007_雷魔法・サンダー
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007_雷魔法・サンダー
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最近は雨が多い。今日で3日連続だ。季節が夏に向かっているため雨が多いのだが、同時に暑さも増してきた。
ジメジメと夏の気温に、不快指数が上がっていく。
「シャル婆さん。何か手伝いましょうか?」
「要らないよ。魔道具ってのは、繊細なんだ。だから、魔道具作成の部屋には、絶対に入ったらいけないよ」
「分かりました。それなら、食事は僕が仕度しますね」
「そうしておくれ」
ジュンはシャル婆さんの作業部屋以外の掃除や、食事の仕度を3日間した。
特に掃除はそれほど細かくするタイプではないシャル婆さんなので、3日間でかなり家の中が綺麗になった。
「それじゃあ、行ってきます」
「あいよ。気をつけるんだよ」
やっと晴れたので、森へ出かける。
「今日もビッグモスキートは少ないか……」
雨上がりの日は、ビッグモスキートは木の葉の裏に隠れてしまう。
3日間も雨が降っていたので、しばらくは出てこないかもしれない。
予想通りその日はまったくビッグモスキートに遭遇しなかった。
寝る前、雨上がりの日にどうやってビッグモスキートを発見するか考えた。
思い出したのは、聴覚強化Lv1だった。ビッグモスキートの羽音は特徴的だ。離れていても聞こえることがある。
だが、聴覚強化Lv1はCHSCを120ポイント消費する。中級風魔法・トルネドを取得したため、残りCHSCの残りポイントが少なく取得できなかった。
「明日からもビッグモスキート狩りをがんばらないとな」
その翌日は、晴天に恵まれた。
「よし、今日はたくさん狩るぞ!」
ジュンは気合を入れて森に入っていく。
ビッグモスキートは葉の生い茂った木々や、背の高い草が鬱蒼と生えている場所の近くによく居る。
この数日の狩りでそれを把握したジュンは、そういった場所を重点的に探していく。
ただし、シャル婆さんの家からあまり離れると凶悪な魔物も居るため、慎重に気配を探りながら進む。
幸いにも今日はすぐにビッグモスキートの群れを発見できた。
網を投げ、ビッグモスキートを一網打尽にし、踏み潰す。
ブーツの底からぐにゅぶにゃという感覚が伝わってくる。何度やっても気持ち悪い。
ビッグモスキートを全て踏み潰したら、今度は魔石を取り出す。小さな魔石を手際よく取り出す作業も、ビッグモスキートの体液が手について気持ちが悪い。
「気持ち悪いけど、これも修行だよね」
本日はビッグモスキートの群れを12回も潰した。
合計で422匹、CHSC782ポイントになった。
聴覚強化Lv1を取得し、CHSC120ポイントを消費した。そこでスキル取得画面を閉じようとして気づいた。
「あれ……?」
新しく雷魔法があったのだ。
【消費CHSC700】
・雷魔法 サンダー アクティブスキル 消費魔力20ポイント 攻撃力150 範囲 ランダムで感電を発動 発動時間8秒 再使用30秒
欲しいが、CHSCを700ポイントも消費する。
「ギリギリ足りるけど……どうするかな」
今のところ風魔法のエアカッターとトルネドだけで十分。そもそも使っていない。
それでも雷魔法は欲しい。なんと言っても雷魔法は過去の英雄が使っていた魔法だ。
田舎で育ったジュンでも、その英雄の話は知っている。
強力な雷魔法を駆使して凶悪な魔物や魔族、そして魔王と戦ったその英雄の話は子供用の絵本にもなっている。
ジュンの家にもその英雄の絵本があった。絵本はそれだけしかなかったから、幼いジュンは毎日何度もその絵本を読んでいた。
憧れた英雄と同じ雷魔法を使えるというのは、ジュンにとって自信になる。
ジュンは無意識にその雷魔法・サンダーを取得していた。
「と、取ってしまった……」
家に帰ったジュンは、雷魔法・サンダーのことをシャル婆さんに話した。
「ほう、雷魔法まで取得できたのかい。そりゃあ凄いね」
シャル婆さんは、雷魔法の使い手はあまり居ないと言った。だから、英雄視された男の話が、絵本にもなったのだと。
「これでジュンは2属性使いだね」
「2属性使い?」
「風魔法と雷魔法。2つの属性を使う魔法使いってことさ」
魔物によっては、風属性の耐性を持っている種もいる。もちろん、雷属性の耐性を持っている種もいるだろう。
だから、2種類の属性が使えれば、戦闘の幅が増える。シャル婆さんはそう言った。
「しかし、見れば見るほど歪な能力だね」
ジュンのステータスについて、確認したシャル婆さんが苦笑した。
腕力はレベル0の時から変わらず9である。それに対して、知力は65になっている。
魔法使いでもここまで歪な能力値にはならないと、シャル婆さんは言う。
網を投げるのに腕力は要る。ただ、それは大したことではない。スキルがなくても、腕力が普通でも網を投げることはできるのだから。
今は少しでもCHSCが惜しい。シャル婆さんの言葉ではないが、資本の集中をする時だ。
腕力にCHSCを振るのは余裕ができた時か、振らなくてはならなくなってからでいい。
「器用をもう少し上げておくかな? でも、サンダー発動時の消費魔力は20ポイントだから、魔力を上げたほうがいいのかな……?」
考えた末、器用を上げた。
魔法の命中精度には、器用が関係するとシャル婆さんから聞いていたからだ。
翌朝のジュンは落ちつきがなかった。風魔法・トルネドや雷魔法・サンダーが使いたくてうずうずしていた。
「むふっ……むふふふ」
怪しい笑みを浮かべながら、家の外に出る。
そんなジュンの後ろ姿を見送るシャル婆さんは、「怪我をしなければいいんだけどね」と心配の言葉を口にした。
「取得したら使わないとね。ヘヘヘ」
風魔法・トルネドを取得して、まだ試してなかった。今は雷魔法・サンダーもある。
そう思ったら試したい。試したいと、心が逸る。
どこかにビッグモスキートはいないかと、森に入って耳を澄ます。
ブーーーンッという羽音が聞こえたが、かなり遠い感じの音だ。聴覚強化Lv1がなかったら、聞こえなかっただろう。
羽音がするほうに向かう。まだ不慣れで方角が微妙にずれた。距離感もあやふやだ。
「あそこか!」
いつものように黒く蠢くビッグモスキートの群れを発見。
「ふー……サンダー!」
発動に8秒もかかる。その8秒が非常に長く感じられた。
体感でカウントする。最近は10秒ほどならほぼ誤差なく当てることができる。
ただし、20秒となると、誤差が出てしまう。まだ修業が足りない。
8秒後、それは起こった。
バリッバリッバリッバリッバリッ。
轟音と共に迸る稲妻が周囲の木々を巻き込み、ビッグモスキートたちを蹂躙した。
放ったジュンでさえ、あまりの眩しさに目が眩むほどだ。
「うわぁ……なんか、ごめん」
思わず謝るほど、中級雷魔法・サンダーの威力は凄いものだった。森の木々が裂かれ、地面を焼いた光景は戦慄や畏怖に値するものだった。
プスプスッと木や地面から湯気が立ち上る。
生木だったのが幸いし、火事にならなくて胸を撫で下ろした。
「あ……ビッグモスキートの死体がない」
しばらくして気づいたが、ビッグモスキートは完全に炭化して姿形が残っていなかった。魔石も回収できないほどの有様だ。
「魔石まで炭化してしまったのか……」
改めてサンダーの威力に驚愕する。
怪我はしなかったが、ビッグモスキートを何匹倒したか分からない。
だが、すでに基本的なCHSCの検証は終わっている。
次は風魔法・トルネドを試してその威力を確認する。それは大事なことだ。そう、森の破壊には、少しだけ目をつぶろう。