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第十六話 隕石

「……まいった?」


 イルフリーデはそのまま呆然としていたが、暫くしてゆっくりと地上に降りて来た。

 ちなみに草原は戦闘のせいで燃えたり、凍っていた李、地面がえぐれていたりしている。


「……こんな気持ちになったのは、初めてよ」

 そう呟き、こちらを睨んでくる。

「私、自分の事を天才だと思っていたけれど、その全てを真正面から否定された気分だわ」


 エルトールはお辞儀して、

「光栄です、賢者様」

「辞めて頂戴。……はぁ。年上ならまだしも、まさかほとんど同年代の男なんかに……」


 ぶつぶつと呟くイルフリーデ。

 いやしかし、そうは言うが彼女は天才で間違いないだろう。

 エルトールにしても、彼女の様な魔法使いは始めて見た。上級魔法というものは、そんなにポンポンと習得できるものではない。ただならぬ努力と練習があっても、習得に十年ほどは余裕でかかる。

 それを見た限りでも、二つも使用した。その上、魔法一つ一つの練度も高い。彼女なら、帝国でもそう遠くないうちに賢者に上り詰めていただろう。


 イルフリーデは、もう一度杖を高く掲げた。


「でも、まだよ。まだ私の最高の魔法を出していない」


 彼女の周囲に、紫色の魔力が輝いてゆく。


「分かりました。それを僕が防いだら、参ったと言ってください」

「……その余裕も今の内よ」


 ぎり、と歯を食いしばるイルフリーデ。多すぎる魔力量の制御に苦心しているらしい。

 魔力は空へと立ち上って行き、そのまま何かを引っ張ってきている。

 ――しだいに、何か光っているものが空から弧を描いてきた。それはそのまま、ドンドン二人のいる場所へ近づいてくる。

 あれは、隕石だ……!


隕石メテオッ!!」


 流石に驚いた。この魔法は知らない。そもそも攻撃魔法は専門では無いのだ。見ただけで、その凄まじい威力が分かる。

 正直、魔法障壁じゃ全く相手にならないし、中途半端に逃げても無駄だろう。というかこの魔法、術者も危ない。イルフリーデはというと、魔力をほとんど使い果たして、地面にへたり込んでいた。


 さて、どうしたものかと思考を巡らせる。そして、一つ簡単な方法を思いついた。防げないのなら、どこかへ飛ばしてしまえばいいのだ。


ゲート


 エルトールは呟き、目の前の空間に巨大な亀裂を発生させる。

 イルフリーデがそれを見て、「ひっ」と声を上げた。


「な……何よ、それ……」


 そのままヒビはどんどん大きくなってゆき、真黒な口を広げて、隕石を待ち構え――そして、とうとう呑み込んでしまった。門を繋げた先は、何も手を加えていない異空間。放り込まれた隕石は、何も無い無の空間を一生漂う事になるだろう。


 エルトールは両手を合わせて、ゲートを閉じた。周囲を取り巻いていた暴力的な魔力が、一瞬で収まり、正常な空間が戻ってくる。

 荒廃した草原に座り込んだイルフリーデは、弱弱しく手を挙げた。


「……参ったわ……」


 二人の決闘は終わった。結果はエルトールの完勝。完膚なきまでの圧勝。それはエルトールにとっては何度も経験してきた出来事であり、イルフリーデにとっては、人生で初めての敗北だった。


 家で待機を命じられたアリサは、不安な面持ちで玄関先に座っていた。

 二人の戦闘のすさまじさは、遠く離れていても伝わって来た。空気を震わせるような魔力を、未熟な身でもひしひしと感じる。

 しまいにはあの隕石だ。アリサは気絶しないようにするのに精いっぱいだった。


「師匠……」


 不安いっぱいに呟く。

 先ほどの魔法は、エルトールの仕業だろうか。それとも……。


「あの女……師匠に何かあったら、このあたしが……!」


 足はがくがく震えている。だがしかし、師匠の仇を打つのも弟子の役目。例え勝ち目がないとしても……、

 とそこまで考えたところで、遠くから人影が歩いてくるのが見えた。

 じっと目を凝らす。黒いローブが見える。あのシルエットは明らかに女ではない。


「師匠おおおおおおおおお!!」


 アリサは満面の笑みを浮かべて走り出した。やっぱり勝ったんだ! 師匠が負けるはずない!

 このまま全力でダイブする勢いでダッシュする。

 しかし、目視できる距離まで近づいたところで、その背中に白い髪の女が背負われていることに気づいた。


「し、し、師匠おおおおおおおおおお!?」


 今度はドロップキックしそうな勢いで走り出したアリサであった。


「な、なんでそいつをおんぶしてるんですかぁぁぁぁぁぁ!?」

「いや、なんか魔力使い果たしちゃったみたいで」

「駄目です! あたしもまだなのにっ!」

「あー、ギャアギャアうるさいわね。ちょっとそこの小娘を黙らせなさいよ」

「誰が小娘だぁぁぁぁぁ!」「ちょっと二人とも、落ち着いて……」

 三人のやり取りは、暫く続いた。


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