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第二十九話 チャンス

「ここまで言っておいてなんだけれど、この学校はまだ、正式に認可が下りていないんだ。認可を貰うためには、三か月後にある魔法競技大会で王都魔法学園に勝利しなければならない」


 これにはさすがに、生徒たちはざわついた。


「王都学園と……?」「嘘、そんなの絶対無理――」

 そんな中、

「辞めだ辞めだ! くっだらねぇ!」

 リックが立ち上がった。

「んなの無理無理! 無理に決まってんだろ!?」


 今度はブレンダも、リックに声を上げる事はしなかった。

 不安そうな様子だ。だがそこに、


「師匠、ちょっといいですか?」アリサが呟いて来た。

 頷くと、アリサが教壇に立ち、「注目ッ!!」と声を上げた。

 びくっとして一斉にこちらに注目する生徒たち。

 アリサは自信満々の表情で周囲を見回し、


「あなた達に言っておくわ。……今のこの状況は、殆ど奇跡に近い物なのよ!」


 皆が顔を見合わせる。一体何を言ってるんだ、と。

 アリサは構わずに、


「あなた達は、少なからず魔法に興味があったから、ここに来た。そして師匠がすごい魔法使いだっていうのは、ここに来るまでにもう分かったはず。そんな人にちゃんと魔法を教えてもらえる機会がどれほど貴重なのか、良く考えて見るべきだわ!」


 うぐっと気圧される生徒たち。


「ここでやめたらあなた達、もう二度と魔法使いに成れるチャンスは無いわよ!」


 それはちょっと言いすぎのような気がしたので、止めようと思ったが、アリサは逆にこっちを手で制した。「あたしに任せて」とその目が言っていた。


「いい? 夢を叶えるのに、都合のいい方法なんて無いわ。その道中には必ず大きな困難がある。あたしはそれを良く知ってる。挑戦する事すら許されない世界が、この世にはあるのよ。

 でも――、あたしたちには、チャンスが与えられた! 師匠と共に困難と戦って、自分の夢を掴み取るチャンスが!! そのチャンスを「無理」とハナから断じて投げ捨てるような奴は……一生地べたに這いつくばって、夢を諦め続けて生きるのよっ!!」


 皆、親に怒られた子供のようにシュンとなってしまった。きっと、思い当たる節があるのだろう。

 エルトールも、アリサの言葉には驚いた。これほど説得力のある演説が出来るとは……。

 

 ……いや、驚くようなことは何もない。アリサは最初から、リスクを恐れずに挑戦する子だった。

 ちょっと暴走気味なところもあるが……それでも、挑戦を恐れない子なのだ。


 エルトールはアリサと代わってから、

「……アリサはああ言ってくれたけれど、僕としては強制するつもりはない。この学校に残るか、辞めるか、それは自分たちで決めて欲しい」


 そう言って、名前を書く時間を与えた。これは契約書というよりも、子供たちに『生徒になった』という意識を持ってほしいという側面が強い。

 名前を書いたからと言って学校に来ることを強制するものではない。だが、自分の意思で名前を書くという事は、確実にその道を『選択した』という意識を、彼らの頭に残す。


 暫く生徒たちはひそひそと話し合っていたが、真っ先にブレンダが立ち上がった。それに引っ付くように、もう一人同い年くらいの女の子が立ち上がる。

 そして、前に出てきた。


「よろしくお願いします、エルトール先生」

「あ、う……よ、よろしくおねがい、します……」


 ブレンダと女の子が、紙を提出した。エルトールは笑顔で受け取り、「ありがとう」と返す。

 紙にはブレンダと、パトラという名前が書かれていた。


 それに続くように、どんどん子供たちが前に出てきて、用紙を提出していった。エルトールは一つづつそれを受け取って、名前を確認する。


 そんな流れの中、「……ちっ、くっだらねぇ」リックがそう言って、立ち上がった。

 紙を両手に持ち、エルトールに見えるようにびりびり破ってしまった。その周りに居た子供たちも、ちょっと躊躇してから紙を破く。リックは勝ち誇ったように笑い、


「馬鹿みてえな夢物語語りやがって。お前ら、馬鹿だな。俺達はみんな、あの王都学に『才能無し』って烙印を押されたんだぜ? 才能無い奴が頑張っている様ほど見苦しいものは無いぜ?」


 アリサがギリ、と奥歯を噛みしめた。

 この前サイモンに言われたことを思い出したのだろう。

 そんな中ブレンダが、


「リック、考え直して。昔からあんなに魔法使いに憧れてたじゃない!」


 リックが顔をみるみる真っ赤にさせて、「その口を閉じろ! 糞アマ!」と叫んだ。そのまま、ブレンダの方へこぶしを握って駆け下り始めたので、エルトールは仕方がなく魔法をかけた。


「暴力は良くないな」


 リックの身体が空中に浮かぶ。リックは必死の形相で身体を動かした。


「くそ!! なんだこれ!! やめろよ!!」


 じたばたと身体を暴れさせる様は、あまり優雅とは言えない。何となく、いたたまれない空気が教室に広がって行く。

 そのことに気づいたのか、リックはようやく諦めて暴れるのを辞めた。エルトールはゆっくり地面に降ろしてやった。


 そうして、彼とその取り巻きは、「お前ら、全員くたばっちまえ!」

 そう言い残して、学校を去って行った。

 

 アリサが「一応見てきます。迷うといけないので」と追っていった。


 そうして、静けさが戻った教室。リックに影響されてやっぱりやめると言い出す子が出てこないかと思っていたが、みんなは決意に満ちた表情で、その場にとどまっていた。アリサの演説が、かなり彼らの心を動かしたらしい。

 そしてそんな中、


「よろしくおねがいしますー」


 さっきの、ふわふわしてる男の子が欠伸をしながら志願書を提出してきた。あれ、この子は……、リックの取り巻きの一人では無かったか?


「君はいいのかい?」名前を覗き見てみると、テディと書かれていた。

「え? だって僕、魔法使いになりたいですもん」


 ……なかなかのマイペースさである。

 暫くしてアリサが戻ってくる頃には、その場にいる子供たちは全て志願書を提出し終えた。総勢、十二名。

 そのうち、男子七人、女子五人である。リックとその取り巻きたちが五人ほどだったので、最初から人数が減りはしたが、何とか学校としての体裁を保つための生徒数は確保できた。


 その日の終わり、エルトールはみんなに向けて、


「……みんな、ありがとう。今日からここにいるみんなは、魔法使い見習いだ。そして、君たちにはこの学校の第一期生として、大きな役割を背負ってもらうことになる。

 ……三か月後の魔法競技大会にて、王都魔法学園の選抜チームを打ち破るんだ。難しいことかもしれない。でも必ず、君たちを一人前の魔法使いにしてみせる。だから……、僕を信じて、付いてきてくれ」


 エルトールが頭を下げると、拍手が起こった。顔を上げると、生徒たちが皆立ち上がっていた。


 ――そうして、彼らの学校が始まった。


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