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037_幻獣ブラックフェンリル

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 037_幻獣ブラックフェンリル

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 無数の雷が地上を蹂躙する。

 その光景は騎士や冒険者たちを畏怖させるにたるものであった。

 たった3回の伝説級魔法・ライトニングフレアによって9割以上の魔物が消滅した。

 蒸発したかのように、死体さえ残さないほどの威力である。残った魔物の数は決して多くない。


「よし、押し出せ!」

「「「応っ!」」」


 ドリアスの命令で、騎士団員が前進を始めた。


「野郎ども! 騎士団に負けるんじゃねぇぞ!」

「「「おぉぉっ!」」」


 ドルドの野太いひと声で、冒険者たちも動き出す。

 すでに魔物は壊滅や全滅に近い状況。ここでいいところを見せておかないと、なんのためにこのゾドフォースへやってきたのか分からない。


 赤黒く蠢く地面を迂回して騎士団は左から、冒険者たちは右から進む。残った魔物を挟み撃ちにする形になった。

 その中にルルデの姿もある。彼女のレベルは35だったが、ジュンの仲間として直前に大量の経験値を得てレベル48になっていた。1万8000体程の魔物を倒したジュンによって、大量の経験値がルルデとポルテに入ったのだ。

 当然ながらジュンのCHSCに膨大なポイントが入っているが、それはまだ確認していない。


 先に魔物と接触したのは、騎士団であった。冒険者に負けるかという騎士の矜持や意地というものが、その足を速めたのだ。

 騎士たちの魔法、そして遠距離攻撃できるスキルが発動し、魔物へと襲いかかる。

 レベルの低い騎士の攻撃は、さすがにほとんど効いていないが、騎士団の中には高レベルの者も少ないが所属している。

 その高レベルの者たちが先頭に立って、魔物へと突っ込んだ。


「魔物の数は大したことないぞ! 連携して確実に倒せ!」

「「「応っ!」」」


 前線指揮を執る高位の騎士が味方を鼓舞すると、迫り来る魔物の首を刎ねてその首を踏み潰した。

 直後、冒険者たちも魔物と接触。その先陣を切るのは黄金の髪をたなびかせるルルデである。


「うりゃぁぁぁっ」


 魔物に飛び蹴りを喰らわせて、その頭部を破壊した。黄金無双(ゴールドウォーリア)がイメージ通りに体を動かしてくれる。

 体の動きが良いことからさらに上の動きをイメージすると、それさえも体が反応してくれる。

 まるで何十年も修練を積んだ達人の武闘家のように、ルルデの体は動いてくれる。


「はーっはははは! かかって来いっ!」


 喜々として魔物を屠るルルデの姿は、冒険者たちの戦意を掻き立てた。


「あの獅子獣人の女に負けるな!」

「俺だってBランクなんだ! あんなアマに負けられっか!」

「バカ野郎! 俺はAランクだぜ!」

「うるせぇっ! そのうちAランクになってやるよ!」

「そういうのはなってから言え!」


 意外と余裕をかましている冒険者たちも、ルルデに負けないようにと武器を振った。

 ルルデの回し蹴りで金属の鎧を纏ったようなトカゲの魔物の体がひしゃげた。

 その横ではAランクだと言っていた壮年の男が、戦斧を振り回してヘビの鎌首を断ち切った。


「おっさん、やるなっ!」

「小娘に負けていられるかってーのっ!」

「ははは、突っ込むぜ!」

「応よっ!」


 絶望的だった数の差が、ジュンの魔法によって人間側に有利になった。心にゆとりができた人間側の勢いは、止められそうにない。冒険者も騎士も関係なく、士気が上がっているのだ。


 魔物側は数が一気に減ったことで士気が下がるかと思われたが、本能の赴くままに人間に襲いかかっている。

 魔物でも恐怖を感じるものだが、スタンピードの魔物は最後の1匹になっても逃げることはない。

 理由は簡単。魔物を統率する魔物がいるからだ。多くはAランクやSランクの化け物が魔物を指揮している。

 そしてその化け物が姿を現す。


「グラァァァァァァァァァァァァ」


 巨大な(あぎと)から発せられた咆哮は人間たちに恐怖を与え、体を硬直させた。

 同時に魔物たちに少しだけ残っていた理性と恐怖心を消滅させ、凶悪性を引き出した。


 顎に比例した巨体を持つオオカミ。それは、ブラックフェンリルと言われる漆黒の魔物であった。


「な、なんだあの化け物は!?」


 誰ともなくそんな言葉が出た。


「くっ、怯むな! 全員でかかれば勝てる!」

「魔法だ! 魔法を撃て!」


 押していた人間側は浮足立ち、押されていた魔物側の勢いが戻った。

 数ではすでに人間側が有利になっていたが、ブラックフェンリルの登場で戦局が分からなくなった瞬間である。


 魔物の勢いが増して人間の勢いが衰え、押され始めた人間たちの被害が拡大していく。

 そんな中にあっても、ルルデは奮闘していた。魔物を裂き、砕き、引きちぎる。


「怯むな! あんなのはこけおどしだ!」


 騎士団側に突っ込んだブラックフェンリルが、騎士の1人を咥え、その胴体を鎧ごと噛み砕いた。

 バキッバキッと嫌な音が戦場に響き渡り、人間たちはブラックフェンリルに戦慄した。


「ひ、退くなっ! あれを止めるんガッ……」


 地面を蹴って魔物たちと騎士たちを一気に越えたブラックフェンリルの一撃を受け、指揮官の首は宙を飛んだ。

 その光景を目の当たりにした騎士団員たちは、逃げたかった。しかし、逃げるわけにはいかない。

 自分たちの後ろには守るべき民がいる。そしてゾドフォースの後ろにはダンジョン都市がある。ダンジョン都市には大切な家族が居るのだ。

 何がなんでもブラックフェンリルをここで倒さなければならない。


 騎士たちが勇気を振り絞って、ブラックフェンリルに立ち向かう。

 指揮官が殺されたことで、次に高位の騎士が指揮を執る。


「雑魚は冒険者に任せろ! 我らはあの化け物を倒す!」

「「「応っ!」」」


 他の魔物もまだ居るが、それは冒険者に任せることにした。

 冒険者たちも雑魚を引き受け、必死で騎士団を援護した。


 重装備の騎士が盾を構え、ブラックフェンリルの攻撃に耐える。その間に騎士たちが魔法とスキルの攻撃を行う。

 騎士たちの命をかけた戦いに、圧倒的な存在であるブラックフェンリルの体は傷ついていく。ただしどの傷も軽微なもので、致命傷になり得る傷はない。

 逆に騎士たちのほうは、ブラックフェンリルの攻撃ごとに1人、また1人と戦線離脱を余儀なくされる。

 圧倒的な暴力がそこにあったのだ。


 騎士団がブラックフェンリルを惹きつけている間に、ルルデの活躍もあり冒険者が雑魚魔物を殲滅する。

 雑魚魔物と言っても、高レベルの魔物も多くいたが、Aランク冒険者も居るためなんとか倒し切れた。

 そこにジュンが駆けつけて、ルルデと合流した。


「主様。あれは化け物だぞ」

「僕に考えがあります」

「その考えを聞こうじゃないか」


 ドルドだ。


「雷魔法で、あの化け物の動きを止めます。そこで集中攻撃をしてください」

「よし、その話に乗った! おい、ドリアス。聞いていたな!」

「聞いていたぞ! ジュン殿に全て任せるから、やってくれ!」


 ドリアスも了承し、ジュンはブラックフェンリルに向かってショックを発動させる。

 一本の閃光がブラックフェンリルを貫いた。


「キャインッ……」


 ショックに攻撃力はない。対象を感電させるだけのデバフだ。

 ブラックフェンリルが横倒しになり、力の抜けたその口から舌が垂れる。目に力はあるが、体が思うように動かない。四肢を動かそうとしているようで、不器用な動きを見せる。


「「今だ! 畳みかけろ!」」


 ドルドとドリアスの声が被った。

 騎士団員と冒険者たちがブラックフェンリルに群がり、その剣や槍で攻撃する。


 こんな矮小なものたちにいいようにやられる自分ではない。情けない。そう思ってもブラックフェンリルの体は動かない。

 同じ場所を斬りつけられ、槍で突かれると傷が大きくなっていく。次第に出血が多くなり、生命力がどんどん減っていく。


「うりゃ、このイヌ野郎がっ!」

「バカッ。こいつはオオカミだ!」

「イヌでもオオカミでもどっちでもいい! ぶっ殺せ!」


 動けずに反撃してこないブラックフェンリルが相手ということもあり、冒険者たちは余裕を見せた。

 だが、ブラックフェンリルは通常の魔物ではない。幻獣と呼ばれる特殊な種族であり、神をも食い殺すフェンリルに連なる種族なのだ。

 幻獣であり、Sランクと言われる高レベルの誇りは、感電を跳ね返すのだった。


 

ご愛読ありがとうございます。

これからも本作品をよろしくお願いします。


また、『ブックマーク』と『いいね』をよろしくです。


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