004_チェーンスコア《C H S C》考察
■■■■■■■■■■
004_チェーンスコア《C H S C》考察
■■■■■■■■■■
ビッグモスキートは小型で子供でも倒せる。数さえ揃わなければ、という条件はあるが。
弱いため経験値はほとんど入らず、駆け出しの冒険者でさえ相手にしない魔物だ。
弱いとは言え、群れの場合は注意しなければならない。特に仲間がいないソロの時は、危険である。
ジュンは網を手に持って、ビッグモスキートへとにじり寄っていく。
10メートルほどのところで、ビッグモスキートのほうもジュンに気づいて動き出した。
ブーンと嫌な音を無数に発生させ、それはノイズとなってジュンの耳に不快な音を響かせる。
「それっ!」
網は綺麗に開き、ビッグモスキートの群れを包み込んだ。
「よし!」
網に捕えられたビッグモスキートが網から逃れようとしているが、思ったよりもスムーズにいったことに感動を覚える。
と思ったのだが、網に捕らわれなかったビッグモスキートが3匹向かってくる。
「うわっ」
突っ込んできたビッグモスキートをギリギリで躱した。
しかし、自由なビッグモスキートは、他にも2匹居る。
「あっ……」
1匹がジュンの腕に取りついてブスリ。
―――バチンッ。その1匹を手で叩いて潰したが、すでに刺された後である。
刺されたところが赤く腫れてきて無性に痒い。
「うぅ……クッソー!」
バチンッ、バチンッ。
残った2匹も潰したが、また刺されて合計2カ所刺されてしまった。
「痒い!」
腕をボリボリかく。痒くてたまらない。
ビッグモスキートに刺されると、普通の蚊よりも痒みが強いのが特徴だ。
「と、とりあえず、刺された瞬間に潰したから、血はほとんど失ってないはず」
それだけが唯一の救いだろう。
「しかし、痒い!」
2カ所を搔きむしりたいが、目の前には数十匹のビッグモスキートが網の中。
これを放置するわけにはいかない。
ジュンは網の上からビッグモスキートを踏んで潰した。
さすがに数が多いので、ブチブチッと嫌な感覚が靴越しに伝わってくる。
「うわー……」
ビッグモスキートは魔物。ビッグモスキートのような小さな魔物でも、その体内には魔石がある。
普通は短剣やナイフで魔物の体を捌くのだが、ビッグモスキートはそんなことをする必要はない。
「……やるしかないか」
手でビッグモスキートを持って頭部をブチッと千切る。
胴体側に魔石があるので、指で押し出せばいいのだ。
解体とも言えない作業を1体1体行う。時間はそれほどかからないが、体液が手にべたりとつく。
全部で37個の小さな魔石が回収できた。
川で体液のついた魔石と手を洗ったジュン。
魔石をバックパックにしまって石に腰かけ、ステータスボードを呼び出す。
●ステータス
【ジョブ】効率厨
【レベル】0
【経験値】3/10
【生命力】10/10
【魔力】5/5
【腕力】9
【体力】8
【知力】10
【抵抗】8
【器用】10
【俊敏】9
【スキル】チェーンスコア
【CHSC】67
【身分】流れ者
【賞罰】
37匹のビッグモスキートを倒して、経験値は3しか増えていない。この少なさが駆け出し冒険者でさえ相手にしない理由だ。
さて、チェーンスコアを見ると、67ポイント。37匹のビッグモスキートを倒したのに、67ポイントである。
この数値の関係性を考えるが、よく分からない。
もしかして、魔石を数え間違えたのかと、数え直してみたが37で間違いはない。
魔石を採取していないビッグモスキートが居ないか調べたが、それもなかった。
「チェーンスコアの計算がよく分からない」
分からなくても、チェーンスコアは溜まる。このチェーンスコアを使えば、能力を伸ばせる。
さっそく能力を伸ばそうと、ステータスボードをタッチした。
「なるほど、生命力と魔力は、チェーンスコアを10ポイント消費して3ポイント上昇か。腕力、体力、知力、抵抗、器用、俊敏はチェーンスコアを10ポイント消費して1ポイント上昇するんだ」
しばらくはビッグモスキート相手に効率厨の検証をする予定なので、チェーンスコアを60ポイント消費して俊敏を6ポイント増やした。
「よし、次へ行こう!」
ビッグモスキートはすぐに見つかった。さきほどと同じくらいの群れだ。
ジュンは網を投げ、ビッグモスキートを捕まえる。今回は全部を網で捕まえた。
―――ブチブチッ。
気持ち悪いが、踏み潰す。これは完全に作業である。回収した魔石は33個。
ステータスボードを確認すると、CHSCは63ポイント増えて70ポイントになっていた。
ここでも俊敏を7ポイント増やしたので、残ったCHSCは0ポイント。
そこで気づいたが、経験値が7ポイントになっている。
「CHSCはよく分からないけど、経験値のほうは何となく分かった気がする。合計で70匹倒して、経験値が7ポイント。10匹で1ポイントっぽい」
もっと倒せば、その考えが正しいのか、はっきりするだろう。
次のビッグモスキートの群れは、網から2匹漏れた。
だが、今度はその2匹に刺されることなく潰して、すぐに網に捕まっているビッグモスキートたちを踏み潰す。
「俊敏値を上げたおかげで、前回よりは楽に対処できた」
魔石は41個。ステータスボードを確認する。
「え?」
CHSCが81ポイントになっている。
「うーん……なんか凄く多いんだけど?」
前回の33匹からすれば、数は多くなっている。だが、たった8匹の差なのに、18ポイントもCHSCが多いのだ。
「どういうことかな?」
CHSCに関しては、もっと検証が必要だろう。
あまり分からなかったら、シャル婆さんに相談するのもいい。
また、レベルが1になった。しかし、各能力はまったく増えていない。
これで分かるのは、レベルが上がっても能力が増えない代わりに、チェーンスコアを消費して能力を上昇させるしかないということ。
そして、ビッグモスキートは10匹で経験値が1ポイントの可能性が高いということ。
ジュンはビッグモスキートの群れを殲滅して回った。
俊敏を集中的に上げているので、ビッグモスキートの動きに翻弄されることなく安全に狩れた。
これまでのCHSCをまとめてみる。
1回目) 37匹 ⇒ CHSC67ポイント
2回目) 33匹 ⇒ CHSC63ポイント
3回目) 41匹 ⇒ CHSC81ポイント
4回目) 36匹 ⇒ CHSC66ポイント
5回目) 33匹 ⇒ CHSC63ポイント
6回目) 30匹 ⇒ CHSC60ポイント
7回目) 42匹 ⇒ CHSC82ポイント
8回目) 36匹 ⇒ CHSC66ポイント
9回目) 34匹 ⇒ CHSC64ポイント
10回目) 38匹 ⇒ CHSC68ポイント
合計) 360匹 ⇒ CHSC680ポイント
「あー……なんとなく分かった気がする……」
ジュンの考えは、こうだ。
チェーンには補正値があって、『討伐数+補正値=CHSC』という計算が成り立つ。
補正値は、討伐数が1匹から9匹は0ポイント、10匹から19匹は10ポイント、あとは10匹単位で補正値が10ポイントずつ増えていくというものだ。
この考えなら、上記の討伐数とCHSCの関係性に説明がつく。
・
・
・
ルディオル王国は国としては中堅だが、勇者ドミニク生誕の国として最近は発言権を増している。
勇者という人類最高のジョブを持ったドミニクが生まれたというだけで、まるで大国にでもなったように他の国々に圧力を強めている。
「おお、勇者ドミニクよ、戻ったか」
「勇者ドミニク戻りました。国王陛下」
今回の旅は新しい仲間を迎えるものだった。その新しい仲間が勇者の後ろに控えている者―――ミリアである。
だが、ミリアの表情は冴えない。本来なら、勇者の仲間になった喜びやこれからの明るい未来を想って明るい顔になっているはずだ。
国王はミリアの出身が平民だと聞いていたことから、畏敬の念から緊張しているのだと思った。
「そのほうが魔導士であるか。よく参った」
「はい……ありがとうございます」
ミリアは消え入りそうな声で答えた。そんな小さな声も、緊張からくるものだと国王は受け取った。
「これ、陛下に聞こえるように返事をせぬか」
平民のミリアを蔑んだ目をしている大臣の1人が、そう注意する。
「よいよい。魔導士よ、勇者ドミニクをよく補佐せよ」
「……はい」
ミリアは国王や貴族など眼中になかった。彼女の心の中にはジュンに対する申しわけなさ、懺悔、心残り、未練で溢れかえっていた。
そんなミリアを見るドミニクの目は、欲望に満ちている。精神的に疲弊していることから、スキル・魅惑を発動するまでもない。勇者である自分の魅力だけで落ちると、高を括っていた。