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039_厄災すぎて時が動き出す

 この物語はフィクションです。

 登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。

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 039_厄災すぎて時が動き出す

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 ゾドフォースのスタンピードは、奇跡的に民に被害なく終結した。

 畑への被害は、全体の10パーセント程度。このくらいの被害で済んだのだから、奇跡と言えるだろう。


 騎士団員の被害は死者29名、負傷者57名。

 冒険者の被害は死者4名、負傷者39名。

 騎士団員と冒険者の死者は、全てブラックフェンリルによるものであった。


 ブラックフェンリルの死体を調査した者によれば、レベルは85。

 レベル85はSランクの魔物に相当する。しかも、ブラックフェンリルという種族名から幻獣だと判明した。


 その報告を聞いたオーベルシュタイン公オスカーは、驚愕した。

 幻獣はレベル以上の強さを持っていて、過去には幻獣によって国が滅んだ例もある。まさに化け物なのだ。


「そのジュンという冒険者の身元は?」

「2カ月ほど前に冒険者登録をし、現在はDランク冒険者ですが、すでにDランクダンジョンを踏破しております。1度依頼を受ければCランクに昇格する冒険者であるとのことです」

「2カ月でCランクだと? バカな……どこかの有力者の関係者か?」

「それが……」


 家宰ドルトールが言い淀んだ。

 いつも理路整然と答えるドルトールにしては珍しいこともあるものだと、オスカーは訝しげに見つめた。

 ドルトールの表情に困惑が見えた。おそらくそれだけ厄介な相手がジュンのバックにいるのだ。オスカーは眉間にシワを寄せた。


「どうした?」

「はい。冒険者ジュン殿は、モーリス商会のモーリスが連れてきたそうです」

「何、モーリスだと?」


 モーリスは帝国内外に販路を持つ、帝国屈指の大商人だ。

 その財力は天井知らずで、公爵であるオスカーでさえ敵にするのを避けるような人物である。


「そうか、モーリスが後ろに……ん、待てよ……」

「お気づきになられましたか」

「まさか大賢者か? 大賢者が後ろに居るのか?」

「可能性は高いと思われます。モーリスは自らの足で、2カ月に1回の頻度で大賢者殿のところへ赴いております。ジュン殿を連れてきた時期は、その日程に合うとのことです」

「厄介な……」


 大賢者シャルマーネ。言うまでもなく、シャル婆さんのことである。

 人類史に残る超大物として、各国に一目も二目も置かれている存在だ。


「下手にジュンに近づかないようにしろ。ただし、ジュンの功績はしっかりと称えねばならぬ。どうすればいい?」

「素直にスタンピードの功績を称え、褒美を与えるがよろしいでしょう。それ以降は、冒険者ギルドを通して関わる程度に収めるがよろしいでしょうな」

「で、褒美は何がいい? 金か? 爵位は大賢者のことを考えれば、与えぬほうがいいだろう。他に何かあるか?」

「ジュン殿の希望を聞かれてはいかがでしょうか?」

「ふむ、それもそうだな。であれば、戦勝パーティーの場で確認するとしよう」

「それと、国にジュン殿と大賢者殿の関係について、報告しておくべきでしょう。ジュン殿の功績はあまりにも大きく、国としても取り込みたいと思うかもしれませぬゆえ」

「そうだな……その手配を頼む」

「承知しました」


 ・

 ・

 ・


 ルディオル王国王都内にあるバルバトス皇国大使館。

 大使と武官が顔を突き合わせ、難しい顔をしている。


「それでは、ジュリア様はお亡くなりになっていたのか?」

「はい。15年前にお亡くなりになっておりました。しかし、ジュリア様は男子をお生みになっていたと聞きました」

「何、男子を!? そのお子は、今どこに!?」

「それが……」


 武官は言いにくそうに口を開く。


「2カ月ほど前に……崖から転落して川に流されてしまったらしいのです」

「なんだと!?」


 大使は天を仰ぎ、頭を抱えた。


「その時、村を訪れていた勇者がジュリア様のお子、ジュン様が崖から落ちたと証言しております」

「勇者だと……。勇者というのは、あの勇者か?」

「はい、あの勇者です」


 大使と大使館員の役目は、皇国の意志を王国に伝えることだ。

 それと同時に、王国の情報を皇国に送ることも重要な役目である。

 勇者は王国に限らず最重要人物として名が挙がる。そのため、勇者のことは調べ尽くしたと言っても過言ではないほどに調べている。


「なぜあの勇者がその場にいたのだ?」

「村に魔導士(アークウィザード)のジョブを持った娘が現れたため、その娘をパーティーに勧誘していたそうです」

魔導士(アークウィザード)か。たしかに、素晴らしいジョブだが、タイミングが良すぎるな……」

「はい。そこで村人たちに聞き取りを行ったのですが、どうも魔導士(アークウィザード)の少女は、ジュン様の幼馴染で非常に仲がよろしかったそうです」

「何やらきな臭くなってきたぞ。その魔導士(アークウィザード)の少女は、美人なのか?」

「はい。村一番の器量良しとのことです」

「……続けてくれ」


 大使が腕を組み目を閉じて、武官にその先の話を促す。


「ジュン様はどうもジョブが文字化けして読めなかったようで、魔導士(アークウィザード)の少女がジュン様も王都に連れて行きたいと言っていたそうです」

「……その矢先に、ジュン様は崖から落ちたと?」

「はい」


 ふーーーっと大きく息を吐いた大使が目を開けた。

 その目には明らかな怒りが見て取れる。


「あの勇者がやったのだな?」

魔導士(アークウィザード)の少女の後をつけて行く勇者の姿を見た者がおります。おそらくは……黒でしょう。ただし、証拠はありません」


 大使たちは勇者のことを調べ尽くしている。

 だから、勇者の素行の悪さを知っているし、女性が絡んだ話になると、その女性の関係者の男性が行方不明になっていたり死んでいることも調べている。

 当然、大使たちは勇者がやったものと思っているし、いくつかの事案については関係者の証言も得ている。

 あの勇者であれば、ジュンを殺して魔導士(アークウィザード)の少女を自分のものにしようとしても、大使たちは不思議ではないと考えたのだ。


「勇者に関しては、証拠がない。腹立たしいが、冷静に対応しなければならぬ」

「本当に腹立たしいことにございます」


 2人は大きく嘆息した。


「ジュン様のご遺体は埋葬されたのか? できれば、ジュリア様とジュン様の遺骨を皇国へお連れして丁重に葬ってさしあげたい」

「それが、遺体は見つかっておりません」

「何?」

「崖の下は激流の川で、しかもその川は魔の森に流れ込んでおります。遺体を捜すことはしなかったそうです」

「……では、ジュン様が死んでない可能性もあるのだな?」

「しかし、仮に生きていたとしても、魔の森の中では……」

「……いや、ちょっと待て!」


 大使は立ち上がって書棚から何かを探して持ってきた。

 それは地図であった。

 地図は戦略物資に指定されているため、国や貴族が厳重に管理している。

 大使と言っても、他国の者が手にできるものではない。

 もちろん、そういったことの抜け道はいくらでもある。

 大使はそういった抜け道を使い、王国の地図をいくつか手に入れていたのだ。


「その村はここだったな?」

「トール村ですから、そうです。そこです」

「ふむ……もしかしたら……」

「何か?」

「魔の森には、大賢者シャルマーネ殿が暮らしておられる」

「だ、大賢者殿……ですか?」

「そうだ。ジュン様がもしも大賢者殿に助けられていたら……」

「そ、それは……」


 広い魔の森の中で、それを望むのは奇跡に近いことだ。

 しかし死体がないのであれば、生きているかもしれないと想定し最善を尽くすべきだろう。


「本国と帝国の大使館に人を送る」

「本国は分かりますが、なぜ帝国の大使館なのですか?」

「帝国には大賢者殿と縁のある商人が居ると聞いている。その商人を通して大賢者殿にジュン様の件を確認する」

「なるほど……。しかし、それなら直接大賢者殿に接触されたほうが、話が速いと思いますが?」

「いや、大賢者殿は大の人間嫌い。たとえ国の使者であっても、見ず知らずの者を受け入れることはないと聞いた」

「なるほど……。大賢者殿の力を考えれば、下手なことはできませんからね」


 大使はすぐに本国と帝国の大使館へ人を送った。

 ジュンを巡る動きが慌ただしくなってきたが、当の本人はこんなことになっているとは思ってもいないのであった。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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