034_強制依頼
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034_強制依頼
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今日は休日のジュンは、ルルデとポルテと共に昼食を共にしている。
Dランク踏破祝いとして、ちょっと豪華な昼食だ。
また、次はCランクダンジョンへ入ることになるから、その話し合いをしている。
「ねぇ、兄ちゃん」
「どうしたの、ポルテ」
「そろそろ装備を整えたらどうだい? ルルデの姉ちゃんは伯父さんから防具をもらって装備しているけど、兄ちゃんはまったく装備してないだろ」
「うーん、防具って重たいよね」
「いや、今の兄ちゃんの筋力なら、大したことないよね? それに、防具だけじゃなく、杖も持った方が魔法使いらしいよ」
「杖はなくても魔物を倒せるから……」
相変わらずシャル婆さんにもらった鉈を装備しているため、初心者にしか見えないジュンだが、Dランク冒険者は中堅どころである。
中堅どころの冒険者が、平服にちょっとした革鎧、そして鉈では様にならないとポルテは強く主張した。
「主様。ポルテの言う通りだ。防具を揃えようではないか」
ルルデにまで言われたジュンは、肩をすくめた。
「分かったよ。Cランクダンジョンがあるラストゥークへ行く前に、装備を揃えるよ」
「それがいいよ、兄ちゃん」
「私が見繕ってやろう」
そんなことを話しながら食事を終えた一行は、冒険者ギルドに向かった。
冒険者ギルドに入ると何やら殺気だった空気を感じた。いったいどうしたのかと訝しがりながら、いつもの買取カウンターへ向かう。
「ジョンソンさん。何かあったのですか」
殺気だった空気のことをジョンソンに聞いてみる。
「ああ、ちょっとヤバいかもしれないな」
「ヤバい? 何が―――」
ジュンが聞き返そうとしたら、フロアのスイングドアが乱暴に開かれてギルドマスターのドルドが入って来た。
そのドルドの顔はとても厳しいものだった。
「ドルドが帰って来た。奴の話を聞けば分かるさ」
「「「?」」」
3人はジョンソンが言うように、とりあえずドルドの話を聞くことにした。
普通にしていても険しそうな顔だが、今のドルドの眉間には深いシワができていた。
大股で歩くドルドはフロアーの中心で立ち止まり、周囲を見渡してゆっくりと大きく息を吸った。
「皆、聞いてくれ!」
ドルドの巨体から発せられた声は、まるで巨大なドラが鳴らされたかのようにジュンたちの鼓膜を震わせた。
殺気だった空気の中、ドルドのこの声を聞いて無視できる冒険者はこの場に居なかった。それは、職員たちも同じである。
冒険者と職員の視線を一身に集めたドルドは、いつの間にか台の上に乗っていて誰からも顔が見えた。
「ゾドフォースでスタンピードの兆候があった」
ドルドの言葉に耳を傾けていた者たちに、衝撃が走った。
冒険者と職員、そしてギルドに依頼に来ていた人たちの肌が粟立つ。
「「「スタンピード!?」」」
ジュンたち3人は顔を見合わせた。
スタンピードというのは、魔物が大挙して押し寄せてくることを言う。
時には山や森などに生息している魔物が、時にはダンジョンの中から魔物が人間たちの住む町や村を襲うのだ。
「領主は明日の朝一で騎士団300名を先遣隊として派遣し、後ほど本隊を送ることになっている。冒険者ギルドも最大限の協力をすることを約束した。Dランク以上の冒険者は強制参加だ」
ドルドは強制依頼を発動し、自ら冒険者の指揮を執ると宣言した。
「回復系のスキルを持っている者は、ランクに関係なく参加してもらう」
回復系スキル(主に魔法)を持っているものは、かなり少ない。
そのため、回復ができる者はランクに関係なく、参加することになった。
「冒険者、ポーター関係なく、収納スキルを持っている者は物資の運搬をしてもらう」
ライフポーションやマナポーションのような消耗品は、領主が用意する。
領主が保有している馬車だけでは冒険者を乗せきれないので、町中の馬車を集めているところだが、それでも物資を運搬する余裕がない。
そこで、収納スキルを持っている者に物資を運搬してもらうことにしたのである。
「俺たちは2日後の朝に、ゾドフォースに向けて出発する。武器と防具のメンテナンスを怠らず、備えてほしい」
ドルドの話が終わると、真っ先に動いたのは職員たちだった。
依頼が掲載されているボードから、依頼書を手際よく回収していき、スタンピードの情報とDランク以上の冒険者は強制依頼になると張り出した。
それに遅れて冒険者たちも動き出した。
冒険者たちはこのスタンピードで、死ぬかもしれないと馴染みの女性のところに向かう者、武器のメンテナスに向かう者、酒の飲み納めだと酒場に向かう者など多種多様。
「ジョンソンさん。ゾドフォースはどこにあるのですか?」
ジュンは冷静に情報を集めることにした。
スタンピードともなれば多くの人が死に、町は破壊されることだろう。それはとても悲しく恐ろしいことなのに、なぜかジュンにはまったく焦りがない。
ジュン自身も不思議だったが、一度死の際まで行ったからかもしれないと無理やり納得させる。
「ゾドフォースはこのダンジョン都市から馬車で1日の場所にある町だ。穀物の生産が盛んで、ダンジョン都市で消費する小麦はゾドフォースが生産している」
ダンジョン都市はダンジョン産の素材やアイテムの取り引きで巨大な経済圏を形成しているが、食料自給率はかなり低い。そのダンジョン都市を穀物の生産で支えるのが周辺の町や村で、ゾドフォースはその中でも最大規模の穀物生産拠点である。
ゾドフォースが壊滅しても他の土地から小麦を買うだけだが、隣町であり同じ領主が治める町から仕入れる小麦のほうが安価で安定する。
それに、他の土地から小麦を買えばそれだけ物価が上昇することになり、低ランク冒険者などのような低所得者はかなり困ったことになるだろう。
それ以上に、ゾドフォースが落ちた場合、次はダンジョン都市が魔物たちに襲われることも考えられる。
「つまり、ゾドフォースが壊滅したら、ダンジョン都市にも大きな影響があるのですね」
「国内でも有数の穀物生産地だから、大きな影響があるだろうな」
ジョンソンから情報を仕入れた3人は、冒険者ギルドの周辺にあるカフェに入った。
「落ちついてスタンピードのことを話し合おうか」
このカフェは時々入ることから、ミニスカートのウサ耳ウェイトレスとも顔見知りになっている。
「僕はアイスティーで」
「私はアイスコーヒーとアップルパイだ」
「オイラはカフェオレね」
お洒落なカフェだが、客層は冒険者が多い。しかも女性冒険者より男性冒険者のほうが多い。
その理由は可愛いウエイトレスたちなのは言うまでもない。ミニスカートから延びるスラっとした足や、胸元が強調されたユニホームに男性冒険者たちが夢中になっているのだ。
ただし軽い女性不信のジュンは、可愛いウェイトレスに目もくれない。
しばらくすると、3人の前に飲み物が運ばれてくる。
ルルデには香ばしい匂いと、甘い香りのアップルパイも運ばれてきた。
「食料と薬品は領主様が用意してくれるから、僕たちは何をすればいいのかな?」
「特に何もないよね。あ、オイラは明日領主の屋敷で物資を受け取ってくるね」
収納系スキルを持つポルテは、物資運搬に駆り出された。
ジュンもアイテムボックスを持っているので、運搬を手伝ったほうがいいのかとジョンソンに聞いたら、収納系スキルを持っている者は少ないが不足していないのでジュンは行かなくて良いと言われた。
冒険者ギルドの指示でジュンのハイエナをしていた者たちが、そのお金を使ってレベル上げを行い収納スキルの容量が増えたのが大きいようだ。
それに領主に仕えている者の中にも、数人は収納系スキル所持者が居る。
「基本的には武器や防具をメンテナンスして、戦いに備えるって感じだから」
鉈とちょっとした革鎧のジュンとしては、今のところやることはない。
「とりあえず、僕のほうでも食料などを買っておくよ」
「買占めない程度にしておいてね」
「分かったよ」
ジュンとポルテが話し合っている間、ルルデはアップルパイを食べ終わってショートケーキを頼んでいた。
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●ジュン・ステータス
【ジョブ】効率厨
【レベル】36
【経験値】0/59200
【生命力】580/580
【魔力】995/995
【腕力】254
【体力】293
【知力】495
【抵抗】490
【器用】322
【俊敏】267
【スキル】チェーンスコア
【感覚スキル】聴覚強化Lv2 探知魔法Lv1
【補助スキル】時間短縮Lv10 魔法威力上昇Lv5 魔法並列発動Lv1 複合魔法Lv1
【下級魔法】エアカッター ショック
【中級魔法】トルネド サンダー ショックウェーブ ブリザード
【上級魔法】タイフーン サンダーレイン
【特級魔法】ライトニングバースト
【伝説級魔法】ライトニングフレア
【CHSC】16640
【身分】冒険者
【賞罰】
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●ルルデ・ステータス
【ジョブ】黄金戦士
【レベル】36
【経験値】0/59200
【生命力】590/590
【魔力】82/82
【腕力】246
【体力】251
【知力】41
【抵抗】87
【器用】82
【俊敏】246
【スキル】黄金気Lv4 黄金獅子 黄金無双
【身分】冒険者
【賞罰】
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新しく覚えた黄金無双は、体の動きを最適化してくれるスキルだ。
黄金気と黄金獅子に比べると地味に見えるが、その効果は絶大である。
たとえば、今までなら被弾する攻撃を受けたとしても、まるで柳の枝のようにダメージを受け流したり、躱したり、分厚い鋼鉄の鉄板のように強固な守りをしてくれるのだ。
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●ポルテ・ステータス
【ジョブ】解体士
【レベル】36
【経験値】0/59200
【生命力】200/200
【魔力】77/77
【腕力】84
【体力】82
【知力】123
【抵抗】41
【器用】128
【俊敏】41
【スキル】解体Lv4 目利きLv3 異空間保管Lv1
【身分】冒険者
【賞罰】
+・+・+・+・+・+・+・+・+・+
異空間保管Lv1は、異空間にアイテムなどを収納することができるスキルだ。
レベル1の容量は300Kgだから、ジュンが持っているアイテムボックスよりも多い。
解体士がポーターとして活躍するのはこの異空間保管を覚えてからだ。残念ながらレベル35で覚えるスキルだから、ここまでレベルを上げる人物は少ない。
ポルテのように冒険者になって仲間と狩りをすれば別だが、普通のポーターがレベルを上げるのには、莫大な資金が必要になるからだ。
尚、ラージフライ狩りでジュンのレベルが飽和しても、狩り続けたことでルルデとポルテのレベルがジュンと同じになった。