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第四十三話 思い付き

 ――今からちょうど二か月後に行う、魔法競技大会。その詳細なルールを伝えよう。


 国王の傍らに一度った白髭の老人が、そう言って長い紙を両手に、ルールを読み始めた。


 今回の魔法競技大会は、各校対抗のポイント戦で行う。試合ごとに1ポイントが獲得でき、最終的にポイントの多かった方が勝利。

 エルトール側が勝利した場合、その魔法学校が正式に認可される事となる。負ければ、認可は無い。学校は即解散となる。


 肝心の競技は、岩転がし、魔法薬調合競争、団体陣営戦、それからほうきレースの三つとなった。

 基本的には名前の通りの競技である。岩転がしが一ポイント、魔法薬調合競争一ポイント、団体陣営戦が二セットで合計二ポイント、ほうきレースが一ポイント、ということになった。


 その中でも特にほうきレースは伝統のある格式の高い競技らしく、毎年王都中から観客が押し寄せてくるらしい。参加できるのは一人。そこで国王から、直々にお言葉が下った。


『ほうきレースの代表選手は、学校の代表選手とすること!』


 つまり、こちらからはアリサ。王都学園は、あの金髪の少女を出場させることとなる。

 向こう側の少女は、笑みを浮かべてアリサに手を差し出した。アリサは震えながら、その手を見つめていた。

 

 それを見たサイモンは、

「おや、アリサ君。せっかく親友と再会したというのに、その態度は些か失礼では無いのかな?」


 それを聞いてアリサはやっと、震える手で握手を交わした。


 その日を境に、アリサの調子は劇的に悪化した。


 授業でも失敗を繰り返し、日常生活でもミスの連発。夜な夜な感じる魔力の反応も強くなっていた。覗きに行くと、アリサは何時だって本を必死に呼んでいるか、魔法の練習をしていた。

 しかしそれのせいで翌日に疲れが残り、またミスをするという悪循環。


 原因が例の少女であることは明白である。


 彼女は確か、

『私はナターリアと申します』


 思い出すのは、上品な仕草で礼をする姿。そしてこちらを見つめる瞳には、アリサを見る目とは違い、暗い感情が込められているようにも思えた。


 ナターリアの名を聞くのは初めてではない。あれは確か、サイモンが嫌がらせを仕掛けに来た時の事だった。 


 ――『思い出すねぇ……君は在学中から見ていて痛々しかった。落第ぎりぎりのくせして、成績トップのナターリアに纏わりついたり、無駄だというのに魔法の練習を繰り返したり、無能が努力する様と言うのがどれだけ見苦しいか、君からは存分に教えてもらったよ』 


 そうだ。あの時奴はそう言っていた。アリサの様子を見る限り、ただならぬ仲なのだろう。どのような関係性なのかは分からない。それとなく聞いてみたが、アリサは頑なに口を開こうとしなかった。


 だからこちらとしても、どう対処すればいいのか分からない。

 学校全体としては、順調そのものだった。


 新しく入ったリックもすぐに学校に溶けこみ、真面目に魔力の特訓に励み始めた。魔法教育としては第二段階に移行し、エルトールたちからも本格的に生徒たちに呪文を教え始めている。


 成長速度は凄まじいものがあった。魔力をほぼ完ぺきに操れているので、呪文で構築される魔法に、効率よく魔力を流すことが出来ているからだろう。


 生徒によっては、中級魔法にたどり着く者まで出てきて、イルフリーデが驚いていた。


『中級魔法なんて、王都学園では上級生になってやっと触るものなのに』


 どうやら、王都学園への勝利が現実味を帯び始めて来たらしい。それを聞いた生徒たちはより真剣になって、来る競技戦へ向けて魔法の勉強に注力し始めた。この学校を認めさせる。その思いで、ぐんぐんと全体が成長し続けていた。

 ただ一人、アリサを除いて。


「何とかしなければ」


 エルトールは頭を抱えて呟いた。

 その言葉を聞いたイルフリーデはぬっと本から顔を出して、

「何を?」と聞いて来た。


 場所はイルフリーデの個室。テーブルの上にワインが二人分置いてある。外は暗く、雨がザアザアと窓を打っていた。

 室内には魔法のランプがいくつかふわふわ浮いていて、本が読めるほどの明るさを保っている。


「決まっているだろう。アリサの事だ」


 エルトールはワインを口に含んだ。イルフリーデの部屋にはモノがあふれているが、その中でも飛び切り目につくのは壁に飾られた数多のワインだった。

 どれも高級品ばかりで、どうやら彼女、生粋のワイン好きらしい。


「ああ、あの子。そういえば、最近大人しいわね」


 大人しいとか、そういう次元じゃないと思うのだが。……なんだか相談する相手を間違えたような気がしてきた。


「最近、ずっと調子が悪そうなんだ。多分、向こう側の代表生徒が関係していると思うんだけれど」


 アリサは王都学園から逃げ出してきた側だ。何かと、あちら側にしがらみもあるだろう。しかし、ナターリアはアリサに対しては非常に友好的だった。反して、こちらに対しては少々棘のあるように感じたが。


「調子が悪いなんて、子供にはよくある事でしょう」


 ぺらりとページをめくるイルフリーデ。あまり大事に捉えていない様子である。しかしエルトールとしては、虫の知らせのような、どことなく嫌な予感がしていた。


 椅子に寄りかかって、「何とかならないかな……せめて、何か気分転換でも……」


 そこまで言って、自分でハッとした。


「……そうか。気分転換」

 イルフリーデがジトっとこっちを見てくる。

「何? 勝手に解決したの?」


「ああ、ちょっとアイデアが思いついた」

 エルトールは立ち上がって、扉へ向かう。

 イルフリーデは、「ちょっと待ちなさい。貴方の蔵書に合った魔導書、この記述について詳しく……」

「ごめん、また今度ね」


 エルトールは去って行った。

「……勝手なんだから」イルフリーデは頬を膨らませた。


 そして、翌日。朝集まった生徒たちへ向けて、エルトールは例のアイデアを発表した。


「夏合宿を行う!」


 生徒たちはポカーンとして、エルトールを見た。アリサも同様。イルフリーデは呆れた様子である。そう、エルトールにしてみても、完全な思い付きだった。


 魔法の練習だけなら、異空間で事足りる。というか、確実に邪魔が入らない上に気候に左右されない分、異空間はかなり都合がいい。


 しかし、それとは別に息抜きも必要だ。この異空間は一応自然を模してはいるが、結局はエルトールが創造した偽りの世界だ。そのことを、すっかり失念してしまっていた。 


「夏合宿って、何処でですか?」


 ブレンダが手を挙げた。エルトールはにやりと笑い、

「僕としては、王都北東にあるアトラ山を考えている」


 その言葉に、教室がざわついた。アトラ山と言えば、景色が素晴らしい事で有名な場所だ。よくピクニックをしに、貴族なども遠くからやって来るという。


 少し距離もあるし魔物もある程度出るという話なので、旅費も、護衛を雇うこともできない庶民には到底行く事の叶わない様な場所だった。


「そこで息抜きも兼ねて、キャンプをしようと思う」


 そこでエルトールがそう言いだしたのだから、生徒たちは飛んで喜んだ。ブレンダもパトラと手を合わせ、生徒になってからはおとなしくなっていたリックも、笑みを浮かべて仲間と拳を合わせている。


 だがアリサは、「し、師匠。大丈夫なのですか? もう大会は……」


「大丈夫だよ。本番が近いからと言って、詰め込み過ぎは良くない。それに皆にも息抜きは必要だろうし……、団結力を高める事にも繋がるだろう」


 本当はアリサに元気を出してもらうためだが、そんなことを今の彼女に行ってしまうと、責任を感じてしまいそうである。


 それに、団結力を高めるというのは本当の事だ。いずれ合宿するのもいいかもしれないと、前々から考えていた。


「だからみんな、各自親御さんにこの事を話してくれ。もし駄目だと言われたら……僕が直接説得しに行こう」


 わっ! と生徒たちが盛り上がった。イルフリーデは隅っこで、

「私、夏場はあまり外に出たくないんだけど……」と、ぼそっと呟いたが、誰に聞こえる事も無かった。


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