008_レベル差
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008_レベル差
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狩りの続きをするジュンは、次のビッグモスキートの群れに風魔法・トルネドをぶっ放した。
森林破壊になってしまった。ビッグモスキートも粉々に切り裂かれて、原形が分からない。それどころか魔石さえも切り刻まれてしまい、残っていない。
「つまり、今回も魔石の回収ができない」
予想していたので、肩を落とすことはない。
ステータスボードを出して、得たCHSCを確認した。
CHSCの増えたポイントから、雷魔法・サンダーで倒したビッグモスキートの数は33匹。
風魔法・トルネドで倒したビッグモスキートの数は36匹だと考えられる。
次のビッグモスキートの群れを探す。
今度は普通に網で一網打尽にした。魔石もしっかり回収。
そして、今回倒したビッグモスキートの数は34匹。順調だ。
さらに2回、ビッグモスキートの群れを潰した。
そこで昼食を食べようと近くにあった石に腰を下ろした。
パンに干し肉のスライスと葉野菜を挟んだだけの簡素なものだ。シャル婆さんの家にはあまり食料がないため、毎日このメニューになる。
簡素な食事を腹の中に収め、午前中の成果を確認することにした。
ステータスボードを出して見つめ、違和感を感じだ。
「うーん……何か変だ……っ!? そうだ! CHSCが少ないんだ!?」
1回目と2回目(魔法を使った)の狩りの後に確認した時は、CHSCは129ポイント増えていた。
その後に3回の狩りを行ったからCHSCは198ポイント増えてないといけない。それなのに、増えているのは130ポイントだけだった。
どういうことだと、首を傾げる。
何かの間違いかと思って、ビッグモスキートの群れを潰してCHSCを確認した。
―――さきほどと全く変わらない数値。
「効率厨とチェーンスコア、どうしたの? ……あっ!?」
ジュンはレベルに瞠目した。ジュンのレベルは6。そう6なのだ。
「ビッグモスキートのレベルは0。つまり、レベル差は6」
レベルが5差までなら経験値が入る。しかし、レベル差6以上になると、経験値は全く入らない。
つまり、成長しないのだ。
CHSCもレベル差に引っ張られて、経験値同様に取得できなくなることが考えられた。
「これは、マズいぞ」
普通ならレベル差が少ない他の魔物を捜せばいい。
ビッグモスキートのような大量のチェーンは得られないだろうが、それでも中級魔法があれば連続討伐はできるはずだ。
効率は悪くなるが、それでもチェーンポイントは得られる。
だが、雷魔法・サンダーと風魔法・トルネドは強力だ。強力すぎて森の中では使いづらいのがいけない。
これらの魔法を使えば使うほど、森が破壊されてしまう。
問題はそれだけではない。雷魔法・サンダーや風魔法・トルネドを使うと、派手な音を出して森の木々を破壊する。
それは、森林破壊だけでなく、近くにいる魔物を引き寄せる原因になる。
ビッグモスキートの群れくらいならいいが、他の魔物と戦うのはまだ怖い。いくら強力な魔法があっても、怖さは別物だから。
「レベル差のことをまったく気にしてなかった。どうすればいいのか……」
ジュンは落ち込んだ。
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「カクカクシカジカなんです、シャル婆さん!」
「帰りが遅いと思ったら、そんなことになっていたのかい」
レベル差によって経験値が入らなくなり、同時にCHSCも入らなくなった。そのことをシャル婆さんに話したジュンである。
ジュンのあまりの焦り様に悪いと思ったシャル婆さんだったが、笑いを堪えるのが大変だった。
「とりあえず、森をあまり破壊しないで欲しいところだね」
「でも、魔物を連続で倒さないと、僕はこれ以上成長しません!」
「安心おし、あんたにピッタリな場所がある」
「本当ですか!?」
ジュンがシャル婆さんに詰め寄る。
「こら、近いよ。離れな」
「あ、すみません」
年がいもなくシャル婆さんの頬が染まる。
「そ、それで、それはどこにありますか?」
「あぁ、そうだったね。それはダンジョン都市だよ」
「ダンジョン……都市?」
「そう、ダンジョン都市だよ。あそこにいけば、魔物を狩り放題。しかも、ダンジョンの壁は滅多なことでは壊れないのさ」
ジュンは15年生きてきたが、ダンジョン都市というのは聞いたことがない。それはどういったところなのかと尋ねる。
「ダンジョン都市ってのはね、ダンジョンと呼ばれる特殊な空間が複数あるのさ。ダンジョンの中は洞窟や森、他にも山や湖だってある。そこに色々な魔物が居るんだよ」
「そのダンジョンの中ならサンダーを撃ち放題なのですか?」
「そうさね。それに、あたしの記憶がたしかなら、ダンジョンの中にはあんたの好きな一網打尽ができるような群れる魔物も居たはずだよ」
「おおっ、群れている魔物が居るんですね!」
ダンジョンの話を聞いたジュンは、胸をときめかせた。
しかし、一転して表情を曇らせる。
「どうしたんだい?」
「僕はシャル婆さんに何も恩返しができていません。それに、そのダンジョン都市に行くと、シャル婆さんが1人になってしまいます」
「バカなことをお言いでないよ。あたしは、長年ここで1人で暮らしてきたんだ。あんたに頼らなくても生きていける。それに、恩を感じるんだったら、一人前の男になりな。それが、あたしへの恩返しだ」
「シャル婆さん……」
ジュンはシャル婆さんに抱きついた。
「ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます。ありがとうございます……」
「なんだい、男なんだから泣くんじゃないよ」
とめどなく涙が出てくる。
シャル婆さんには、どれだけお礼の言葉を重ねてもこの気持ちを伝えることができないだろう。
命を助けられただけでも、返しきれない恩を感じている。さらに、この家に住まわせてくれて、色々なことを教えてくれた。
一生をかけても返せない恩だと、ジュンは感じていた。
「あと5日もすれば、商人がやってくる。商人が帰る時に、あんたも一緒にお行き。ダンジョン都市はメルト町から馬車で3日程行けばあるからね」
「はい……。ありがとうございます……グスン」
「ほら、もう泣きやみな。あんた、男だろ」
「はい。僕は男です」
感動的な場面だが、シャル婆さんの服に涙と鼻水の跡がついて、げんこつをもらってしまった。
そんなシャル婆さんは、部屋からたくさんの本を持ってきた。
「これは?」
「商人が来るまでこの本を読んでおくんだよ。ダンジョンのこと、魔物のこと、ジョブやスキルのことが載っている。頭に入れておいて損はないはずだからね」
「は、はい……」
ジョブやスキル、魔物の本はそれぞれ2冊あったが、ダンジョンのことは1冊。
まずはダンジョンの本を読んでいく。
かいつまむと、GランクからSランクのダンジョンがあり、Gランクダンジョンは低レベル帯の魔物が出てくる。
シャル婆さんが言っていたダンジョン都市には、AランクからGランクまで、Sランクを除く全てのダンジョンがある。
ダンジョンが2カ所ある町はいくつかあるが、AランクからGランクのダンジョンが集まっているのは、ダンジョン都市しかない。
また、Gランクのような低レベル帯のダンジョンの数は多く、Sランクのような高レベル帯のダンジョンは少ない。
ダンジョンのレベル帯は、Gランクが5以下、Fランクが6~10、Eランクが11~20、Dランクが21~30、Cランクが31~40、Bランクが41~50、Aランクが51~70、Sランクが71以上。
ダンジョンによって多少の誤差はあるが、概ねの目安になっている。
●ステータス
【ジョブ】効率厨
【レベル】6
【経験値】0/210
【生命力】40/40
【魔力】125/125
【腕力】9
【体力】18
【知力】65
【抵抗】60
【器用】47
【俊敏】22
【スキル】チェーンスコア
【感覚スキル】聴覚強化Lv1
【下級魔法】エアカッター
【中級魔法】トルネド サンダー
【CHSC】260
【身分】流れ者
【賞罰】