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第三十九話 行軍開始

 同時刻。庶民外の、とある路地裏。若者たちが賭け事を行う溜まり場には、ガラの悪い男たちがたむろしていた。


 夜通し酒を呑みながら賭け事をしていた様で、周囲には呑み潰れた者たちや、二日酔いに苦しむ者たちが呻いている。


 そんな中に、一人の少年が現れた。


「よう」 


 リックだった。

 彼はたまり場の奥で仲間たちと共に座っている、二十代くらいの若者へ声をかけた。


「リックじゃねえか。なんだ? 今日も金を溶かしに来たのか?」若者はリックを嘲笑う。


 彼の名はヴィンセント。この溜まり場のリーダー的な存在だった。彼がこの場所のルールを決めており、出禁なども彼の一存で決める事が出来る。


 そんな彼に、リックは聞いた。


「金、欲しくねぇか?」


 ヴィンセントは眉を吊り上げた。


「そりゃ欲しいが、何だ? 十歳のガキ大将が、俺達に金を恵んでくれるっていうのかな? そりゃ、ありがたいねぇ」

 ヒヒヒ、と彼の周りに居た男たちが笑った。

 リックはぐっとこぶしを握って、


「金は無い。けど、金目のものがある場所なら知ってる」


 今度は興味を示したらしい。彼らが一斉にこっちを向いた。


「もし、そこにある物を盗んで売ることが出来れば、多分結構な金になる。その上今日は、そこの奴らが軒並み留守ときた。盗みに入るなら、多分絶好のチャンスだ」


 畳みかけるように言うリック。ヴィンセントは眉間にしわを寄せて、

「どういうつもりだ?」と聞いて来た。


 リックは、にたりと笑った。


「そいつは詐欺師なんだ。盗んだとしても心は痛まねぇし、捕まる心配も無い。けど、俺だけで盗みに入るのはちょっと荷が重い。だから、アンタらの力を借りたいんだ」


 ――しばし、沈黙が続く。ヴィンセントは探るようにリックを見つめ、そして。


「……面白そうじゃねえの」と呟いた。 


 それから約一時間後。ヴィンセントは部下に命令して、街中に居る自分の手下たちを呼び集めた。集まったのは総勢約三十人。

 賭け場には、それほどの若者たちが集まっている。リックはヴィンセントに、魔法学校の事を話した。


 庶民街の建物の一階に、別世界に通じる扉がある。そこには洋館があって、金目のものが大量に置いてあると。


 それを聞いた彼らは、少し怖気付いた。


「魔法使いかよ……。だ、大丈夫なのか? 怪物とか飼ってるんじゃ……」

「あそこは学校だ。ガキどもが毎日の様に通ってるし、俺も一度入ったことがある。危険な仕掛けは無いはずだ」


 リックが慌てて付け加える。


 しかしヴィンセントは、ククッと笑った。


「魔法使いか。面白れぇ。魔法の道具ってのは金になるからな。魔導書でも、実験器具でも杖でも。まさに宝の山だ」


 そして、立ち上がった。

 声を張り上げ、「全員聞け! 今からその魔法学校とやらに襲撃をかける! 主の魔法使いは今不在らしいし、居たとしても大した魔法も使えないガキばかりだ。館に入り込んで、金目のものは全部盗み出せ! 帰ったら、全員でそれを山分けだ!」


 うおおおおおおおお!! 

 と、ヴィンセントの声に乗せられて全員が叫ぶ。リックはその光景を見て、歪んだ笑みを浮かべた。


(あんな場所、滅茶苦茶にしてやる。そして、ブレンダも、あいつらも、全員幻想から解放してやるんだ。俺達は魔法使いになんて成れない。エルトールは最低最悪の……ペテン師だ……!)


 そうして一行は、エルトールの魔法学校へ向けて進みだした。


「……遅いなぁ」ブレンダは待ち合わせ場所の公園で、ぼうっと木に寄りかかっていた。もう時間は一時間近く過ぎている。

 すでに、リックはここへ現れているはずだった。ブレンダはそのまま公園を見回す。しかし、それらしき人影は無い。 


 ……すっぽかされてしまっただろうか。そう考えると、怒りよりも悲しさの方が勝った。無理に魔法学校に通ってくれと言うつもりは無かった。


 ただ、王都学園とは違う。それだけ分かってもらえれば良かったのだ。リックが魔法使いを恨んでいることも、その理由も十分理解している。 


 今のリックは、理解することを拒んでしまっているのだ。魔法使いは皆他人を見下すクズと断じ、それ以外の存在を認めようとしていない。


 その事を考えて、何か胸がざわつくのを感じた。リックの仲間たちは、みんなこちら側に来てしまった。きっとすべてを奪われたとすら感じているだろう。 


「……嫌な予感がする」


 ブレンダはそう呟き、学校の方角へ向けて歩き始める。


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