006_中級魔法を得るには?
今日も5話更新……いえ、設定などもありますので、更新は6部です。
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006_中級魔法を得るには?
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午前中にビッグモスキートを狩った。
まだ中級魔法がないので前回同様の網で捕獲して踏み潰すというものだが、CHSCは順調に貯まっていった。
2日目は合計で367匹、CHSC677ポイント。
CHSCが溜まったので取得可能スキルを確認するが、中級魔法は出ていない。
「1日や2日で中級魔法を取得できると思うのは、虫のいい話なんだろうね」
そう気持ちを切り替えて、魔力に200ポイント、知力に100ポイント、抵抗に100ポイント、器用に50ポイントを振る。
昼からはエアカッターの練習をして、魔力がなくなったら時間感覚の練習をした。
今日は食事の準備をちゃんと手伝う。
井戸から水を汲み、竈の火を熾し、畑から野菜を収穫する。
肉は日持ちする干し肉、パンは2日に1回焼く。
「そう言えば、パンの小麦とかどうしているんですか?」
「2カ月に1回、商人がやって来て小麦や干し肉などを運んでくるようになっているのさ」
「商人がですか?」
行商をしている商人は、ジュンが住んでいたトール村にやって来た。
しかし、ここは魔の森の中。しかも、ここにはシャル婆さんの家しかない。普通はそんなところに商人は来ない。
「あたしは魔道具師だからね、その魔道具を引き取りにくる時に、そういった物資を運んでくるんだよ。まあ、物々交換ってところだね」
「魔道具師ですか?」
ジュンは魔道具師というものを聞いたことがなかったので、首を傾げた。
「魔道具というのは、魔力によって動くアイテムのことを言うんだよ。あんたに貸した懐中時計も魔道具さね」
「え、この懐中時計がですか?」
懐から懐中時計を取り出して眺める。
村長と他に数人、村でも懐中時計を持っていたので、それを見せてもらったことがある。
それらと同じ普通の懐中時計に見えたが、これが魔道具なのかと疑問に思った。
「普通の懐中時計は、ぜんまい式なんだよ」
村長たちから懐中時計のぜんまいを巻くと聞いたことがある。
「しかし、あたしのはぜんまいなんてないのさ。魔力によって動くからね」
そうなんだと頷く。そもそもジュンにはぜんまいの意味も分からない。
村長たちがぜんまいを巻くと言っていたことと、実際に時計のつまみを巻いているところをみたことがあるだけで、その構造はさっぱりなのだ。
「まあ、そのことはいいのさ。魔道具はお金になるのさ。だから、わざわざこんな辺鄙なところへ商人がやってきて、あたしの魔道具を買っていくんだ」
「な、なるほど」
「ジュンならもしかしたら魔道具師になれるかもね」
「え?」
「あんたは好きに能力を伸ばしたり、スキルを得られるんだ。魔道具師にだってなれるさ」
「あ……なるほど」
「それこそ貴族にだってなれるはずだよ。まあ、あたしは貴族になれるとしても、ならないけどね」
CHSCを溜めて能力を伸ばし、スキルを得ればどんな職にだって就ける。
ジュンも貴族などになるつもりはないが、色々な可能性がある。それが、効率厨というジョブだと、認識した瞬間だった。
翌日は雨が降った。雨が降ると、ビッグモスキートは木の葉の影に隠れてしまう。
仕方がないので、この日は時間感覚の訓練をする。
雨は2日間降り続いて上がった。
ジュンはぬかるんだ地面を踏みしめ、森へと入っていく。ところが、ビッグモスキートはなかなか見つからない。
狩りつくしたということはないだろう。ビッグモスキートのような弱い魔物は、一度に数千という卵を産む。
その多くは他の魔物や動物に食べられるが、それでも数十から数百が孵化する。
成体になるまでの時間は短く、成体になればまた大量の卵を産みを繰り返す。
ジュンは2日で1000匹も倒していない。
これが1万や2万という数ならともかく、1000匹未満を倒したところでビッグモスキートが絶滅することはない。
「雨上がりは、まだ木の葉の下から出てこないのかな?」
さすがに、ビッグモスキートの生態を細かく知っているわけではない。
さんざん歩き回ったジュンだったが、結局2つの群れを見つけるのがやっとだった。
その翌日はよく晴れた日だった。
森に入ってすぐにビッグモスキートの群れを発見。
4日目はビッグモスキートの活動は活発で、この日は10の群れを潰した。
4日目が終わったところで、CHSCは1182ポイントになった。
魔力に100ポイント、知力に100ポイント、抵抗に100ポイント振った。今回も中級魔法は出なかった。
さらに、生命力に100ポイント、体力に100ポイントを振る。
これで500ポイントを消費し、残りCHSCは682ポイントになった。
一般的にジョブが魔法使いの場合、中級魔法はレベル15程度で覚える。
魔法使いは魔力と知力、それに抵抗値が伸びやすいため、レベル15だと次のような値になる。
魔力が105、知力65が、抵抗値が60。個人差があるので絶対ではないが、概ねこの周辺の能力値になる。
書物からこれらの情報を得たジュンは、こういった値を基準に能力を伸ばすことにした。
この能力値以上にしても中級魔法が出てこなければ、方向性を改めることも考えないといけないだろう。
5日目は朝から曇り空だった。
昼頃には雨が降ってくるかもしれないと思いつつ、森に入る。
雨は降らず、この日も10の群れを潰すことができた。
5日目は合計で377匹、CHSC697ポイント。
おかげでCHSCが1379ポイントまで溜まった。
今回は知力に250ポイント、抵抗に320ポイント、器用に200ポイントを振った。
これで魔力、知力、抵抗は目標にしていた値をクリアした。
この時点で残りCHSCは609ポイント。
そこでスキルを確認してみた。
「っ!?」
待っていたスキルが現れた。
【消費CHSC500】
・風魔法 トルネド アクティブスキル 消費魔力15ポイント 攻撃力110 範囲 発動時間5秒 再使用25秒
ジュンは迷わず風魔法・トルネドを取得した。
嬉しくて小躍りするほどのジュンは、シャル婆さんに早く伝えたくて森の中を走った。
●ステータス
【ジョブ】効率厨
【レベル】5
【経験値】3/60
【生命力】40/40
【魔力】125/125
【腕力】9
【体力】18
【知力】65
【抵抗】60
【器用】40
【俊敏】22
【スキル】チェーンスコア
【下級魔法】エアカッター
【中級魔法】トルネド
【CHSC】109
【身分】流れ者
【賞罰】
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ドミニクの仲間になったミリアは、他の仲間と共に魔物退治に向かった。
剣聖のイシュナ、聖騎士のレイリーン、そして聖女のルミナス。
イシュナはセミロングで少しカールのかかった赤毛をしている。その視線は鋭く、油断なく目くばりをしている。
レイリーンはブロンドの髪を後方でまとめ、まるで儀礼用の装飾がほどこされた大盾を持っている。
ルミナスは神官服をビシッと着込んでいるが、その隙間から空色の髪が見え隠れしている。
三人とも見目麗しき女性であり、男性だけでなく女性でも目を奪われる美しさを持っている。
「ドミニク様が出るまでもありませんでしたね」
イシュナはドミニクの右側腕に腕を絡ませる。
「あんな弱い魔物の退治に、ドミニク様を呼び寄せるなど不敬です」
レイリーンがドミニクの左腕に腕を絡ませる。
2人は大きな胸をドミニクに押しつける。
ドミニクもまんざらではなく、鼻の下が伸びている。
「まだダンジョンの中ですよ、気を緩めないでください」
ルミナスは気の緩んだ3人に苦言を呈す。
こういう小姑のような口うるささが、3人には鬱陶しかった。
「私たちが羨ましいのでしょ? 素直にそう言ったらどうなのよ」
「イシュナの言う通りよ。ルミナスもドミニク様と触れ合いたいのなら、そう言えばいいのに」
イシュナとレイリーンは、ドミニクのスキル・魅惑にかかっている。
だが、ルミナスは聖女ということもあり、そういった精神的な攻撃には強く抵抗していた。
ルミナスは2人の印象が出逢った頃とは違う。そう漠然とした違和感を感じてはいるが、それがまさかドミニクのスキル・魅惑からくるものとは思いもしなかった。
勇者がそのような、まるで魔王のようなスキルを持っているとは、考えもしなかったのだ。