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第二十八話 説明会

「……なんだここ? まさかこんな場所を学校なんて言い張る気じゃ無いだろーな?」


 一階に全員を入れると、もうかなりいっぱいいっぱいになった。全員で十数名。

 皆も同意見らしく、きょろきょろと部屋の中を見回している。アリサはニヤッと笑いかけて来た。

 頷いて、奥に設置されてある扉を指さす。


「まさか。学校はあの扉の向こうさ」


 みんなを連れて、扉の前に立った。懐から金色の鍵を取り出す。

 そんな中、少年がばっと手を挙げた。


「すみませぇん! 部屋の間取りと大きさ的に、その壁の向こうには何も無いと思うのですが!」


 手を挙げてきたのは、背の小さい少年だった。どこかふわふわした雰囲気の声で、本人もふわふわしている。

 具体的に言うと、服がダボッとしている感じ。


「それは君たちの目で確かめてみる事だ」


 アリサに鍵を渡す。彼女が扉の鍵を回し、そして開いた。


 エルトールは後ろの子供たちを引き連れて、扉の中に入る。その中には――、


「…………え?」


 一番最初に入って来たブレンダが、ごしごしと自分の目をこすった。


 そう、扉の向こうには、全く別の景色が広がっていたのだ。

 緑豊かな森に、一本の道が正面の丘の方へ伸びている。丘の上には、美しいレンガ造りの洋館が建っていた。


 続々と入って来た他の生徒たちもその光景を見て、

「なにこれ? なにこれ!?」「す、すげええ!」「夢見てんのかな……」とはしゃぎ始める。


 リックとその取り巻きたちも、呆けたように口を開いて、周囲を見回していた。


「ここが僕たちの魔法学校だ」


 エルトールはみんなを振り返って、彼らを迎え入れた。


 丘の上に屹立した煉瓦の洋館。その敷地を生徒たちと共に跨ぎ、扉を開いて玄関に入った。


 玄関は広々とした造りになっており、上からはシャンデリアが垂れていた。そこからすぐに二階に上がる階段があり、左手と右手には通路が伸びている。


「色々と考えて作った校舎だけど、取り合えず君たちの教室はこっち」


 進んだのは入って直ぐ左手の通路。その一番最初に当たった扉をがらりと開いた。そこは、ずらりと並んだ木の机と椅子が階段状に設置された、巨大な講義室だった。


「す、すごい……」

 誰かが教室を見上げて感嘆を漏らす。

「取り合えず、好きな場所に座りなさい。今から色々と説明をするから」


 エルトールはそう言って、一先ず子供たちを席に座らせた。子供たちは恐る恐る中の良い者同士で固まって座り始める。


 大体、フレンダ率いる女子グループが最前列、リック率いる男子たちは後ろ目の席に座った。

 アリサは助手として、エルトールの傍に控えている。


 準備が調ったのを確認し、エルトールは教壇に立った。


 とたんに、懐かしい感覚が襲ってきた。帝国でも、こうして何度も講義を行った。

 だがほとんどの生徒は、権力のある先生に媚びを売る事で忙しかった。


 賢者の中でつま弾きものになっていったエルトールの講義は、次第に人が居なくなっていった。最後に残ったのは、学園を追い出されるとき見送ってくれたあの数名だ。


「――今日は来てくれてありがとう。君たちがこの学校に興味を持ってくれて、僕は本当にうれしい」


 生徒たちはじっと、こちらを見つめていた。

 緊張した様子である。やはり扉を抜けたら別の場所に出て、そこには洋館があったなんて、反対意見を黙らせるほどには衝撃的だったらしい。


 エルトールは大きく息を吸い込んで、


「一先ず、最初に言っておこう。この学校では、入学試験などは行わない。お金も取らないし、強制もしない。嫌だというのなら、直ぐに辞めても構わない」


 その言葉に、子供たちはざわざわと話し始めた。そんな中、奥のリックが手を挙げ、


「……入学試験が無いって、意味わかんねぇよ! 魔力が無いと、魔法は使えないんだろ!?」

 エルトールは微笑んで、「程度の差はあれど、魔力の無い人間は居ない。つまり、きちんとした訓練を積めば、みんな魔法使いに慣れるんだ」


 リックは口を噤んだ。エルトールは続け、

「一度その間違った認識を正しておこう。まず王都魔法学園の試験だが……僕が聞く限りでは、それは個人の保有する魔力を量るだけのものだと聞いた。だがこれは非常に前時代的な、時代遅れな選別方法だ。確かに、魔力が多ければ長く魔法を使える」


 エルトールは背後の黒板に指を差し、魔法で文字を書いていった。『魔力至上主義』。


「けれど、そう単純に考えられるのは、ただ呪文を唱えるだけの非創造的な魔法を扱う場合だけだ」

「魔法っていうのは、呪文通りに発動するものじゃないんですかぁ?」


 さっきのふわふわした少年が聞いて来た。

 エルトールは首を振る。


「それは違う。呪文とは、『簡易魔法』とも言い換えられる。本来やるべき作業を飛ばして、完成形を呼び出すという方法だ。いいかい? 例えば有名な「火炎弾ファイアボール」でも、最初からその呪文があったわけではない。その魔法を開発した魔法使いが、言葉の響きと魔力を連動させ、自動的にその魔法が発動するようにしただけだよ」


 子供たちはこちらの話に聞き入っていた。エルトールは続け、


「確かに便利な呪文だけど、……今の魔法教育は、それにすっかり頼り切るようになってしまった。魔法本来の意味を忘れ、ただ便利な道具として扱っている。呪文さえ上手に唱えられれば問題ないと考えられている」


 皆を見回した。

「この中にも、王都魔法学園の試験に落ちた子が居るだろう?」

 リックがこちらから目を逸らした気がした。

「だが、あれは全く意味の無い試験だ。魔法の才能とは、魔力の絶対量ではない。……魔法に情熱をもって向き合えるかどうか、だ」


 それからエルトールはアリサに指示して、一人一枚ずつ、紙とペンを配布した。紙には『入学志願書』と書かれていて、さらに名前を書く欄がある。


「ああ、まだペンは持たないで」


 名前を書こうとした子供たちを、エルトールは止めた。まだ、話さなければならないことがある。


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