第四十話 強盗襲来
一方学校では、自習に集まった生徒たちが校舎中を走り回って遊んでいた。一応勉強に来ているはずだが、エルトールたちのいない校舎なんて珍しい。
最初は教室に集まった生徒たちだったが、
「この隙にみんなで探検しよう!」突如テディが言い出した提案に、ほぼすべての生徒が乗り気になった。
唯一パトラだけが、「や、辞めようよ……怒られるよ……」と止めようとしていたが、か細い声では誰にも届かなかった。
パトラは泣きそうになりながら、「ブレンダちゃん……」未だやって来ないまとめ役へ向けて、助けを呼んだ。
そうして校舎の探検が始まった。校舎は洋風の建物で、三階建て。生徒たちが普段出入りするのは、一階のホールと右の廊下の直ぐにある教室。
それから二階の奥にある図書室位である。
校舎の裏側には一応中庭やグラウンドも用意されており、休み時間はそこで遊ぶこともできた。
その向こうには果てしない森が広がっているばかりで、「端っこまで行ったら落ちるから、森には入らないように」というエルトールの脅しは、生徒全員を震え上がらせた。
ガチャリと三人の子供たちが部屋を開く。
「うーん、この部屋にも何も無いかぁ……」
先陣を切っていた少年が中を見て、退屈そうに呟いた。色々と探してみているが、今のところほとんどの教室が空っぽである。
まるで作られたばかりのようで、埃一つ落ちていない。……実際その通りだが。パトラはその集団に、本を抱きしめながら、一歩遅れて着いて行っていた。
一応止めなければとは思っているが、何となく彼女もこの校舎に興味があるし、人と話すのが苦手なので、表立って止められないという理由があった。
「もしかしたら、魔法がかけてあるのかも。部屋を空っぽに見せる魔法、みたいな」
とてもありそうな推測である。そうであったのなら、探検する意味は無くなるが……。そう考えていた時、パトラはふと、外で沢山の人が扉から中に入って来ているのを見付けた。
「何あれ……?」
パトラの様子に気づいて、子供たちも外を見た。
「誰だろう?」「先生たちかなぁ」
遠すぎて、誰かは分からない。だが――、
「……もしかしたら、ど、泥棒とかかも……」
パトラの言葉に、全員ハッとした。そうだ。その可能性もある。そして、もしそうだったら……今この学校に居るのは、子供たちばかり。抗う術は無い。
「ど、どうしよう!」「逃げなきゃ……」慌て始める子供たち。
パトラも頭を抱えて震え始めた。――怖い。怖い。怖い。こんな時、ブレンダちゃんが居てくれたら……。ブレンダならきっと、みんなを安心させて、そして……。
――そして自分は、その背中に隠れているだけ。
そんな考えが頭に過り、パトラは立ち上がった。足はガタガタと震えている。もし本当に、泥棒だったらどうしよう、と。だが、そこで震えているだけの人間から変わるために、魔法学校へ通う事を決めたのだ。
パトラが魔法学校に通う事を決意した一番の理由は、……胸を張って、ブレンダの隣に立てる人間になるためだった。
「……わ、私、行く」
みんながパトラを振り返った。「行くって、どこへ?」
「……あ、あの人たちから、学校を守るっ!」パトラはそう言って、走り出した。
「パトラちゃんっ!」引き留められても、止まらない。そのまま階段を降りて、正面玄関へ。通りすがった他の生徒たちも、驚いてパトラを見た。正面玄関が開き、そのまま門のある場所へ。
パトラが到着する頃には、すでに人影は門の手前まで到着していた。そこに居たのは、ガラの悪そうな男たちだった。
そして、「り、リック、くん……」茫然と呟く。人影の中には、自分の知っている少年の姿もあったのだ。
リックは不敵な笑みを浮かべ、「な? 本当にあっただろ?」と横に立っている背の高い男に声をかけた。
「ああ、すげぇな……扉の奥にこんな場所が……」
そうしているうちに、パトラを追ってきた生徒たちが横に並んだ。
「なんだよ! あんたら!」男子生徒の一人が叫ぶ。男たちはそれにヒヒヒヒと笑って、
「おいガキども。大人しくしてたらけがはさせねぇ。俺達が出てくまで、どっかで遊んでな」と言ってきた。
パトラはギリ、と奥歯を噛みしめて、
「で、……できま、せん……あなた達の、も、目的を……」
「ああ? 声が小っちゃくて聞こえねぇよ!! もっとデカい声でしゃべれッ!!」
リーダーらしき男が、こちらに歩いて来た。思わず、後ろに下がる子供たち。しかしパトラはそんな男に、手を掲げた。
「そ、それ以上近づかないでください……ま、魔法を撃ちます……」
男の足が止まる。少し躊躇したようだったが、後ろからリックが、
「大丈夫だぜ。そいつら、ちょっと水を動かすくらいしか出来ねぇから」
と付け加えた。今度はパトラが怯む番だった。……バレている。こちらは未だ、魔力の基本的な操作しか教えられていない。
敵を攻撃する魔法なんてもってのほかだ。一応呪文は知っているが、呪文だけで魔法を扱うには杖が必要だ。
「ケケケ。こけおどしか。ま、邪魔するってんなら仕方がねぇ。ちょっとお灸をすえてやらねえとなァ」
背後の男たちも、一斉に敷地に踏み入って来た。
「ひっ」「どうしよう……」他の生徒たちも校舎へ逃げようとする。
しかしパトラは、手のひらで魔力を練り始めた。魔法なら、図書室で読んだ本で知っている。低級魔法の拘束なら……。
そして、敵を拘束するための魔法の紐を形成しようとした。だが、
「何やってんだァ?」
その手首を、男に掴まれた。そして、ぐいっと捻られる。どうしようもない力の差で、そのまま手を持ち上げられた。
……駄目だ。どうにもならない。悔しさに、涙が滲んできた。ここまで頑張って勉強してきたのに、結局自分は変われないのか。
結局、何もできないのか、と――。
そんな時である。突然、パトラを掴んでいた男が体勢を崩した。驚いた様子で、パトラの手首を離し、そのまま後ろ向きに尻餅をついた。
パトラは何が起こったか分からず、とにかく慌てて距離を取ったが……、
「あれ!?」
地面についた手に、いつの間にか棒のようなものが握られていたことに気づいた。これは……魔法の杖!
「ふぅ、間に合った間に合った」
突如何もないところから声が聞こえ、その場にいた全員がそちらの方を向く。
その空間に、突如魔力が走るのが見えた。そして次の瞬間、メッキのように塗られていた魔法が剥がれて行く。そして現れたのは……テディだった。




