040_雷鳴の賢者
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
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040_雷鳴の賢者
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ゾドフォースから帰ってきたジュンは、英雄として祭り上げられていた。
ドルドやドリアスは伝説級魔法・ライトニングフレアのことを必要最低限の者にしか報告していないが、冒険者と騎士にも魔法使いはいる。そういった者たち全ての口に戸を立てることはできない。
それに魔法が使えない者でも伝説級魔法・ライトニングフレアの威力が、ただの特級魔法ではないと気づいている者もそれなりに多かった。
すでにゾドフォースの戦いから6日経過しているが、ダンジョン都市ではお祭り騒ぎが続いている。
商機と見て安売りを開始する商人もいるほどで、しばらくはこの熱気が続きそうだ。
「参ったな……」
ジュンは宿屋の部屋の窓から、往来が激しい道路を見下ろして嘆息した。
この6日間、外に出れば英雄と囃し立てられるので、宿屋から出ることができないのだ。
しかしそのことに参っているわけではない。ジュンが参っている理由は、レベルにある。
今のジュンの冒険者ランクはDランクだが、ジュンのレベルは64。
レベル64と言えば、Aランク冒険者に匹敵するレベルである。
つまりジュンがCランクダンジョンに入っても、経験値が稼げないのだ。それはCHSCを稼ぐことができないことを示しているのであった。
ではBランクダンジョンであればいいのかというと、そうでもない。
Bランクダンジョンに出てくる魔物のレベルは最高で50。
ジュンにとってはCランクダンジョンと変わりなく、経験値を得ることができないのだ。
だからAランクダンジョンに入る必要があるが、ジュンの冒険者ランクはDである。
いや、強制依頼を受けスタンピードを終息させたことで、Cランクへ上昇するのは決まっている。が、それだけではCランク冒険者というだけなのだ。
「CランクとBランクダンジョンを一気に踏破すれば良いか……」
まったく経験値は入らないが、さっさとCランクとBランクダンジョンを駆け抜ければいい。
しばらくはCHSCを稼げない残念さはある。それでもゾドフォースで大量のCHSCを稼いだから、それで良しとしようと前向きに考える。
そんな中、ジュンは1枚の手紙を何度も読んだ。
商人のモーリスが持ち帰ってくれたシャル婆さんからの手紙だ。
『怪我と病気には気をつけるんだよ。あと人間にもね』
たったこれだけの短いものだったが、それがシャル婆さんらしいと思うジュンだった。
それに、この短さの中に大きな温かさを感じた。それだけで、もっとがんばれると思った。
瞼の裏にシャル婆さんのしかめっ面が浮かんでくる。
シャル婆さんは今日も元気にしているだろうか。
早く会いたい。そのためには、早くAランクへ昇格したいと思うジュンであった。
ノック音が聞こえ、感傷にひたっていたジュンは瞼を開けた。
入室を許可すると、ルルデとポルテが入ってきた。
「兄ちゃん。元気そうだね」
「元気はあっても、外に出るのがね」
「仕方がないよ。雷鳴の賢者様なんだから」
ポルテは揶揄うように嗤った。
ゾドフォースの戦い以来、ジュンは『雷鳴の賢者』と呼ばれるようになった。
特に冒険者の間では、神格化されているくらいの人気だ。
あれだけの力を見せれば当然なのかもしれないとポルテは考えているが、本人は納得いかないでいた。
ポルテの横には苦虫を潰したような表情のルルデが立っている。
ゾドフォース以来、ずっとこの表情のままなのだ。
ルルデはブラックフェンリルに一蹴され、何もできなかったことが悔しかった。
何よりも、ジュンを護ると誓っていたのに、ジュンは自分の力でブラックフェンリルを倒してしまったのだ。
ブラックフェンリルを倒したのは騎士団と冒険者たちだと、ジュンが何度言っても表情は曇ったままである。
ジュンがショックでブラックフェンリルを動けなくしなければ討伐できなかったし、ジュンであれば動けるブラックフェンリルでも倒すのはそれほど難しくないとルルデは考えているのだ。
自分のあまりの不甲斐なさに、嫌気がしているルルデであった。
「そうだ。ドルドのおっちゃんから、これを預かってきたよ」
ポルテはジュンに冒険者の身分証と、蜜蝋で封がされた封筒を渡した。封筒はいかにも高貴な方からの手紙に見えるから、先に冒険者の身分証を確認する。
冒険者の身分証を見たジュンは驚いて、二度確認した。
「僕のランクがBランクになってるよ?」
「スタンピードの被害が少なく終わり、ブラックフェンリルの討伐に大きな功績があるということで兄ちゃんと姉ちゃんはBランクにランクアップだよ。さすがにオイラはCランクだけどね。へへへ」
戦闘に参加してないポルテまでBランクにはできなかったようだ。
しかしポルテもブラックフェンリルから多くの経験値を得たため、レベルはジュンたちと同じ64だ。
下手な冒険者では、太刀打ちできないレベルになっている。
「ドルドさんに感謝しなきゃね。これで僕たちはBランクダンジョンに入れるんだから」
「あとさ、Bランクダンジョンを踏破したても、普通は依頼をいくつかしないといけないんだけど」
「そうだね。それはしないといけないか」
「それ1回でいいってさ。オイラたちのレベルだと、Bランクダンジョンではあまりにもレベルがかけ離れているから、依頼を1回受けたらすぐにランクアップさせてくれるらしいよ。もちろんBランクダンジョンの踏破は必須だけどね」
「至れり尽くせりだね。大丈夫なの?」
「いいんじゃない? 兄ちゃんは雷鳴の賢者様だから、他の冒険者も文句は言わないよ。普通の冒険者ならね」
世の中には普通じゃない冒険者は多い。
一定の文句や苦情は出るだろうが、それもAランクダンジョンで実績を積んでいけばなくなるだろう。
さて、もう1つ。蜜蝋のある封筒を開けてみる。
それは領主であるオーベルシュタイン公オスカーからの、戦勝祝いパーティーの招待状だった。
「あの戦いで活躍した冒険者が呼ばれているらしいよ」
「これ……行かないとダメかな?」
「ダメだと思うよ」
貴族との喋り方を知らないジュンは、行きたくないと本気で思った。
失礼なことをして罰せられたらどうしようかと、本気で心配してしまったのだ。
「まあ、美味しい料理も出るらしいから、料理を楽しめば良いとおっちゃんは言っていたよ」
「そうは言っても……。ポルテとルルデさんも行くよね?」
「オイラは行かないよ。ただの荷物持ちだからね。姉ちゃんは身を挺して兄ちゃんを護ったから、呼ばれているけどね」
「あんなものが……」
ルルデが苦々しい表情でぽつりと呟く。
あんなことを評価されたら、恥ずかしさで穴に入りたくなる。
「私は何もしていない。ただ、ブラックフェンリルに殴られて死にかけただけだ」
拳を握り悔しそうに、俯いた。
「そんなことないですよ。身を挺して僕を助けようとしてくれたその気持ちが僕は嬉しいのですから」
「むぅぅぅ……」
「アハハ。とりあえず、兄ちゃんと姉ちゃんの服を買いに行こうか」
「「え?」」
「だって、平服で領主様主催のパーティーに出られないよね?」
「そうか……この服じゃだめなんだね……」
いつもの平服を見て、首を傾げる。
貴族とつき合いがないので、どういった服がいいのか分からないジュンである。
ジュンにそういった常識がないことを最近知ったポルテは、頭痛を覚えた。
ご愛読ありがとうございます。
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