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第四十六話 川遊び

 力強く生えた多種多様な木々に、がさがさと草をかき分けて行く野生生物たち。ミーンミンと蝉が鳴いている。


 どうにもテントを張りやすい場所だと思っていたら、どうやら人の手が入っていたらしい。暫く歩くと、木々の中に木製の看板が見えてきた。看板を境に、道が二手に分かれている。

 看板を見てみるも、腐りかけているようで、何が書いてあるんだかまるで分らなかった。


「うーん、どっちに行こう」


 後ろで聞いていたテディが、「僕はこっちがいいと思う」と言って右側を指さした。


 それを聞いたブレンダとリックが顔を見合わせ、「「じゃあ左だな(だね)」」と声を合わせた。


 エルトールは頷き、左へ向かった。テディはぶつぶつ言いながら着いて来た。

 そして――、その先に見えてきたのは、川だった。


「川だ!」誰かが叫んだ。


 エルトールは振り向き、「ちょうどいいし、ここで休憩しよう」と声をかけた。


 ぱあっと笑顔を浮かべ、生徒たちは駆け足で川の方へ走っていった。汗だくの身としてはまさに僥倖である。


 男子たちは下着一丁になって川に飛び込み、女の子たちは膝をまくって川に入っていった。何とか濡れないようにしていたが、男子が思いっきり水をかけてしまい、そこからは報復の連鎖となって、川はすぐに水かけ合戦の戦場と化してしまった。


 川事態も流れは緩やかで、水も透き通っている。エルトールは丁度よさげな木の根っこに座り込んで、じっとその様子を見つめていた。

 その横にはアリサが座って、持ってきた本を開いている。


「アリサも混ざってきていいんだよ?」

 アリサは文字を追いながら、「いえ、あたしはこっちを頑張らないといけないので」


 エルトールはため息をついて、アリサの持っていた本をひょいと奪い取った。


「あっ!? な、何するんですか師匠!?」

 驚いて取り返そうとするアリサ。しかしこちらの方が背が高いので、ぴょんぴょんジャンプしてすがってくるようにしか見えない。


「前にも言っただろう。休憩は大事だ。せっかくこんなところまで来たんだから、ゆっくりするべきだよ」


 アリサは本を奪い返そうとするのを辞めた。その代わり、上目遣いでこっちを見てくる。


「……でも、あたし、ナターリアに勝たないと……勝たなきゃあたし……」


 ただならぬ様子だったので、エルトールはアリサの肩を抱いて座らせた。その身体は震えている。


「……無理に言わなくてもいい。あちらの代表の子と何かあったんだろう?」

 アリサは無言で頷いた。

「けど、気負い過ぎだ。君はウチの代表なんだから。余裕を持ってもらわなきゃ、みんなも不安になっちゃうよ。競技大会は団体戦だ。君一人で戦うわけじゃない」


 うずくまるアリサの背中をさすってあげる。……こんなに弱っているとは思っていなかった。僕は何をしてあげるだろう。

 こうして励ますことくらいしか、思いつかない。そんな二人の元へ、


「もぉ……びしょ濡れになっちゃった。先生―! アリサ先輩!」ブレンダが川から上がって来た。全身水浸しである。

 

 しかし二人の様子を見て、足を止めた。エルトールにジェスチャーで、『まずいですか?』と聞いてくる。エルトールは首を振って、


「アリサ。僕らも川へ行こう」


 と、アリサに話しかけた。顔を上げた彼女は、少し涙をにじませていた。しかしそれをごしごしと擦って、


「……はいっ!!」


 笑顔を浮かべた。それが無理をしているのか、本心からの笑顔なのか、エルトールには分からなかった。


「お、先生たちだ! 安全地帯でぬくぬくしやがって! みんな! 一斉攻撃だっ!」


 そして川へ行くと、全方位から水を浴びせられた。ずぶ濡れになったアリサが、めらめらと闘志を燃やす。


「やってくれたわね……アンタたち!」「ぎゃあ! アリサが怒った!」

 こうしてエルトールとアリサも、川での戦争に加わったのだった。


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