031_パーティー
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031_パーティー
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ケルピーのレベルは18であり、ジュンがEランクダンジョンで活動するのはレベル24になるまでだ。現在のジュンのレベルは21。3レベル分は余裕がある。
レベル21から経験値の必要ポイントが劇的に上がる。レベル20では6300ポイントだが、レベル21がレベルアップするのに必要なポイントは、1万1000ポイントだ。このおかげでケルピー狩りは長く続けられるはずだ。
ジュンたちは2日狩って1日休みを繰り返し、大量のケルピーを狩った。
ケルピーの魔石は1個大銀貨1枚、たてがみは銀貨6枚。
ジュンはレベル24になるまで、1日の狩りで5回、5250体、平均105体/回のペースでケルピーを狩りまくった。実に大金貨60枚以上を稼ぎ出した。
これだけの数を狩ったら、冒険者ギルドからたてがみは要らないと言われるかと思ったが、意外と「もう終わってしまうのか?」とジョンソンに聞かれた。
ジュンは苦笑して、「はい」とだけ答えた。
「そういえば、Cランクダンジョンのことだが、ジュンが言っていた条件に当てはまるダンジョンがあったぞ」
「本当ですか。ありがとうございます」
ジョンソンから紙を受け取る。
「このダンジョン都市から馬車で5日ほど行った、ラストゥークという町のダンジョンだ。そこに条件に合ったCランクダンジョンがある」
ジュンの出した条件は至ってシンプルなものだ。
・魔物が群れているエリアがある。
・魔物に魔法耐性、または雷耐性がない。
・他の冒険者に邪魔にならない狩場がある。
この3つの条件で、冒険者ギルドにCランクダンジョンを探してもらった。
もちろん、情報には対価を支払っている。
「Dランクダンジョンを踏破したら、Cランクダンジョンはラストゥークへ行きたいと思います」
次はアーマーライノを飛ばして、ダンジョンボスを狩りに向かうつもりだ。
それが順調に終われば、Dランクダンジョンだ。そのDランクダンジョンを踏破すれば、Cランク冒険者へランクアップの資格を得ることができる。
「あんな狩りをするのは、うちのCランクダンジョンでは無理だからな。まあ、気をつけて行ってこい。って、まだDランクダンジョンを踏破してなかったな。しっかりハイエナをさせてもらうぜ」
「おっちゃんも商魂逞しいね」
「ははは。このハイエナはギルドにも冒険者にもメリットがあるからな」
ポルテに呆れられているジョンソンだった。
「明日は休みを取り、明後日はEランクのボスに挑戦します。ですから、Dランクダンジョンに入るのは3日後になります」
「了解だ。こっちもそれまでに人員を用意しておくぜ」
Eランク冒険者とポーターは今日までだ。
3日後からはDランク冒険者とポーターを揃えることになる。
もっとも、それはジュンたちが順調にEランクダンジョンを踏破すればの話になる。
冒険者ギルドを出たジュンたち8人。
夕ご飯をどこかで食べようとなって、町に詳しいポルテの案内で食堂に入った。
「こうして8人で食事をするのは、初めてだね」
他のポーターや冒険者を含めた大人数で宴会をしたことはあるが、8人で食事をしたことはない。
「いつも朝から晩まで狩りをしているし、休みの日は疲れ果てているからね」
ポルテが解体数の多さを揶揄う。だが、そのおかげでポルテの解体士のレベルは22になっている。
ポーターでレベル22というレベルは異常な高さだ。
「いつも宿屋で1人で食べているから、こうやって大勢で食べるのは楽しいね」
ケットたちポーターは、母親が作ってくれた料理を家族で食べる。
しかし、ジュンは宿に帰って食事をすることが多い。ポルテも1人暮らしなので、帰る途中で何かを買って帰って寂しく1人で食べる。ルルデにしてもドルドが用意した(買った)ものなので、味気ない食卓だ。
「兄ちゃんは稼いでいるんだから、もっとお金を使わないとね」
「稼いでいるとお金を使わないといけないの?」
村で暮らしていたジュンは、あまりお金を使ったことがない。
まったくないわけではないが、村では物々交換で済んでしまうことが多かったし、そこまで裕福ではなかったからだ。
このダンジョン都市に来てからは、村に住んでいた頃では考えられないほどの金額を稼いだ。
これは大量に狩りができるジュンならではのもので、普通の冒険者ではマネできない。
「今日は僕が奢るから、たくさん食べてね」
「それじゃあ、いつもと変わらないぞ、主様」
ルルデは元々ジュンの奴隷だったので、食事代はいつもジュンが出していた。奴隷から解放されても、ジュンが出している。
ポルテが用意してくれているお昼も、ジュンがお金を出している。
狩りに参加しているポーターや冒険者の分まで弁当を用意する。それでも蓄財は増えていく。
「そう言えば、そうだね。ハハハ」
「戦闘だと悪魔のような兄ちゃんも、こういうところは抜けているんだね。アハハハ」
「抜けているってのは、心外だよ」
ジュンが頬を膨らます。
「あ、料理が運ばれてきたよ。食べよう!」
目の前に置かれた料理に話を振り、誤魔化したポルテ。
料理が冷めては美味しくないと、8人は料理を食べる。
「美味しいね」
「美味いな!」
「幸せだ~」
「美味いんだな」
「美味しいわ」
ケット、ジェン、クク、ピエク、メメヌが目尻を下げる。
「本当に美味しいよ!」
鶏肉を頬張ったポルテが、満足げな笑みを浮かべた。
「うん。とっても美味しいよ」
「歯ごたえがあり、噛むと肉汁が溢れ出てくる。美味いぞ、ポルテ」
ジュンとルルデも美味しい料理に舌鼓を打つ。
楽しい食事の時間だ。
「お、死神じゃねぇか。ヒック」
不本意な二つ名でジュンを呼ぶのは、酔っ払った冒険者風の男だった。
年齢は25歳ほどで、中堅冒険者と言える年齢だろう。
無精髭を生やし、身なりは小汚い。このように小汚い身なりの冒険者は珍しくない。
ダンジョンの中で野営することも多い冒険者は、どうしても小汚くなってしまうのだ。
ただし、ダンジョンから帰ってきたままで飲食店に入るのはマナー違反である。
店に迷惑がかかるため、冒険者ギルドも注意を促している。
法に触れることではないので、そういったマナーを無視する冒険者は一定数存在する。
「死神様がこんな安定食屋で飯か? ヒック。稼いでいるんだから、もっと高級な店に行けよな、ヒック」
店の人が居るというのに、安定食屋というのはかなり失礼な物言いだ。
しかし、酔っぱらっているため、そういったことの判断ができないのだろう。
もっとも、酔っぱらってなくても、こんな身なりで店に入るような者が常識を持っているとは思えない。
「おい、ボロム。店の中だ、止めておけ」
「うるへぇー。俺はなぁ、この死神野郎に言いたいことがあるんだ!」
仲間に止められたが、それを振り払ってジュンの横に立つ。
それをルルデが見過ごすわけはなく、酔っぱらった冒険者の顔面を鷲掴みにした。
「ぐぎゃぁぁぁっ」
「料理が不味くなる」
凄むルルデに、冒険者の仲間は2歩下がった。
鷲掴みにされている冒険者のほうは、顔にルルデの指がめり込んでいるのではないかと思うほどで、とても抵抗できる状態ではない。
「ルルデさん。下ろしてやってください」
「……主様がそう言うなら」
ルルデは酔っぱらいの冒険者を、まるで紙でも投げているかのように軽々と店の外に投げた。
「金を払って、店から出て行け。分かったか」
「は、はい!」
ルルデに凄まれて、仲間が代金を置いて店から出て行った。
ジュンにルルデのような迫力があれば、このように絡まれることはないだろう。だが、ジュンにそんな迫力はない。
「ルルデさん、やり過ぎですよ」
「せっかく美味い飯なのに、不味くなるじゃないか」
ルルデに反省はない。
むしろ、あのまま頭を握りつぶしてやれば良かったと思っているほどだ。
「とりあえず座りましょうか。店主さんにもご迷惑をおかけしました」
「いえ、私どもでは何もできず、却って申しわけなく思っています」
その後、店主がお礼だと言って、8人にエールをサービスした。
ジュンは酒を飲まないが、せっかくの心遣いなので飲んでみる。
「苦い……」
「ハハハ。主様はお子ちゃまだな!」
初めてのエールが苦くて顔をしかめるジュンを見たルルデは、笑みをこぼして大ジョッキを一気に呷って見せた。
「ップッハーッ!」
「姉ちゃんは、ガサツすぎるね。オイラくらいが丁度良いんだよ」
エールをちびちび飲むポルテ。
「そんなしみったれた飲み方なんてできるかよ!」
ジュンが飲まないならと、ルルデはエールをもらって飲んだ。
ルルデの豪快さに、ジュンは感心するばかりである。
「ところで、ポルテは冒険者にならないかな?」
「え? オイラ? オイラ戦えないよ」
「戦いは要求しないよ。ポーターだと、場所を移したらダンジョンに入れないと聞いたから、冒険者のほうがいいのかなと思っただけなんだ」
Dランクまでは、このダンジョン都市で活動する。しかし、Cランクダンジョンは他の町へ移らなければならない。
ケットたち5人はこのままダンジョン都市に残ることになっているが、ポルテはついて来てくれる。だから冒険者登録したほうが、都合がいいのだ。
「そうか、確かにそうだね……」
「もし、ポルテさえよければ、冒険者になって僕たちとパーティーを組もうよ。その方が色々と融通が利くし」
「うーん……。うん、分かった。オイラも冒険者になるよ。明日、冒険者登録してくるよ」
「うん。僕もつき合うから、一緒に行こう!」
翌日、ポルテも冒険者になった。ギルドの計らいで、ポルテはFランク冒険者になった。
ジュンとルルデがEランクなので、ポルテがFランクでも、3人でEランクダンジョンに入れるのだ。
パーティーを組んでいると、メンバーの過半数がEランク冒険者であればEランクダンジョンに入れる仕組みになっている。