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第三話 山脈越え

 切り立つ山々。どこまでも広がる鬱蒼とした森に、素晴らしく青い空。


 追放された賢者エルトールは、そんな広大な大自然の中を、テクテクと歩いていた。

 ぐるりと周りを見てみると、どこもかしこも山で囲まれている。

 鳥の鳴き声がやかましい程聞こえてきて、少し歩けば魔物が襲い掛かって来た。ゴブリンだのオークだの、レッドモンキー、怪鳥、ホーンウルフ、ちょっと思い出すだけでも様々な魔物と遭遇した。


 それもそのはず、今彼のいるノーザン山脈は帝国とユリシア王国の国境地帯である。

 何故ここが国境なのかは、来てみれば一瞬で分る。激しい地形に、大量の強力な魔物たち。帝国のすぐ上にあるユリシア王国が制服されなかったのは、主にこの山脈が原因だろう。


 そんなわけで「魔物の山脈」だの、物騒な名前で呼ばれているこの場所だが、エルトールは空も飛ばずに、ピクニック気分で壮大な景色を楽しんでいた。


「空気がきれいだなぁ……」


 すーはーと深呼吸。うん、美味い。思えば、帝都はいつも下水のような匂いが街中を漂っていた。いつの間にか鼻が慣れてしまっていたが、こうやって空気がきれいな場所に来てみると、あの場所が如何に臭かったかが分かる。


「ギャオオオオオオオオオオ!!」


 そうこうしていると、突如巨大な蛇が木々の中から飛び出してきてこちらに襲い掛かって来た。


「はいはい、火炎弾ファイアボール


 エルトールが片手で打ち出したのは、初級魔法「火炎弾ファイアボール」。

 火の玉を打ち出して敵を攻撃したりする魔法である

 。本来であれば、頑張っても敵を燃やす程度の火力しか出ない魔法だが……エルトールの創り出した火の玉は、そのまま大蛇に衝突して破裂し、そのまま辺りの木々ごと消し炭にしてしまった。


「……加減が難しいな」


 戦闘魔法を使うのなんて、いつぶりだろう。

 まだ学生だった頃に授業で使ったきりのような気がする。おかげで毎度オーバーパワーで撃ってしまう。これでもかなり手加減しているつもりなのだが。


 ぶすぶすと黒焦げになった一帯を後にして、そそくさと先へ歩き始めた。


 そんな騒がしい旅も、どうやら中間地点を迎えたらしい。

 山を歩いて数日、空が暗くなってきたので、そろそろキャンプの準備をしようかと思い始めていたところ。なんと眼下に村のようなものが見えてきた。

 山に囲まれた盆地に、茅葺屋根の家が点々としている。山に入ってから一度も人里らしきものは見ていなかったが、……もしかして、ユリシア王国に到着したのだろうか。

 夕食を作っているのか、点在している民家の煙突から煙が立ち上っている。


 エルトールは箒に跨り、そのまま山の斜面に沿って下に降りて行った。

 下へ降りると、畑が広がっていた。何か野菜を育てている様だが……どうにも、全部枯れてしまっている。そのまま進んで行くと今度は牧草地らしき土地が広がっていた。が、これもまた枯れている。


 どうにも生気の無い村だ。村の真ん中には川が通っているし、痩せるような土地には見えないが……。

 まあ一先ず、時間的にもここで一晩明かすしか無いだろう。という事で宿屋の場所を聞くため、近場に合った民家の扉をノックした。

 扉を開けてくれたのは、小さな女の子だった。女の子は痩せていて、頬がこけていた。


「……だれ?」

「こんばんは。僕は――」


 とそこで母親らしき女性が現れ、エルトールの姿を見て顔をしかめた。

「……誰だい?」

「……エルトールと申します。旅の魔法使いです」

 黒いローブを纏って、箒を片手に持っているのだから一目瞭然だが、一応説明。


 そうすると女性はため息をついて、

「ああ、また来たのかい」と呟いた。

 それに首を傾げるエルトール。「また、とはどういう事でしょうか」

 女性は娘に奥へ行くよう言ってから、

「あんたのほかにも、女の子の魔法使いが来たんだよ。あんたも、この村での異変を解決するために王都から送られて来たんだろう?」


 異変……? 当然ながら何も知らないエルトール。女の子の魔法使いも、村での異変も知らない。


「いえ、僕は王都の魔法使いではありません。帝国の方から、こちらに渡って来たんです」


 そう言うと、女性は「はぁ?」と言った感じで眉を潜めた。

「何言ってんだい? この山脈を渡るには軍隊並の兵力が必要なんだよ。いくら魔法使いったって、一人で渡って来れるはずがないね」


 はぁ、と今度はエルトールが首を傾げる番。確かに魔物は多かったが、そこまで強かっただろうか。……帝都に籠って研究ばかりしていたので、敵の強さが良く分からん。まあそれはそれとして、


「ちなみに異変とは? この村で何かが起こっているのですか?」

 女性はため息をついて、「見りゃわかるだろう? 畑の野菜も牧草も、全部枯れちまった。魔物の仕業か、魔法で誰かが悪さしてんのかは知らないけど……村のみんなは大迷惑だよ。すでに何人も村から逃げ出してるし、ここが無人になるのも時間の問題だね」


 話を聞いたエルトールは、その後宿屋の場所を聞いてみたが、どうやらこの村に人を泊めるような場所は無いとの事だった。

 泊めてくださいと頼むのもなんだか気が引けたので、取り合えず野宿で過ごすことに決める。村はずれの森の中にキャンプを張って、焚火を付けた。

 パチパチと燃える炎を見つめながら、今後の方針について考える。


 魔法学校を作るのに必要なのは何か? 

 ……それは生徒と校舎だ。校舎の方はどうにでもなっても、生徒の方は王国の魔法事情を知らなければアプローチのしようがない。この村に魔法使いが来ているというのなら、ぜひ会ってみたいものだが……。


 そんなことを考えながら、少しうとうとし始めた時のこと。突如森の奥で、ドォォォォォン! と爆発音のような者が轟いた。


 身体を起こし、魔法で焚火を消す。フッと辺りが暗くなった。エ

 ルトールは同時に爆発のあった方へ視界を飛ばした。『千里眼』と呼ばれるこれは、最上級魔法と呼ばれる魔法の中の一つである。視界は暗い森の中を急速に移動してゆき、そして一人の少女の姿を見付けた。


 栗色の髪を持った、十代中頃程の女の子だ。


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