルフリーデは指を振るって、「火炎弾」と、今度は攻撃魔法を撃ってきた。
「ちょっ」止める間もなく、障壁にぶつかる。しかし傷一つ付かない。
「よし、アリサ。合格だ。もう解いていいよ」
アリサは杖を降ろした。そして、自信満々の笑みを浮かべて振り向いた。
「師匠、あたし……出来た」
「ああ。見てたよ」
エルトールは微笑んだ。……本当に良かった。すっかり調子を取り戻したらしい。いや、寧ろ、前よりもずっと勢い付いている様に見える。やっぱり、彼女の行き詰まりを解消するのに必要だったのは、息抜きだったのだ。
……ここへきて、本当に良かった。エルトールは自分の思い付きに、深く感謝した。
ブックマーク、評価、ありがとうございますっ!!




