第三十八話 王城へ
朝、目を覚ますと、そこには誰も居なかった。身体を起こし、窓を開く。空は曇り模様。最近は曇りの日が多い。エルトールはそのまま服を着替え、一階への階段を降りた。
一階にはすでにアリサが居て、朝ご飯の準備をしていた。
「あ、師匠。おはようございます」
「うん、おはよう」
そう言って、棚からティーカップを取り出す。ちらりとアリサの方を見ると、エプロンを付けて、鍋の中をかき混ぜていた。髪は村で切ったきりなので、少し伸びている。
そんな姿を見て、そういえば最近部屋に入って来なくなったなとふと思い返した。その原因も、何となく察しが付く。
「……アリサ。魔力を使いすぎだよ」
「えっ?」
驚いた様子でこちらを振り向いた。だが、こちらには見えている。アリサの体内の魔力が、一晩眠ったにしては少なすぎるのだ。
「魔法の練習もいいけど、ちゃんと身体を休めなきゃだめだ」
その原因は、アリサが睡眠時間を切り詰めて魔法の練習をしていることにある。夜な夜な上の部屋から魔力の気配を感じていた。
本人のやる気に水は差すまいと思っていたが、ここまで消耗されると流石に止めなければならない。
アリサはしゅんとして、「ごめんなさい……」と謝った。その眼元には、小さく隈が出来ているのが分かる。
エルトールは立ち上がって、その肩に手を置いた。そこから彼女に魔力を流し込む。
「あっ……」アリサが小さく声を上げた。
「大丈夫だから、そのまま受け入れて」
暫くして手を離すと、アリサはハッとして自分の両手を見つめた。
「力が……」
「ただ魔力を補充しただけだから、根本的な疲れは取れてない。今日の事が終わったら、ゆっくり休みなさい」
アリサの頭に手を置いてあげた。彼女はやはり、肩を落とした様子である。
「でも師匠……あたし、無理でもしないと、きっと置いてかれちゃいますよ……」
「何言ってるんだい? アリサはみんなから頼りにされてるじゃないか。勿論、僕も頼りにしている。むしろ、アリサに引っ張ってもらってる部分もあるくらいだ」
そんな会話を交わしていた時、ガチャリと扉が開いて、イルフリーデとメイドのマヤが入って来た。マヤはイルフリーデがこっちに来てからも、かなり頻繁に顔を出した。
というか、こっちに住んでいるんじゃないかと錯覚したくらいだ。魔力も高いし、相応の魔法使いなのだろう。……何やら嫌われている様だが。
イルフリーデは、久しぶりに白に金の刺繍が入った、賢者のローブを着ていた。こちらで暮らしている時は、変装の意味を込めて普段着だったのだが、今日は王宮での仕事なのでこの服装なのだろう。
彼女は眠そうに欠伸をして、
「ふぁあ……。何でこんなに朝早く起きなきゃいけないんだか。賢者ってこういうのが面倒なのよね。マヤ、やっぱり私の代わりに出てくれない?」
「イルフリーデ様の代わりなど、誰に務まるはずもございませんわ」
それから、こちらへ視線を流してきた。
「あら、おはよう。どうしたの? 二人とも」
近づいていて二人を見て、不思議そうに言うイルフリーデ。
「ああ、何でもないよ。緊張しているみたいだったから、ちょっと元気の出る魔法をかけていたんだ」
アリサから身体を離す。
「あ……」彼女が何かを言おうとしたが、エルトールはそれを聞き逃してしまった。
「君たち、先に出発してくれるかい? 一緒に王宮へ行くところを見られたら、何かと面倒だろう」
「勿論そのつもりよ。ここにはちょっとお茶を飲みに来ただけだから」
いつの間にかマヤが棚からお茶を出して、優雅な動作でお湯を注いでいるところだった。こちらもぐずぐずはしてられない。エルトールはアリサと共に台所に立って、朝食の準備を手伝った。
そして、朝食を摂っている時、
「そういえば、本当に鍵を開けておくの?」
出発しようとしたイルフリーデが、振り向いて聞いて来た。校舎のある異空間への扉の事だろう。ブレンダたちが自習をしたいと言っていたので、開けておくことに決めたのだった。
「開けるよ。皆と約束したから」
「ふぅん。……まあ、私がどうこう言う事じゃないわね」
イルフリーデはそう言い残して、マヤと一緒に出発していった。
それから約一時間後、朝食を食べ終えて、支度も済ませた二人は、校舎への扉を開いてから通りへ出た。そこからすぐ、二人とも箒に跨り、浮かび上がる。
「さあ、行こうか」
「はい、師匠!」
アリサは元気に返事をした。二人は頷き合い、遠くの沿岸部に聳え立つ白い王城へ向けて飛び立っていった。
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