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第三十七話 悪巧み

 翌日の事。リックはいつも通り、取り巻きたちと合流するために、待ち合わせ場所にやって来ていた。


 そこは建物の間に出来た狭い通路である。壁に寄りかかって、最後の取り巻きを待っていたが……。


「……遅せぇ」


 リックは苛立ちを隠さずに言った。取り巻きの一人、コリーが全く待ち合わせ場所に現れないのだ。


「一体どこで油売ってやがるんだ、あの野郎」


 とその時、その場にコリーの家まで迎えに行っていた取り巻きのレイフが、息を切らしながらやって来た。

 

 そして、「あ、あいつ、魔法学校に行ったって!」と言い出した。


「……何だと?」

「そっち方面に歩いていくのを見たって奴が……」

「……裏切ったのか。あの野郎……ッ!!」


 リックは壁を思いっきり殴りつけた。鋭い痛みが拳に走り、血が出てくる。

「どうする?」取り巻きたちは彼の様子を伺った。しかし、


「……構うな。もうアイツは敵だ。二度と俺達の仲間には入れねぇ」


 取り巻きたちは顔を見合わせた。


「なぁ……リック。もう一度、行ってみねぇか? 学園の奴らとは、もしかしたら違うかもしれねぇじゃねえか」

「お前に何が分かる?」

 ギロリと振り向いて、にらみつける。


「結局コリーも俺達を裏切った。学園の奴らと同じだ。魔法学校なんてのに行くやつらはな、みんなそうやって、俺達みたいな奴らを見下すようになるんだよ。

 俺は、そんなクソみたいな人間にはならねぇ。……お前らはどうだ!?」


 憎しみが、胸の中で渦巻いている。取り巻きたちはそう言われて、俯いた。


「……そうか。お前らも同じか。なら行けばいいじゃねえか。魔法学校でも何でも、勝手に行けよッ!!」

 リックはレイフの脇を通り抜け、通りへ出た。

「待てよリック!」声をかけられたが、振り向くことはしなかった。


 そのまま彼は、一日中街を彷徨い続けた。空を見上げると、箒に乗った学園の生徒らしい魔法使いが何度も通り抜けて行った。


 昔から、こういう景色を見て来た。地べたを歩き回る凡人たちと、箒に乗って悠々と空を飛ぶ魔法使いたち。そんな中育ったリックは、自然と、自分も将来ああやって空を飛ぶんだと思い込むようになって行った。


 何の根拠もなく、自分は魔法使いに成れるんだと信じていた。だがそれが幻想だと明らかになっても、絶望するようなことは無かった。

 十年も生きていれば、魔法使いに成れるのがごく一部の優秀な人間だという事は、良く理解できていたからだ。 


 ――だが彼は同時に、魔法使いに対して幻想も抱いていた。漠然と、魔法使いとはかくあるべきという幻想……。それすら裏切られた今、魔法使いとは憎むべき対象に他ならなかった。 


「……あ、お帰り」


 夜。人気の薄れた王都を、ふらふらと自宅へ帰ってくると、玄関先にブレンダが座り込んでいるのが見えた。


 ふっと、また憎しみが登ってくる。お前も裏切り者だ。友人面するな。

 だが、口を噤み、


「……何の用だ?」と聞いた。


「リックに、伝えたいことがあって」

 ブレンダは立ち上がった。茶色の髪が風に揺れる。その表情は不安を湛えていた。


 それから一呼吸置き、

「明日、先生たちが用事で居なくなるんだけど……、学校の扉だけは、自習のために開けてくれるらしいの。だから……もし良かったら、私と一緒に校舎だけでも見て回らない?」


「ふざけるな」リックは考える間もなく返した。


「俺は魔法学校なんぞに入る気は無い」

「うん、分かってる」ブレンダは頷く。

「でも……昨日コリーが学校に来て、今日はそのほかの皆も学校にやって来た。私、リックが一人になっちゃってるんじゃないかって、心配で」


「……何様だよ」

「幼馴染でしょ? 私たち。困ったときは、助け合おうよ」

「俺は困っていない。一人だろうが何だろうが、裏切り者と一緒にいるよりはマシだ」


 ブレンダはため息をついて、首を振った。


「……じゃあ、これは私のわがまま。私、リックと一緒に魔法学校に通いたい。一緒に魔法使いになりたい。あの場にリックが居ないと、私が嫌なの。だからお願い。見るだけでもいいから」


 カッと暑くなっていた頭が、急に冷えて行くのを感じた。ブレンダの言動からは、全く、一切の悪意を感じなかった。


 ブレンダは変わっていない。子供のころから、仲間外れになっている子が居たら進んで輪に加えようとする人間だった。


「……分かった」リックは呟いた。ブレンダの顔がぱあっと明るくなる。

「ホント!? 絶対、絶対だからね!?」

「ああ」リックは無表情で頷く。 


 二人は約束を交わし、ブレンダは自宅の方へ歩いていった。その後ろ姿を見つめ、

「……お前だけは見逃してやるよ」リックはにやりと笑った。


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