第二十話 国王との謁見
謁見の時間はあっという間にやって来た。
部屋をコンコンとノックされ、開けると騎士のバーノンが立っている。
「準備は出来たか、エルトール殿」
エルトールはすでにローブを着て待っていた。
「大丈夫です。行きましょう」
「師匠……あたし、応援してますから!」
見送るアリサは、ぎゅっとこちらの手を握って来た。エルトールは握り返し、
「安心しなよ。絶対に許可を取り付けてみせるから」
そして、ポンと彼女の頭に手を乗せた。アリサはホッとした様に笑顔を浮かべた。
バーノンと他二名の兵士に囲まれながら、城の廊下を歩く。
城の中は大量の使用人と警備兵が忙しそうにしていて、こちらに目をくれる事も無かった。海の見える廊下を抜け、階段を降り、それから城の中心にある巨大な建物の中へ。
暫くして到着したのは、まるで大聖堂のような高い天井の、巨大な王座の間だった。
石造りのそこにはたくさんの人々が囲みこんでおり、さらにその内側を重装備の兵士たちが囲んでいる。
その奥、何度か階段を上った先に、白い金属に青い宝石がいくつもはめ込まれた、美しい王座が設置されていた。その横には一回り小さな座が用意されていて、そこには見覚えのある白い髪の女が座っていた。……イルフリーデだ。
彼女は小さくエルトールに手を振ってみせた。エルトールも小さく返す。
――とそこで、
「静粛に!」
なにやら長老のような雰囲気の老人が奥から出てきて、杖を地面にガンガンと叩いた。それを聞いて、途端に群衆のざわめきが収まる。
それから少しして、奥から男が現れた。白いゆったりとしたコートを着た、煌めくような青い髪の優しそうな美男子である。歳は四十くらいだろうか。
深い色の瞳を見回し、それから王座に腰かけた。群衆が一斉に膝を付く。エルトールも習って膝を付いた。そうしているうちに、男性は長老から王冠をかけられた。どうやら、あれがユリシア王国の現国王の様だ。
国王はイルフリーデと何かを話していたようだったが、暫くして、「全員、顔を上げなさい」と言った。
ざっと顔を上げる群衆。そして恒例通り、前に並んでいる者たちから謁見に移ろうとしたのだが――、
「いや、少し待て。どうやら今日は、特別な客人が居る様だ」
その瞳は、明らかにエルトールの方を見つめていた。
バーノンが立ち上がり、「道を開けろ!」と群衆に言う。
ザザっと分けられた群衆の間を通り、エルトールは前に進んだ。そして、国王の前でもう一度膝を付く。ざわざわと群衆が困惑する。
「あの男は一体誰だ?」と。
「さて、……名を名乗りなさい」
国王の言葉にエルトールは顔を上げた。
「は。私の名はエルトールと申します。帝国の魔法使いであり、元は賢者の称号を頂いていた者でございます」
その言葉に、全員が動揺した。
「帝国の賢者だと!?」「馬鹿な……あり得ん!」周囲を守っていた護衛たちも動揺し、こちらに近づいて来ようとする。
「全員、静まれ」
それを、王が止めた。王は相変わらず落ち着いた様子で、「何故、帝国の賢者がここに居る?」
ゴクリ、と息を呑む音が聞こえた。場が静まり返り、エルトールの言葉を待つ。
「……私は、理想の魔法学校を作るために、この国に来ました」
エルトールの話す間、王座の間では誰も、一言もしゃべらなかった。
話の内容は大体、イルフリーデに語った時と同じものである。自分は帝国に多大な功績を残したが、それらは他の賢者たちに奪われ、自分は無実の罪を着せられてしまった。
そこで、もう二度とこのようなことを起こさないためにも、自由に学ぶことが出来、そして功績が功績として認められる場所を作りたい。
「……なるほど」
王は話を聞き終えて、ため息をついた。周囲もざわざわとざわめきを取り戻す。
反応的には、同情の目が半分、疑惑の目が半分と言った感じだ。
そんな中、
「一つよろしいですかな?」
と手を挙げる者が居た。その男は、観覧席に座っていた。
「どうした? ワドルド」
ワドルドと呼ばれた男は、ゆったりと王座の間に降りて来た。年齢はおよそ五十歳ほど。髪をオールバックにした、背の高い男だった。
「王よ、分かっておられるはずです。この男が言っていることは、全くの欺瞞であると」
イルフリーデが鋭い視線を向けた。
「この男は私の推薦よ。私の見立てが間違っているとでも言いたいの?」
「おお、イルフリーデ様を疑うつもりはありません。しかし、詐欺師と言うものは実に巧妙でして。御聡明な方程、沼に陥りやすいという物です」
ワドルドはエルトールに、優雅に一礼して見せた。
「これは失礼。自己紹介を忘れていました。私の名はワドルド。宮廷魔法使いであり……王都魔法学園の学長を務めている者です」
王都魔法学園、学長……? ワドルドがにやりと笑う。
「そう。エルトール殿、この国にはすでに魔法学校が存在しているのですよ。それも百年にわたって優秀な魔法使いを排出し続けてきた名門校が」
イルフリーデが小さくため息をつくのが聞こえた。なるほど、戦わなければいけない相手とは、この男の事の様だ。
「魔法学校の役割としては、王都魔法学園が十分に果たしている。わざわざ得体のしれない男に、良く分からない学校を開かせる必要などないでしょう」
ワドルドは王だけでなく、その場にいる聴衆全員に語り掛けるように言った。
対してエルトールは、
「お言葉ですが、私が作ろうとしているのは、従来の学校ではありません。王都魔法学校と役割が被るという事は考えにくいでしょう」
ワドルドは嫌味な笑みを浮かべ、
「王国の為の人材を輩出しないというのなら、一体王国に何の利益をもたらしてくれるのですか? そんな良く分からない理念ばかりの場所に、存在価値等あるのでしょうか?」と言ってきた。
どうやらこの男、新しく魔法学校が出来るのがよほど嫌らしい。
理由は……まあ、もしもう一つ学校が出来たとして、そちらに生徒を取られる可能性も考慮しての事だろう。そこまでこちらの事を脅威に思っているかどうかは分からないが。
「……失礼を承知で申し上げます」だが、ここで黙っているわけには行かない。
「追放されたとはいえ、私は帝国で賢者の座を得た者です。私に学校を開かせてくれれば、たちまちこの国には今まで以上に優秀な魔法使いが溢れる事でしょう」
ワドルドの顔から笑みが消えた。
「王都魔法学園よりも自分の方がうまく教えられると?」
「そう考えています」
……王都魔法学園。恐らく、アリサが逃げ出してきたという魔法学校だろう。
アリサの話からすると、この学校の実態は腐敗した帝都の学校とほとんど変わらない。才能の一言ですべてを決めつけ、努力する生徒を蹴落とすような場所だ。
「お主ら、ここが王の前だと言う事を忘れてはおらんじゃろうな?」
と、そんな二人に長老から注意が入った。ハッとして振り向き、跪く。ワドルドも同様に跪いた。
王は、「よい。お前たちの意見は良く分かった」と言って、二人を交互に見た。
「帝都から来た元賢者が、わが王国に魔法学校を作るというのは、私としても願っても居ないことである。しかし、ワドルドの意見も理解できる点があろう。よって、手放しでその案を受け入れる事はできない」
エルトールが何か言おうとするのをぐっと抑えた。「だが」と王は続ける。
「もしすべてが上手くいけば、お前はこの国に素晴らしい功績を残すことになる」
今度はワドルドが言葉を抑える番だった。場がシンとするのを待ち、
「よって、私はお前を試すことにした。……今から三か月後の魔法競技大会をもって、全ての可否を決定する!」と、宣言した。
「エルトールはそれまでに生徒を集め、鍛え上げよ。大会にて王都学園の生徒たちに勝利できたのなら、学校の創設を正式に認めてやろう!」
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