第四十一話 初めての魔法戦
「なんだ……テメェ! どっから現れやがった!?」
男が立ち上がる。他の部下たちも、突如現れた少年に驚きながらも、加勢するためにどんどん接近してきていた。
テディはにやりとこっちに笑いかけて、懐から杖を取り出した。
「地下に倉庫があって、そこで見つけたんだ」
パトラは杖を取り出して、見つめる。他の生徒たちも同様に、杖を握っていた。校舎から加勢に来た生徒たちも同様。
しかし――、
遠くでリックが鼻で笑うのが聞こえた。
「杖を持ってどうするってんだよ。試験の時、何も起こらなかったのを忘れたのか?」
――王都魔法学園の入学試験。そこでは、杖を通して水晶に魔力を通すという試験が行われた。そこで一度でも水晶を光らせる事が出来れば、次の試験に進めるのだ。
だが、彼らの時には何も起こらなかった。
「どうせ、透明になれる道具でも使ったんだろ! どうせ魔法なんて使えない癖に、カッコつけんじゃねぇよ!」
リックが叫ぶ。だがテディは、ニヤッと笑った。
「それはどうかなぁ」
パトラも杖を握りしめ、立ち上がる。他の生徒たちも同様だった。
――やれる。今までずっと、魔力を操る事に集中してきた。試験の時は、魔力がどういう物かも知らなかった。だが今は、感じる。自分の体内に渦巻いている、
「その杖も金になりそうだなァ。お前ら、こいつらの身包み剝いじまえ!」
そして襲い掛かって来た男たちへ向けて、彼らは杖を向けた。
「拘束!!」
呪文を唱えると、即座に杖を通して魔力が変換され、杖の先で魔法の縄が形成されていった。それがリーダーの男へ巻き付き、そのままぐるぐると拘束してしまった。
「なっ――!?」
驚愕に顔を染める男。それを見た他の生徒たちも、杖を上げて、
「火炎弾!!」
「風!!」と、各々知っている呪文を唱え始めた。
炎の球や、突風が男たちを襲ってゆく。
「何だよこいつら! な、何でこんなに魔法を……!」
何故、魔法が使えるのか。かつては杖を振っても何も起こらなかった自分たちが。
その原因は、今魔法を使っている自分たちが良く理解できていた。魔力を知らなかった頃、魔法とはただ、呪文を唱えれば自動で発動するものという認識でしかなかった。
だが、今は違う。呪文と杖によって魔力が誘導されるのを、こちらは正確にそれに付いてゆくことが出来る。
無駄のない魔力操作による、無駄のない魔法構築。彼らは度重なる魔力操作の訓練によって、その境地にたどり着いていた。
(分かる――)
どう魔力を動かせばいいかが、完璧に理解できる。きっと試験で何も起こらなかったのは、魔力の動かし方が分からなかったからだ。
試験に合格した者は元々の魔力が強いから、無駄を無視して無理やり呪文を発動させることが出来ていたにすぎない。
だが自分たちは、呪文の導くまま、正しく魔法を発動することが出来る!
「畜生! こんなはずじゃ……ぎゃああああっ!」
また一人、男が風に吹き飛ばされてゆく。拘束されてゆく。
(なんで……だよ)
そんな光景を、リックは絶望的な気持ちで見つめていた。近くに魔法が着弾しても、全く身体が動かない。
かつては自分と共に無能の烙印を押された者たちが、杖を手に悪者と戦っている。目の前で行われている光景は、まさにリックが理想としていた魔法使いの姿だった。
自分が諦めた、理想だった。
(なんでお前ら……そんな簡単に……)
パトラが杖を振るう。すると空中にバチバチと稲妻が走り、
「雷!」と呪文を叫ぶと、稲妻が男たちの目の前に地面を焦がした線を引いていった。
それを見た彼らはとうとう、
「く、くそ! ふざけんな! こんなの無理に決まってんだろ!」後部に居る者から、一直線に出口の扉へ向かって走り出した。
それに続き、他のメンバーも続々と戦線を離脱してゆく。
「やーいやーい! いくじなしー!」
テディが声をかけるも、最早喧嘩を売ろうという者も居なかった。ボスの男は芋虫のように仲間の元へ張って行き、それから担がれて、そのまま坂を降り始めた。
「ちくしょおおおおおお!」男は最後にそう叫んだ。
そして、残されたのは生徒たちと、立ちすくんだリックのみ。
「か……勝った……?」暫くシーンとした中、誰かがそう呟いた。
パトラもそれを聞いて、両手を見つめた。まだ、体内で魔力が振動した感覚が残っている。本で読んだだけの呪文だったが……。
と、茫然としていたパトラの周りに、いつの間にか生徒たちが集まっていた。
「すげええええ!」「パトラちゃん! 今の、今のどうやったの!?」「雷! 雷がばばばって!」
「え、あ、その……」大人数に囲まれて、パトラは顔を真っ赤にした。やっぱり人がいっぱい要るのは苦手らしい。
テディも腕を組んで、うんうんと頷く。
――だが、
「まだだ……。まだ終わってねぇ……」




