036_伝説級魔法・ライトニングフレア
この物語はフィクションです。
登場する人物、団体、名称は架空のものであり、実在のものとは関係ありません。
タイトル変更しました。
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036_伝説級魔法・ライトニングフレア
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バルルト山脈の麓に広がる肥沃な大地。そこに造られた町がゾドフォースである。
バルルト山脈から流れ出る3本の川は年中枯れることなく、大地に栄養をもたらしてくれる。
その川と川の間を進む魔物は大地を埋め尽くし、津波のように止まることなくゾドフォースへと進んでいた。
同時期、ゾドフォースでは物資の引き渡しを終えたポルテが、ジュンたちと合流していた。
「騎士団の人に聞いてきたけど、ゾドフォースの住民の3分の1は避難したらしいよ」
「3分の2は残っているの?」
「うん。逃げても他所では生きていけないって残ってるんだって」
ゾドフォースは穀倉地帯で、先祖代々守ってきた土地を離れたくないという農民が非常に多いのだ。
「農民が残ったところで、畑が荒らされるのは変わらないだろうに。私の里にはあまり畑がなかったから、理解できないことだ」
獅子獣人の里は狩りによって日々の糧を得て、余った肉や毛皮などを売って穀物を得ていた。
しかも、周囲に獲物が居なくなると、里ごと移動していたため土地に対する執着がないのだ。
「農民にとって畑は命そのものなんだと思いますよ。僕の生まれた村でもそういう人は多かったですから」
ジュンの生まれた村は比較的新しい。開拓村から始まってある程度の人口になったことで、普通の村になったが最近のことだった。
自分で土地を開拓して畑を耕している人は、2代目や3代目に比べて土地に対する執着が強かった。
このゾドフォースは古くから穀倉地帯として有名な町だが、人々に恵みを与えてくれる土地に愛着がある農民が多いのだろう。
「おい、誰かこっちを手伝ってくれ」
その声に、ジュンは手伝いに向かう。
木を組んで簡易的な馬防柵を作って設置する作業だ。
ルルデとポルテも手伝っていくつかの馬防柵を設置した。
「おい、ジュン。来てくれ」
「はい」
額の汗を拭ったところで、ジュンはドルドに呼ばれた。
ドルドの横にはエルフと思われる耳の長い人物が立っていた。エルフは皆が見目麗しく、20歳そこそこにしか見えない。しかし、若い見た目とは違って、数百歳というエルフは多い。
年齢不詳のエルフはオーベルシュタイン公爵家の紋章付きの鎧を着込んでいることから、騎士団員だと見当がつく。そのエルフの騎士は、ジュンを見ると眉間にシワを寄せた。
「ジュン。紹介しておく。こいつは騎士団の副団長で、先遣隊を指揮しているドリアスだ」
「ドリアス・フォン・バルムングだ」
ドリアスの眉間のシワは深い。
容姿が良いと、そういうところが目立つ。
ジュンの頼りなさげな容姿に、そのような反応をしていた。
「ジュンと言います。Dランク冒険者です」
ジュンがお辞儀する。
「ドルド。本当にこの子なのか?」
「ああ、そうだ。最初は今のお前のような表情を、皆がするぞ」
「………」
ドリアスは騎士団の副団長であり、名前に『フォン』とついていることから貴族なのが分かる。
そんなドリアスにドルドは馴れ馴れしい。
いくら冒険者ギルドのギルマスでもこの馴れ馴れしさは異常なのだが、それには理由がある。
この2人は元々同じパーティーのメンバーだったのだ。
ドルドとドリアス、そしてここには居ないジョンソンともう1人。4人でパーティーを組んでAランクへと駆け上がった。
ジョンソンが年齢的な理由から冒険者を引退する際に、パーティーを解散してドルドとジョンソンは冒険者ギルドの職員になり、ドリアスは騎士になったのだ。
だから2人が親しく会話をしても、不思議ではないのである。
「ジュンと言ったな。お前は雷魔法を操ると聞いた。正しいか?」
「はい。雷魔法は得意だと思います」
今でも懐疑的な視線をジュンに向けているが、雷属性は基本4属性と違って、敵を倒せなくても感電させて行動を阻害できる。
ゆえに雷属性は基本4属性の上級属性だと言われているのだ。
「明朝、魔物が攻めてくる。残念ながら本隊を待っているだけの時間はない。よって魔物が射程内に入ったら、魔法の一斉掃射によって大打撃を与えるつもりだ。ジュンもそれに参加してもらう」
「はい。分かりました」
それだけ言うと、ドリアスは踵を返して離れていった。
「ルルデは前衛部隊に配属だ。死ぬんじゃないぞ」
「戦場で死ねるなら、本望だ」
「ガハハハ! そうだったな、俺たちは誇り高き獅子の一族だ。戦場で死ねるなら本望だったな!」
ルルデとドルドにとって戦場で死ねることはこれ以上ない栄誉だが、ジュンとポルテは死にたくないと思った。
特にジュンには、まだやりたいことがある。シャル婆さんにも恩返しできてない。だから死ねないとジュンは強く思った。
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翌朝、ジュンの姿は簡易的に造られた櫓の上にあった。
他にもいくつかの櫓があり、その上には魔法使いたちの姿がある。
「もうすぐ魔物の姿が見えるはずだ。準備は良いか?」
「問題ありません。ドルドさん」
ジュンが立つ櫓にはドルドとドリアスも居る。
相変わらずドリアスはジュンに懐疑的な視線を向けている。
そういった視線には慣れているジュンだが、貴族に目をつけられるのはさすがに嫌だから早く終わってほしいと思っていた。
「見えたぞ」
蠢く魔物の群れ。
最初は黒いものが視界の先に現れたように見えた。
黒いものが徐々に大きくなってくると、殺気がジュンの肌にも伝わってきた。
そして、それが魔物だと分かると、冒険者と騎士たちのざわめきが次第に大きくなっていく。
「どれだけの魔物が居るのかな……?」
あまりの多さに、ジュンが呟く。
「騎士団からは2万と聞いている」
ドルドがその呟きに答えるが、2万と聞いたジュンの胸がときめいた。
2万もの魔物相手に、伝説級魔法・ライトニングフレアを撃ったらどれだけのチェーン数が稼げるだろうか?
全部がジュンに経験値を与えてくれる魔物でなくても、それなりのチェーン数にはなるのではと心が躍る。
そんなジュンの顔を見たドルドは、微妙な表情だ。2万の魔物と聞けば、大概の者は怖気づく。それなのにジュンは笑みを漏らしているのだから、その精神構造に異常をきたしているのではと心配になった。
「おい、ジュン。大丈夫か?」
「え? 大丈夫ですけど?」
「お前、今、笑っていたぞ」
「僕が笑っていた?」
自覚はなかった。
だが、心が躍っているのは確かだ。
「おい、喋ってないで集中しろ。もうすぐ射程距離に入るぞ」
「おっと、そうか。ジュン、がんばれよ」
「はい」
魔物は多種多様な種族が混ざっている。
昆虫の魔物が居ると思えば、獣の魔物も居る。ヘビやトカゲなどの爬虫類の魔物も居る。
バルルト山脈という広大な生息地から溢れ出したのだから、多種多様な種族と2万という数は頷けるものだ。
「よし、魔法を撃て!」
ドリアスの命令がこだまし、魔法使いたちが魔法を発動させる。
魔法の発動にはそれなりの時間がかかる。特級魔法であれば20秒程度が一般的だ。
ドリアスは特級魔法の発動時間と、魔物の進行速度を計算して命令を出した。
しかし、ドリアスの思惑をぶち壊す者が居た。
―――ジュンである。
「ライトニングフレア」
発動と同時に、魔物の大群に数百、数千という雷が落ちた。
轟音と爆風、同時に発生する大気の放電現象。
それは神の怒り。
それは死神の咆哮。
それは地獄の扉を開けてしまったかのような光景。
世界の終わりを告げるような光景に、その場に居る全ての者が戦慄した。
「な、なんだ……あれは?」
300年以上生きているドリアスでさえ見たことのない魔法が、そこにあった。
爆風がジュンにも届き、マントが風を受けてはためく。
危うく爆風に飛ばされそうになったが、ドルドがジュンの体を支えてくれた。
やがて爆風が晴れると、大地を埋め尽くすほど居た魔物の3分の1ほどが消滅していた。
しかも、大地は大きく抉れ、マグマのように赤黒く変色していた。
「特級魔法をぶっ放すかと思ったが、まさか伝説級魔法かよ。ジュンは常識ってものを知らないのか?」
「え? ……ダメでしたか?」
ジュンは伝説級魔法のライトニングフレアを撃ったのは失敗だったのかと焦った。
もしライトニングフレアを撃ったことで、騎士団の作戦に支障が出たらと今更ながら考えてしまったのだ。
「いや、良いぞ。見てみろ、冒険者や騎士だけじゃねぇ、魔物も今の魔法に度肝を抜かれて、動きが止まってやがるぜ。ガハハハッ!」
バンッバンッとジュンの背中を叩いて、豪快に笑うドルド。
「ちょ、ちょっと待て! 今のは伝説級魔法のライトニングフレアなのか!?」
「はい、そうです」
ドリアスはジュンを凝視した。
そして笑った。
「アハハハハッ! そうか、伝説級魔法か!」
とても愉快そうに笑って、真顔になったドリアスはジュンの両腕を掴んだ。
「あれをあと何発撃てる?」
「あと2回なら撃てます」
「よし、バンバン撃ってくれ!」
ハイテンションなドリアスから許可が下りたことから、ジュンは再びライトニングフレアを撃った。
ご愛読ありがとうございます。
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