第十九話 王城到着
馬車はゆっくりと降下して行き、とうとう城へと着地した。
眠たげな眼をこするアリサを連れて馬車を降りると、そこには鎧を着た兵士たちが待機していた。その中から一際ガタイの大きな男が出てくる。顎まで髭が生えている強面の男だ。
「イルフリーデ様、やっとお帰りになられましたか」
兵士は腕を組んで仁王立ちしている。
「困りますな。賢者ともあろうお方が、王に断りもなしに飛び出すなど」
「緊急事態だったから仕方ないじゃない」めんどくさそうなイルフリーデ。
「仕方ないじゃ済みませんぞ! 貴方は自覚が足りていない! 貴女が居ない間に王都が襲撃でも受けたら、一体どう責任を……」
と、そこで男の鋭い眼光がこちらを向いた。「……そこの男は誰です?」
「拾い物よ。気にしないでいいわ」
兵士と眼が合う。エルトールは相手を刺激しないように、笑顔を浮かべた。
「エルトールと申します」
「なるほど、エルトールとやら。最低限の礼儀は持っている様だ。私は王騎士のバーノンだ」
――騎士か。と内心苦笑い。騎士の相手をするのは帝国に居る時から苦手だった。彼らはとにかく礼儀に口うるさいのだ。
「お前は何故この城の敷地を踏んだ? 目的を答えよ」
エルトールが答えようとした時、
「バーノン。私が連れて来た客人を尋問する気かしら? いくら騎士と言えども、私に逆らっていい権限は無いはずよ」
イルフリーデが口を挟んだ。
「イルフリーデ様。ならばせめて、この男の素性を……」
イルフリーデがちらっとこちらを見る。エルトールは頷き、
「……僕は帝国からやって来た魔法使いです。向こうでは、賢者の位を得ていました」
「――何?」
「はい、明かしたわ。もういいでしょ」
バーノンが何か言おうとするのを、今度こそ止めた。
「早くこの二人に部屋を用意して頂戴。今日の昼には王と謁見させるからその準備もしておきなさい。ほら、行くわよ」
イルフリーデがメイドのマヤに指示を出しながら、すたすたと歩きだしてしまったので、こちらも慌てて付いてゆく。
後ろではバーノンが「一体どういうことですか!?」と叫んでいたが、イルフリーデは聞こえないふりをしていた。なかなか城の中でも曲者の様だ。
その後エルトールとアリサの二人は、お城の客間らしい部屋に案内された。高級そうなソファーにカーペット、壁には装飾のついた剣なんかが飾られている。
「……時間になったら昼食を持ってくる。昼過ぎには、イルフリーデ様が王と謁見の機会を設けてくださるから、それまでに身だしなみを整えておけ。もしイルフリーデ様に恥をかかせるようなことがあったら、今度こそコロス」
マヤはそんな物騒なことを言い残して、部屋から去って行った。
そして久々に二人になった師弟。アリサはローブを脱ぎ捨てて、「すごいすごい!」と言って部屋に走り込んでいった。
エルトールも続いてローブを脱ぐ。なんだか、広い部屋に来るというのがとてつもなく久しぶりな気がした。
「師匠! この椅子凄い! 沈み込むっ」
アリサがソファーに腰かけて沈んでいた。エルトールもその隣に腰かける。……うむ、素晴らしい。馬車の椅子も上質ではあったが、やはりスペースの限界があった。
そのままソファーでふわふわしていると、暫くして食事が運ばれてきた。それはもう豪華な朝食だった。
パンに果物のジャム、それから魚のソテーに、ミルクまで付いていた。エルトールもアリサも、食事の間は何も言わなかった。
――そして、食後。
「入るわよ」
イルフリーデが訪ねると、部屋には満腹状態でソファーに沈み込んでいる二人が居た。
「……そのまま寝たりしたら駄目よ。直ぐに王との謁見があるから」
「ああ、大丈夫。理解してるよ」エルトールはふぅ、と息を吐いた。
「師匠、大丈夫ですか? 王様と会うだなんて……」
「魔法学校を開くんだ。王から直接許可を取る必要が、どうしたって出てくる」
辺境の村なら無許可でも問題ないだろうが、それでは生徒が集まらない。
イルフリーデが反対側のソファーに腰を下ろし、
「まあ安心なさい。私が推薦するのだから、王は聞き入れるわ。それに、貴方は帝国の賢者でしょう。魔法で後れを取っている王国で、帝国の賢者が学校を開きたいだなんて、こちらからしてみればそれこそ願っても無い話なのよ」
「本当でしょうね! 嘘だったら承知しないから!」
イルフリーデは肩をすくめ、
「一応言っておくけれど、私は『王は、聞き入れるでしょうね』と言ったのよ。決して許可の取り付けを約束するわけではないわ。王の他に、戦わなければならない相手が居るのだから」
二人は首を傾げた。王との謁見だというのに、他に誰と戦うというのだろう。
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