第十二話 復興祭
「にしても、エル君は本当にすごいなぁ!」
昼食に出されたのは、パンと畑で取れた野菜のスープ。
それをご馳走になっている間、親父さんは何十回もそのセリフを言った。
「あんなに枯れ果てた畑を、たった一週間でこんなんにしちまうんだもの!」
エルトールは「ははは」と、笑って返した。
……ちょっとやりすぎたかもしれない。いつもの悪い癖が出てしまった。
複雑な魔法を使おうと、ついついもっと効率のいい方法、効果の高い方法を求めてしまい、やりすぎてしまうのだ。
もともとは土壌を回復させるだけのはずだったのに、オプションをいくつも付けてしまった。まあ、村の食糧はかなり切迫していたようだったし、どのみち必要だったかもしれないが。
ちなみに今回使った魔法の概要は、一応本に書き記しておいた。横の席に座っているアリサが今まさに、うんうん唸りながら読んでいる。さらにその横からマリアがのぞき込んでいる。
「……あーもう! わっからないっ! 意味が分からんっ!」
アリサはそう言って本を閉じた。
「そりゃそうだ。まだアリサには難しいよ」
エルトールが言うと、アリサはツンとして本を返してきた。その様子を見ていたマリア母が、
「で、二人は一体どういう関係なの?」と聞いて来た。
「師弟関係になりました。ついこの前」エルトールが返答する。
「ほう、師弟関係か……」
親父さんが険しい顔をして、二人を見比べた。
そしてエルトールの方へ耳を近づけ、
「しかしエル君。いくらアリサちゃんが可愛いとはいえ、ちょっと若すぎやしないか? もう少し育つのを待ってからでも……」
そんな親父さんの頭を、マリア母がスパーン! と叩いた。
「ごめんね二人とも。あんたは本当に下世話な話ばっかり!」
「いえいえ、大丈夫ですけど。まあ、本当に真面目な師弟関係なので」
な? と振り向くと、アリサは顔を真っ赤にして俯いていた。そして疑惑の目を向けられるエルトール。
「……いや、違いますからね?」
そんなやり取りもそこそこに、話題は今夜行われるという祭りへ移った。
どうやら村の復興を祝って、村を上げてお祭りを開こうという事らしい。そして当然、主役としてエルトールとアリサの二人も呼ばれていた。
どうやら、金は要らないと言ったのがお祭りに変わったらしい。
しかし、丁度いい機会かもしれない。このお祭りに参加すれば、この村での問題も一区切りついたと言う事になるだろう。
翌日に村を発つくらいが、色々と具合がいい。幸い、こちらにはアリサという道案内役が居る。取り合えず王都の方向くらいは分かるだろう。
「絶対来てねー!」
食事を終えた二人は、マリアちゃん一家に見送られて家を後にした。
そこから村の外れにある、森沿いの家に移動する。ここは魔物を倒した後、仮の宿として村長が貸してくれた場所である。
家具は全部完備されていて、村の人たちからお酒などがプレゼントが置かれていた。家へ入ると、アリサは真っ先にベッドに倒れ込んだ。
「うー、食べ過ぎたー……」
「毎度毎度詰め込み過ぎじゃないか?」
アリサはぐるりと仰向けになって、
「だって、まともな料理なんて久しぶりだし、食べなきゃ損じゃないですかっ!」
その表情は、すごく幸せそうである。苦しいのに幸せとは器用な。
「それよりもアリサ。明日の朝、村を出るから準備しておきなさい」
「え!? なんでっ!?」
アリサが飛び起きた。エルトールはもう一つのベッドに腰かけて、本を開いている。
「なんでって、もうこの村は十分持ち直した。これ以上僕らが居る必要も無いだろう」
「でも、ここを出て一体どこへ行くんですか?」
「そうだな。取り合えず王都に向かおうと思っているよ。そこなら人もたくさんいるだろうし、ちゃんとした物件も生徒も見つかる」
金は一応、ある程度は持っている。異空間の中に、賢者時代に稼いだ帝国の通貨がかなり。帝国通貨は世界的にもかなり価値があるので、王国でも喜んで買ってもらえるだろう。
しかしアリサは、
「王都かぁ……」
と苦々しそうな顔をした。そういえばアリサは王都から逃げ出してきたんだった。
「不安?」
アリサは肩を落とすも、すぐに顔を上げた。
「いや、大丈夫です! あたし決めましたから。師匠にどこまでも付いて行くって!」
エルトールは頷いた。
まだ付き合いは短いが、アリサは素直で、我慢強い。課した訓練も決して手を抜かずにやるし、言ったことを忘れない。
何より、強い意志があった。実に魔法使い向きの人間だ。
「はっ……なら、今日のお祭りではいっぱい食べないと……」
……少々食い意地が張ってはいるが。
そのまま家でぐだぐだとした時間を過ごし、だんだん空が暗くなってきたころ。
二人は支度をして家を出た。空は太陽が沈みかけて、青と黒が入り交じったような色をしている。黒の部分には、眩い星空がすでに見えている。黒々とした森の脇を、村の中心部へ向かって歩いた。
「あ、明かり」
アリサがたたたたと走って行く。その先には、炎の明りが見えていた。
そこへ行ってみると、実ににぎやかな光景が広がっていた。
大体位置は村の西側にある村長の家の近く。そこの広場っぽいところに、木の椅子やテーブルなどが並べられ、その上にたくさんの料理が乗っていた。周囲には松明の炎が燃えており、眩くあたりを照らしている。
「おお、主役のご登場じゃ!」
村長が慌ただしく二人の元へ駆け寄ってくる。それから、あっという間に他の村人たちも集まって来た。
やいのやいのと囲まれ、コップを渡され、そこにエールが並々注がれてゆく。
そして、みんながグラスを空に高く掲げた。
「では、村の復興と救世主に向けて、乾杯ッ!!」
「「「乾杯っ!!」」」
予想以上の熱量と共に、二人は村人たちに押し流され、テーブルまで連行された。
ちなみに移動中に二杯目のエールが並々注がれている。テーブルには肉料理に魚料理、さらにはパイなどの料理も勢ぞろいしていた。
「ほれ、飲めや歌えや! 祭りの始まりじゃ!」村長の宣言と共に、本格的に祭りが始まった。
「……イルフリーデ様。どうやら先行している斥候が、前方に村を発見した模様です」
馬車の外から呼びかけられた言葉に、イルフリーデは目を覚ました。
座席に横たえていた身体を起こし、窓から首を出す。白い髪が風に揺られ、後ろに靡いた。
外は夜で、空には満天の星空。その下、イルフリーデが下を見下ろすと、そこにはなにやら火の明りが見えている。
「村人が何か知ってるかもしれないわね」
イルフリーデはそう呟いてから、他の全員に向かって、
「あそこまで降りなさい。今夜はあの村を使うわ」
指示通り、隊は速やかに下降を始めた。
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